魔力の流動
「それで、次は何をするの? 今のゆっくり体を動かすのは続けていくって言っていたけど」
「はい。それではご説明いたしましょう。といっても、これまでのことを応用したことでもありますが。これからアルフォンス様にしていただくのは魔力の流動です」
「魔力の流動? 魔力を動かすってこと? それならもうできるけど……」
「今までアルフォンス様にしていただいたのは魔力の移動・分配です。体の一部に魔力を集めて、その部位を強化する。目や脳などがそうですね。ですが、そうではありません。流動というのは一か所にとどまることなく動き続けることを言います」
「……動き続ける」
「そうです。これからアルフォンス様には剣を使って体を動かす際に体内の魔力もあわせて動かしていただきます」
次の訓練に移るというアイ。
そのアイが言うのは、再び魔力の扱いについてだった。
だが、それは今までのものとは少し違うという。
魔力を分散するのではなく、移動し続ける。
それだけを聞くと、そんなに難しいことではないように思えた。
「体の動きにあわせて魔力を動かせばいいんだよね? えっと、それって例えば腕を上げるときには腕に魔力を集めて、足を使うときには足に魔力を集めるってことでいいのかな?」
「基本的にはそれであっています。実際にやってみてください」
アイに言われて、すぐにそれを試してみる。
一番慣れ親しんだ動きである降り下ろしをしてみた。
今まで通り、腕をゆっくりと持ち上げてそこから下へと切り下ろす。
その際に、体の中にある魔力も動かした。
「……難しいね」
「はい。自分の想像通りに体を動かすことと同時に、それに合わせて動きを補助するように魔力を使うことが重要です。例えば、腕を上げるときには腕だけの筋肉を使うわけではありません。その体を支えるための足にも力が入っていますし、体幹を支えるための背筋や腹筋にも力が入っています。それらすべての筋肉に対して、それぞれ必要な量だけの魔力を移動させるのです」
「……でも、体は動き続ける。見稽古の時みたいに目や脳に分配してそれを維持するだけじゃだめで、常に魔力を動かし続ける必要があるってこと、だよね?」
「その通りです。そのために、流動と表現しました。常に体の中で魔力が動き続けているさまを想像してください。容器に満たされた液体が、容器が動くのに合わせて中で動き続けるような滑らかさで魔力を動かし続けるのです」
本当に難しいことを言ってくるな、アイは。
口で言うほどこれは簡単な技術じゃなさそうだった。
そもそも、体を動かすときにどの筋肉を使っているかを理解していないとできないことでもある。
……そうか。
だから、見稽古で覚えた体の使い方を可能な限りゆっくり実践していたのかもしれない。
この魔力の流動をするのもゆっくり体を動かしたほうがごまかしがききにくい。
それに、今までじっくりと体の声を聴きながら、自分の想像している通りに体を操る訓練をしていたからこそ、この魔力の流動の訓練ができるようになる。
適当に動いているだけではこの訓練は成り立たない。
それからも、ゆっくりと体を動かし、剣を振り続けた。
自分の体が動いたときにどこにどう力が入っているかを考えながら、そこに魔力を移動し続ける。
そして、それを滑らかに動かせるようにしていく。
最初は全然できなかった。
見当違いのところに魔力を送っていることをアイに指摘されたり、あるいは必要なところに魔力がなかったりもした。
それにあちこちに魔力を送り、移動し続けるからか体の動きも魔力の動きもギクシャクしたものになっていた。
それをアイに見てもらいながら少しずつ修正していく。
ゆっくりと体を動かしつつ、滑らかに魔力を流動させられるように何度も繰り返していく。
このころになって、なんとなく僕の中で魔力の印象が変わってきたと思う。
それまでは、濃縮してどろどろと火をつけたら燃えてしまいそうな液体というのが、僕の中での魔力の姿だった。
だけど、最近は細かな砂みたいな印象になってきたんだ。
土を細かく砕いて、それをさらに細かくして、さらにそれをもっと小さくしていく。
そして、最終的にこれ以上ないくらい小さくした砂の粒みたいなものが僕の中の魔力の姿になっていた。
細かい砂は液体みたいに見えることがあるっていうのをアルス兄さんに聞いたことがあるような気がする。
小さな粒の魔力がたくさん集まって、液体みたいに体の中を動き続けていく。
剣を振る体の動きに合わせて、常に魔力が動いている。
そうすると、今までよりも体が動きやすくなってきたように思う。
それに素振りだけしかしてないけど、なんとなく剣を持っているときに腕の重さなんかも、今までと違って軽くなった、ような気がした。
もしかして、力がついてきているのかな?
そんな期待もしながらも、それからさらに数月ほど動作確認と魔力の流動の訓練を続けていったのだった。
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