ドーピング
「……ねえ、アイ。この勉強っていつまで続くの? というか、いつのまにか人の体のこと以外の勉強も始まっているし」
「ずっと同じ内容の本を読むのは疲れるのかと思い、他の本をご覧になって頂いているだけですよ、アルフォンス様」
「うん、それはまあいいんだけどさ。前よりも本を読むのは嫌でもないし。けど、いい加減次にいこうよ。ほら、お腹に魔力を集中させるんでしょ? 実は僕、自分でも練習してもうできるようになっているんだよね」
「そうでしたか。では、実際に見せていただきましょうか」
来る日も来る日も本を読みながらの勉強が続いていた。
脳に全身の魔力を集めて本を読む。
魔力操作の練習の一環だというからアイの言う通りにしていたけど、さすがにそれも飽きてきた。
というか、もうアイの特訓が始まって一月以上が経過している。
その間、ずっとやってきた特訓って魔力についての訓練か、本を読むばっかりだった。
いい加減、体を動かしたい。
そう思った僕は、アイに言われる前に自分で練習していたのだ。
人の体が詳しく説明された人体解剖図の本。
その本によると、人は口から取り入れた食べ物を消化して、お腹にある腸で吸収するらしい。
その腸に魔力を集中させる。
脳に魔力を集中させると考える力や覚える力が強くなった。
それと同じように、腸に魔力を集めると吸収する能力が上がるらしい。
体の奥深くに意識を集中させる。
そして、以前よりも速くできるようになった魔力の移動を行う。
お腹にある腸に魔力を集めて、腸全体を包み込んでいく。
「……どうかな?」
「素晴らしいですね、アルフォンス様。合格です。これなら、摂取した食物からより効率的に魔力を取り込むことが可能でしょう」
「やった。それじゃあ、次は【瞑想】の練習をすればいいんだよね?」
「いえ、その前にもう一つ、やっていただきたいことがあります。そのまま、腸に魔力を集めた状態でこの飲み物を2つとも飲んでいただけますか?」
僕の魔力を観察していたアイ。
そのアイは腸に魔力を集めた僕を見て合格をくれた。
やった。
アイに褒められた。
それに、これができるようになれば、ようやく次は【瞑想】の練習ができる。
そう思ったのだが、アイは【瞑想】の練習の前に違うことをしようとしてきた。
なんだろう?
アイが用意してきたのは2種類の飲み物だった。
「これってなに? これを飲めばいいの?」
「はい。まずはこちらをどうぞ、アルフォンス様」
「こっちだね。……う、ちょっと苦いね」
「それは、魔力浸透薬です。旧パーシバル領にある迷宮街で使用されているもので、飲むと一定時間、魔力を体に取り込みやすくしてくれる効果があるのですよ」
「へー、そんな薬があったんだ。そんな便利なものがあるなら、最初からこれを使ってくれればよかったのに」
「それはいけません。最初からこの薬に頼ると、薬がなければ魔力を取り込む力が育たなくなりますよ。あくまでも、その薬は補助的なものとして使用するほうがよいでしょう」
そんなものかな?
かなり苦い薬である魔力浸透薬を飲み干すと、今までよりも簡単により多くの魔力が吸収できるようになったと思う。
けど、言われてみれば訓練せずにこれができれば、多分僕は一月以上も魔力を吸収するための訓練を頑張れなかったかもしれない。
あくまでも、自分の力でできるようになってほしいからこそ、アイは今までこの薬を使わなかったのか。
そう納得した僕は、もう一つの飲み物に目を向ける。
「これは知っているよ。僕、見たことある。魔力回復薬だよね?」
「はい、そのとおりです。これは飲むと魔力を回復してくれるものです。これを飲んでいただきます。アルフォンス様の魔力を腸に集めて吸収能力を高めた状態で、魔力浸透薬を補助として使い、魔力回復薬から魔力の吸収する感覚を掴み取ってください。そうすれば、より理解が深まるでしょう」
「そっか。普通の食べ物からでも魔力が吸収できるけど、魔力回復薬のほうがわかりやすいってことなんだね。よし、それじゃ飲むよ」
グイッと一気にグラスに入った魔力回復薬を飲む。
これは今までに何回か飲んだことがあった。
けど、そのときは魔力が回復したということはわかっても、体の中でどんなふうに魔力が回復しているかは全然わかっていなかった。
けれど、今は違う。
お腹に集めた魔力が反応するのか、暖かな魔力がお腹の中で染み渡って体に取り込まれる感覚がわかった。
そっか、こんなふうに口にしたものから魔力を取り込んでいたのか。
今まで何気なくしていた食事でも、いろいろ知らなかったことがあったんだと気付かされる。
そうして、取り込んだ魔力を自分の魔力と混ぜ合わせ、練り上げていく。
もともと僕の体から発生していた魔力と空気中の魔力、そして食べ物や飲み物から取り込んだ魔力を混ぜ合わせて、それを濃くしていく。
なんとなく、濃くすることで今までよりも魔力の量が減る気がしたが、それでもいい。
魔力の質を上げるほど量は減ってしまうけど、問題ないとアイが言っていたからだ。
それに練り上げて凝縮された魔力はお腹の中にある魔石に注いで溜めておける。
だから、僕はそれから常に体に取り入れた魔力を一つ残さず吸収して、自分の魔力として使えるようにためるようにしていった。
こうして、二月もした頃には、前までとは明らかに違う魔力の質と量、そして魔力の扱い方を身につけることに成功していたのだった。
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