勉強の重要性
「いいですね。かなり自然に魔力の練り上げを行えるようになってきていますね。それでは、次の段階へと進みましょうか、アルフォンス様」
「やった。それじゃあ、やっと【瞑想】の練習に入るの?」
「いいえ。まだです。次に行うのは、これまでと同じく、体外の魔力を体内へと取り入れることです」
え?
どういうことだろう。
これまで、ずっとその訓練をしてきたんじゃないんだろうか?
僕はもう呼吸をするときに、自然に空気中の魔力を取り込めるようになっていると思う。
アイもそう言ったはずだ。
「どういうこと? 今までのとは違うの?」
「はい。これまでは体の外にある空気中の魔力を体内へと取り込んでいました。今回から始める特訓では、空気ではなく別のものから魔力を取り入れることにします」
「別のもの? 他にも魔力を取り入れられるものがあるの?」
「あります。実はそれは毎日アルフォンス様が体の中に入れているものでもあるのですよ。わかりますか?」
アイが質問してくる。
最近になって気がついたけど、アイはよく僕に質問を投げかけてくる。
最初はどうせ教えてくれるなら、さっさと言ってくれればいいのに、と思っていた。
だけど、そうじゃないのかもしれない。
アイは僕に言われたことだけをやるようになってほしくない、と思っているのではないか。
自分で考えて、正解を見つけてほしいようだ。
でも分からなかったら聞いてもいい。
聞けばすぐにそれを教えてくれる。
だけど、それならアイを驚かせたい。
正解を自分で導き出して、あっと言わせたい。
そう思った僕は、しばらくウンウン考えていた。
そして、ようやく気がつく。
空気とは別に毎日僕が体に取り入れているもの。
それは鼻ではなく口から体内に入ってくるものだった。
「わかったよ、アイ。答えは食べ物だ。そうだよね?」
「そのとおりです、アルフォンス様。生きとし生けるものはすべて食事を摂取します。そして、その食べられるものにもまた魔力は含まれている。つまり、人は皆、意識していようとしていなかろうと、食事を通して魔力を体に取り入れているのですよ」
「うーん。そう言われるとそうかも。今まで全然考えたこともなかったよ」
「ごく当たり前の行動だからこそ、見逃しがちなのでしょうね。ですが、そこに気がついたのがアルス・バルカ様です。アルス・バルカ様は呼吸によって大気の魔力を取り込むだけではなく、食事からも魔力を取り入れることができることに気が付きました。そこで、より効率的に食事から魔力を取り入れられないかと研究したのです」
また、アルス兄さんか。
すごいな。
よくそんなことに気がつくなと思った。
ご飯を食べるときに、いつもそんなことを考えていたんだろうか?
「食べ物から魔力かー。でも、それってどうしたらいいの? 呼吸するときみたいに、食べ物を噛むときにでも集中すればいいのかな?」
「残念ながら違います。人は口に食べ物を含んで噛み、その後、飲み込みます。ですが、それらはあくまでも形のある食べ物を小さく砕いて、取り入れやすくしているだけなのです。それらの行為は消化といいます。ですが、体内に取り込む際には吸収の働きに気をつけねばなりません」
「吸収?」
「はい。そこで、お勉強が必要なのですよ、アルフォンス様。消化と吸収について理解するためには、人体の構造と生理学を理解しなければなりません。食べ物が口で噛んで小さくなった後、どのようにして体内を移動するかを学ぶのです」
「ええー。僕、強くなりたいんだけど。勉強はちょっと嫌だな」
「強くなりたいのでしょう? でしたら、この食事からも魔力を取り込むことは重要です。これができないようでは、クレマン様には絶対に追いつけないでしょうね」
うぐ。
そんな言い方は卑怯だ。
だけど、そう言われると逃げられない。
だって、強くなりたいと言ったのは僕なんだから。
あんまり本を読むのは好きじゃないんだけどな。
それなら、剣を振っているほうが断然楽しい。
けど、やろう。
勉強は嫌だけど、アイは教えるのが上手みたいだし、もしかしたら勉強もわかりやすく教えてくれるかもしれない。
そう思ったのは、そのときだけだった。
次の瞬間、アイは魔法鞄からものすごい分厚さの本を取り出したからだ。
よく知らないけれど、アイが言うには教会でよく読まれている人体の構造についての本らしい。
それを見せられながら、体の部位について説明されていく。
文字が多いし、難しい。
僕はただ、強くなりたかっただけなのに。
どうしてこんな勉強漬けになるんだ。
そう思いながらも、アイから勉強を教わったのだった。
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