魔力の練り上げ
「【瞑想】は体外へと無意識に流れ出して消耗している魔力を漏れ出ないようにする技術のことです。その効果は多々ありますが、そのなかでも重要なのがやはり肉体的・精神的疲労を一晩で回復してしまうことにあるでしょう」
「ふんふん」
「先程もいいましたが、強くなるためには覚えねばならないことが多々あります。そして、肉体を鍛えることも重要です。例えば、同じ魔力量で同じ武術に精通しているとした場合、強いのは肉体を鍛え上げていたほうであると言えますので」
「鍛えるってことは走ったり、素振りしたりするんだね?」
「そうです。肉体を鍛え上げて強靭な体を手に入れることも大切ですからね。それを効率よく行うためにも、魔力の扱い方を覚えて頂く必要があるのです」
なるほど。
そう言えば聞いたことがある。
【瞑想】という魔法を使えば、一晩寝ればどんな疲れも取れるって。
だから、それができれば毎日きつい訓練を続けられる。
そのために、自分の体の中で魔力をうまく使える必要があるのか。
「わかった。それじゃあ、魔力の使い方を教えて、アイ」
「かしこまりました。それではこれより、魔力操作の訓練を始めていきましょう」
こうして、アイによる最初の特訓が始まったのだった。
※ ※ ※
「まずは、アルフォンス様には魔力を体内にて練り上げていただきます」
「練り上げる?」
「はい。まずは意識をお腹に集中してください。そうです、おへその下あたりです。まずは、そこに自身の肉体から発する魔力を感じ取ることから始まります」
「……おへその下。これかな? なんか、ポワポワと温かい感じがするものがあるよ」
「いいですね。アルフォンス様はすでにアルス・バルカ様より、雫型魔石を腹部に埋め込む処置を受けているのでわかりやすいのでしょうね。そうです。そこにある魔力を感じ取れれば、次の段階へと進みます」
ブリリア魔導国の王都にあるシャルル様のお屋敷のひとつ。
留学している僕たちはそこに泊まって生活していた。
そのお屋敷の中の一室で、柔らかな寝台の上に横になった状態で僕は自分の体に集中する。
お腹の中にある魔力に全意識を集中させていた。
おへその下に魔力を感じる。
多分、これのことだろう。
以前に兄さんに雫型魔石というのを入れてもらったことがあるからか、すぐに魔力の把握ができた。
「多くの者はそのお腹から発生する自身の魔力を用いて体を動かしています。それは、クレマン様などを始めとしたブリリア魔導国の貴族や騎士の方もそうです。ですが、その方々と差をつけるために、魔力をさらに濃いものにしていきましょう」
「魔力を濃くするんだね。どうやればいい?」
「ゆっくりと深呼吸をしてください。そして、大気に含まれている魔力を感じ取るのです。アルフォンス様が吸う空気にも魔力が含まれています。その魔力を体の中に取り込み、そして自分の肉体にある魔力と混ぜていくのです」
混ぜる?
息をして吸い込んだ空気の中にある魔力を身体に取り込んで、自分の魔力と混ぜる。
アイには体を緊張させずに、落ち着いてやるように言われた。
いずれはそれを何も考えずに無意識にできるようにならなければいけないから、と。
横になった状態で、まるで寝そうになるようなほど緊張を解いて、呼吸に集中する。
すー、はーと大きく、けれどゆっくりと呼吸を繰り返す。
そして、そのときに鼻から入ってきた空気に含まれる魔力をすべて体に取り込んで、それをお腹の中で魔力と混ぜ合わせた。
それまでは暖かく、けれどポヤポヤとしたはっきりとしない魔力が少しずつ変わっていくような感じがしてくる。
「いいですね。それでは、さらにその次の段階です。中と外の魔力を混ぜ合わせたら、次にその魔力を練り上げるのです。お酒の蒸留と同じですね。酒精の薄いお酒を蒸留を繰り返して、酒精の濃いお酒に変える。何度も何度も繰り返して、どんどんと濃い魔力にしていくのです」
魔力を練り上げる。
父さんやヘクター兄さんが好きなお酒。
ブリリア魔導国にあるような子どもでも水代わりに飲むような薄いものではなく、火を近づければ引火して燃えてしまいそうな程のお酒を想像する。
それまではポヤポヤした空気みたいな魔力だったが、それをどんどんと液体のように重く濃いものへと変えていく。
「上手ですよ、アルフォンス様。さすがに、あのお二方のお子ですね。お父様はもとより、お母様も魔力の扱いに長けていましたが、その力を受け継いでいるのかもしれませんね」
目を閉じて自分の体に集中している僕のそばで、アイがそういった。
褒められた。
嬉しい。
僕の父さんや母さんはそんなにすごいんだと嬉しくなる。
僕が魔力を上手に扱えるのは両親のおかげだと、アイは言ってくれたからだ。
けど、そうなんだ。
知らなかったな。
父さんはよく戦場で活躍したんだよって言って話をしてくれたけど、お母さんはあんまりそういう話を聞いたことがなかった。
だけど、アイが褒めるほど魔力の扱い方が上手だったんだ。
アイの言葉を聞きつつも、バルカニアにいるお父さんやお母さんのことを思い出す。
そして、両親に感謝する。
こうして、僕は体の中の魔力をひたすら濃く、ドロドロとした、今にも火が付きそうなお酒のような魔力へと変えていく訓練を続けたのだった。
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