シャルルの帰還
「ただいまー。ちょっと見ない間に大きくなったわね、アルフォンスちゃん」
「あ、お帰りなさい、シャルル様」
「もう。私のことはシャルルお姉さまって呼んでって言ったでしょ? アルスちゃんは素直に呼んでくれたのに、アルフォンスちゃんのいけず」
毎日ずっと訓練をしていた。
もう時期的にはかなり寒くなっている。
けど、そんなことはお構いなしに、庭に出ていた。
アイの剣術を見稽古したり、自分で剣を振って魔力の流動をしたり。
そんな感じで生活しているとき、シャルル様が屋敷に帰ってきた。
ブリリア魔導国の第二王子であるシャルル様は、フォンターナからの留学生を受け入れて屋敷を貸し出してくれていた。
けど、シャルル様自身はしばらくこの屋敷にはいなかった。
ブリリア魔導国の軍の一つを指揮して、しばらく国境付近に出ていたからだ。
その軍がほかの軍と代わって帰ってきたのにあわせてシャルル様も王都に戻ってきたみたいだ。
「それよりも聞いたわよ、アルフォンスちゃん。最近、貴族院に行っていないそうね? 本当なの?」
「うん。勉強ならここでアイに教えてもらっているから、ちゃんとやってるよ」
「うーん。お勉強だけが貴族院に行く目的ってわけじゃないのよね。ちゃんとお友達を作るのもアルフォンスちゃんの仕事なのよ? お友達、いるの?」
「……会ったら話す人はいるよ」
「それじゃだめね。交換留学生としてこの国に来たアルフォンスちゃんたちはこの国で学べることを学んで自国にその知識を持ち帰ることも重要なことよ? でもね、それ以上にこの国の貴族や騎士の人たちと知り合って伝手を作っておくことも重要な役目なの」
「……わかってるけど」
「はぁ。まあ、こっちも話は聞いたわ。変なことを言ってくる子がいたんでしょ? うちの国は他よりも大きいから、他国の人間を下に見る貴族がいるのも確かでね。そういう家の子が留学生にちょっかいをかけることがあるの。ごめんなさいね」
「そんな。シャルル様が謝ることじゃないから」
「ううん。そんなことでアルフォンスちゃんが悲しんで貴族院に行かなくなることが私もつらいわ。私からも注意しておくから、また貴族院に行ってほしいな」
……貴族院か。
そういえば全然行ってなかったな。
シャルル様を心配させたみたいだ。
といっても、別にクレマン達に言われたことや喧嘩したことが原因で行かなくなったというわけじゃなかった。
ひとつのきっかけではあったが、単純にアイから訓練を受けているほうがおもしろかったというのがある。
本を読んでの勉強も、剣術を習うのも貴族院に行くよりもはるかに勉強になるからだ。
だから、ほとんどをこの屋敷で過ごしていた。
それに、留学生は僕だけじゃない。
僕以外の留学生もフォンターナ連合王国からこのブリリア魔導国に来ていた。
フォンターナの街で選ばれた秀才を送り出すといって、ここに来たからだ。
そのほとんどは僕と違って貴族院に通っている。
まあ、なかには行ってない人もいるみたいだけど。
「それより、シャルル様。軍を率いて国境まで行っていたんでしょ? どんなことがあったのか、僕聞きたいな」
「あら、興味あるの、アルフォンスちゃん?」
「もちろん。僕もいずれは軍に入って活躍したいから」
「あらあら。それじゃあ、お話しましょうか。といっても、今回は国境警備の一環として出ていただけで、そこまで大きな動きがあったわけじゃなかったんだけどね」
「そうなの? なんか小国家群に動きがあるとかって聞いたけど」
「驚いたわ。そんなことまで知っているのね。貴族院には行ってないけど勉強しているっていうのは本当みたいね。そうよ。最近は小国家群の中で勢力争いが増しているようなの。あそこはもともと大国の間にあるでしょう? うちで言えば教国との間の緩衝地帯の役割を果たしているのだけど、そこでの動きっていうのが大きな問題になるかもしれない。そういうのを調べたりもしたわね」
「大きな戦いが起きたりするのかな?」
「そこまでは今のところないと思うわよ。小国家群は本当に小さな勢力がひしめき合っているから。激しくなっているといっても散発的な小競り合いが多くなったって感じかしら」
「そっか。そんなものなんだね」
「ふふ。残念そうね。それにしても、結構強くなったんじゃない、アルフォンスちゃん? 前に見た時よりも体も大きくなってるわよ」
「本当? 毎日、しっかりご飯食べてよく寝てるからかな?」
「それはいいことね。軍人になりたいなら、なにより健康で丈夫な体じゃないといけないわよ。病気になりにくい、ケガしにくい人じゃないと務まらない過酷な仕事なんだから」
その後もシャルル様と話し続ける。
シャルル様はこの大きな国の王族なのに、僕には気安く話しかけてくれる。
それに、私的な会話では気楽に話してくれていいとも言ってくれていた。
だから、この屋敷内では家族と話すみたいに話ができている。
やっぱり、そんなシャルル様に心配かけるのは悪いかな。
近いうちにどこかで貴族院に行っておこう。
そんなことを考えながらも、そのあともしばらくはいろんなことをシャルル様と話し続けたのだった。
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