魔導迷宮
「迷宮に行くならこれをやるよ、アルフォンス。俺のお古だけどな」
「これって、アルス兄さんが使っていた鎧だよね? 鬼鎧ってやつ」
「そうだ。北の森にすむ鬼から作ったこの鎧は、装着者の体の大きさにあわせて鎧の大きさも変化する性質があるんだ。巨人状態になったアトモスの戦士が着ても破れない。それとは逆に、子どものアルフォンスが着てもピッタリ合う」
「もらってもいいの?」
「ああ。ついでに鬼鎧には装備すれば力が向上する性能もあるからな。魔装兵ってのを相手にするのに役立つだろ」
貴族院に申請をして、僕もいよいよ迷宮に行ってみることになった。
そんな僕に対して、アルス兄さんがいいものをくれた。
昔、アルス兄さんも着ていた鎧だ。
鬼から作った黒い革鎧で、その性能は折り紙付きだ。
アルス兄さんにもらったその鬼鎧をさっそく着てみる。
最初は明らかに僕の体よりも大きかったのに、頭と袖を通してみるとスッと大きさが変化した。
そして、体に完全に合う大きさになる。
その状態で、腕を動かしたり、屈伸してみるが、動かしにくさなんかは一切感じない。
なのに、鎧を手で叩いてみると硬さもある。
防御力もあるということだ。
「ありがとう、アルス兄さん」
「いいよ。あ、けど、それだけじゃないぞ。防具だけだとあれだから、武器も持っていけ」
「これって、硬牙剣だよね? これもいいの?」
「ああ。別に普通の金属剣でもいいのかもしれないけど、こいつは硬いし、折れにくいからな。長持ちして、いつまでも使い続けられる。ほかの魔法剣は強すぎて体を鍛えるのには不向きだけど、これならいいだろ」
「やった。ありがとー」
鬼鎧だけじゃなく、硬牙剣までもらった僕は、うれしくてアルス兄さんに飛びつく。
おなかに顔を埋めるようにしながら、お礼を言った。
不思議だ。
アルス兄さんの体に顔をつけるようにしていると、ものすごく安心感がある。
なんでだろう?
やっぱり、ほかの人よりも頼りがいがあるからかな?
「喜んでもらえてなによりだ。俺の代わりに迷宮を楽しんでこいよ」
「あ、やっぱり駄目だったんだ。シャルル様に頼んでも許可が出なかったんだね」
「ああ。まったくけち臭いよな。俺も迷宮に入ってみたかったよ」
「じゃあ、代わりに僕がアルス兄さんに迷宮の中のことを教えてあげるよ。どんなのだったか話してあげる」
「そりゃ楽しみだ。けど、安全第一だぞ、アルフォンス。実戦経験を積めるっていっても、無理だけはするなよ。本当に強いやつってのは魔力が多いやつじゃない。生き残れるやつなんだからな」
アルス兄さんは結局迷宮には入れないみたいだ。
結構粘ってシャルル様にお願いしていたみたいだけど、許可が出なかったらしい。
だから、僕が迷宮に入って、そこであったことをアルス兄さんに教えてあげる約束をした。
そんなこんなで、準備を済ませつつ、迷宮に入る日が近づいてきたのだった。
※ ※ ※
ブリリア魔導国にある迷宮。
主に貴族や騎士、そしてその子らが中に入って訓練を行うその迷宮はブリリア魔導国の王都から少し離れたところにある。
王都から出て、馬車で半日移動した場所。
そこに迷宮があった。
魔導迷宮。
この迷宮はそんな名前がついている。
かつての研究施設があった場所に迷宮核が運び込まれ、そして、その研究施設そのものが迷宮になってしまった場所だ。
ある意味では人工的な迷宮であるともいえる。
そんな魔導迷宮は王都から南の位置にある山にあった。
どうやら、かつての研究施設はかなり変な場所にあったようだ。
その山はかつて鉱山だったようで、いくつもの坑道がある。
そんな坑道の奥深くに研究施設を作って、魔法陣を用いた極秘の研究が進められていた。
迷宮核が運び込まれたのはそんな坑道奥の研究室だったようで、そこにあった魔法陣から魔装兵という魔物が生まれ続けているらしい。
そして、その魔装兵は迷宮核を守るように坑道内を徘徊している。
「これがその魔導迷宮か。楽しみだな」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ、アルフォンス様」
そんな魔導迷宮に僕はアイと一緒に来ていた。
王都から離れた場所にあるこの迷宮に来るとどうしても日帰りは難しい。
そのため、魔導迷宮がある山のふもとの宿泊施設で宿をとってしばらく滞在するのが一般的だ。
貴族院の学生も学校に申請して、しばらくこの迷宮に行くことを伝えておいて王都を離れる。
が、そのときに身の回りの世話をする人を連れてくることもある。
僕の場合は、それがアイだった。
貴族院の学生がよく使用している宿に入り、準備を整える。
そうして、荷物をアイに預けてから、僕は魔導迷宮へと向かっていったのだった。
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