いったん忘れろ
「……どうかな、アイ?」
「いいですね。合格です、アルフォンス様。これにて、アルフォンス様はご自身の力で【瞑想】と同様の効果を発現させられることでしょう」
「やったー。ようやくだね。長かったよ」
「頑張りましたね、アルフォンス様」
「うん。ここまで教えてくれてありがとうね、アイ」
やっとだ。
特訓が始まって二月以上かかってようやく僕は【瞑想】が使えるようになった。
といっても、魔法じゃないけど。
呪文を唱えてやる【瞑想】とは違って、自力で魔力を操作するだけだ。
けど、アイが言うにはほぼ同じ効果があるみたいだ。
これまでずっと訓練してきた魔力の扱い方。
体内に取り込んだ魔力を自身の魔力と練り上げて操作する。
特に普段は勝手に全身から抜け出るように漏れ出ている魔力を、体に留め続ける技術が【瞑想】のやり方だった。
全身に蓋をするようにして、魔力が漏れ出ないようにする。
そうすることで、疲れにくくなったり、体の疲労回復を早めてくれる。
けど、それを夜寝ているときにもできるようにするのが難しかった。
だって、寝ているときは魔力のことなんて忘れているんだから。
だから、アルス兄さんは呪文化して【瞑想】という魔法を作ったみたいだ。
日中に魔力操作をして体外に漏れ出る魔力を無くすときに、鍵となる言葉を言っておく。
そうすることで、【瞑想】という呪文を唱えたら一定時間は魔力の漏れを防ぐことができるようになる。
そうして魔法として完成したら、夜寝る前に呪文を唱えるのだ。
呪文を唱えてからなら、寝ているときにも魔力の漏洩がなくなって回復効果を高めてくれるということになる。
だけど、それと同じことをするのはアイに止められた。
呪文を作り上げるのはかなり時間がかかるらしいからだ。
一つの呪文を作るのに普通は一生かかってできるかどうかという感じらしい。
アルス兄さんはそんな時間のかかる呪文作りが得意だけれど、それでも一つ作るのに最低でも数ヶ月はかかるそうだ。
そこまでして【瞑想】と同じような魔法を作らなくても別にいいだろうということになった。
なので、僕は夜寝ている間にアイに魔力を見てもらっていた。
寝ていても無意識でも魔力の漏れを防げるように訓練したのだ。
魔力が漏れちゃったら指摘される。
けど、そんなことよりも寝ている間中、ずっと寝顔をアイに見られているっていうほうが僕としてはちょっと恥ずかしかったりする。
それが今後はなくなるってだけでホッとしたのは内緒だ。
「でも、本当にすごいね。魔力が勝手に漏れていくのを防ぐだけで、本当にこれだけ疲れ方が違ってくるんだね」
「そのようですね。私は疲れないのでわかりかねますが」
あ、そっか。
アイは人間じゃないものね。
不思議だ。
見た目は若くてきれいな女の人で、こうして話もできるのにアイは人ではない。
でも、僕にとってはそんなことはあんまり関係ないかな。
アイはアイだしね。
「それでは、お待たせ致しました、アルフォンス様。【瞑想】の魔術を手に入れたアルフォンス様の特訓内容はいよいよ実技も取り入れていくことになります」
「ほんとだよ。ずっと待ってたんだよ。剣を教えてくれるんだよね?」
「剣術でよろしいのですね? 戦うすべは剣に限らず、他にも色々とありますが……」
「ううん。剣がいいな。だって、剣が一番かっこいいし」
「かしこまりました。それでは、庭へと行きましょうか。剣術をお教え致します」
そう言って、アイが先導して庭へと移動する。
ドキドキする。
待ちに待った剣の訓練が始まったのだった。
※ ※ ※
「それでは私がまずお手本を見せましょう。よく見ていてくださいね、アルフォンス様」
「ちょっと待って。アイって本当に剣を使えるの?」
「もちろんです。剣に限らず、槍も弓も魔銃もできますよ」
「本当かな? 案外、もう僕のほうが強かったりとかはしないの? こう見えて、アイの特訓を受けるまで自分でも剣の稽古はしていたんだよ。バイト兄さんに教えてもらったこともあるんだから」
「ちなみにバイト・バン・バルト様はどのようなご指導をされていたのでしょう?」
「えっとね。剣を持ったら相手をしっかり見て、気合で押していけば勝てるって言ってた」
「……忘れてください」
「え?」
「バイト・バン・バルト様の指導内容は一旦忘れてくださいと申し上げました。それで勝てるのはバイト・バン・バルト様だからです」
「ええー。でも、バイト兄さんは強いんだよ。強い人の言うことのほうが正しいんじゃないの?」
「つまり、それは私ではなくバイト・バン・バルト様に剣の指導を受けたいということですか、アルフォンス様?」
「え、いや、そこまでは言っていないけど。だけど、ほら。僕ってアイが剣を使っているところって見たことないしさ」
「わかりました。でしたら、ご覧になっていただきましょう。剣を持ってください、アルフォンス様。模擬戦を行いましょう」
あれ?
もしかして、アイが怒ってる?
なんか顔はいつもみたいに冷静なんだけど、ちょっと怖い。
けど、やっぱり僕は強くなりたいんだ。
もし、アイの剣術が強くないんだったら、剣を教えてくれる人は強い人のほうがいい。
そう思って、アイの模擬戦を受けることにしたのだった。
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