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魔力の質と量

「オラァ!」


 硬化レンガの棒を振り回す俺から距離をとろうとする農民兵たち。

 その顔は恐怖で引きつっていた。

 そりゃそうだろう。

 どう見ても子供の俺が大人たちを吹き飛ばしているのを見れば明らかに異常だからだ。

 そのせいか、俺の周りを遠巻きにして見ているだけで近付こうとするものはいない。

 それならそれでいいだろう。

 俺の目的は目の前の相手を倒すことだけではないのだ。

 あくまでもこの戦いで勝利を得ること。

 ということは指揮官を倒さなければならない。

 俺から逃げるようにしてフォンターナ軍の中へと戻っていった男を追いかけることにした。


「おい、アルス、ちょっと待て。一人で突っ込むなよ」


 だが、そこで俺を引き止めるものがいた。

 俺の後方から追いかけてきていたバイト兄だ。

 俺と同様にヴァルキリーに騎乗して棒を振り回しながら近づいてきた。


 その姿とさらにその後方を見て状況を把握する。

 どうやら1人で突っ込みすぎていたようだ。

 俺がフォンターナ軍の先頭部隊を食い破って突入することには成功しているものの、バルカ勢とは距離が開いてしまっていたのだ。

 これは俺が騎乗している、という理由以外にもある。

 それは俺とともに戦うバルカの人たちの強さにあった。


 俺が村の連中にバルカの姓を与え、魔法を授けたバルカ勢だが俺と同じように相手を吹き飛ばすほどの力はなかったのだ。

 【身体強化】と【散弾】という魔法を使っているおかげでフォンターナ軍の農民兵よりも一人ひとりは強い。

 だが、圧倒するというほどでもなかったのだ。


 俺が授けた魔法、とくに【身体強化】は確かに身体能力が向上する。

 だが、強化倍率としては日常生活で今までよりもちょっと重いものが持てるようになる、という程度のもので超強化というような類のものではない。

 が、それを差し引いても子供の俺よりもパワーがなさすぎるような気がした。

 これはもしかすると魔力の質が関係しているのかもしれない。


 俺も小さい頃はそうだったが、基本的に魔力はその人が自然発生しているものを垂れ流したままのことが多い。

 ゆらゆらと蒸気があがるような、湯気のように立ち上っている程度に過ぎない。

 だが、俺はその魔力をより強力にするためにいろいろと試行錯誤をしていた。

 空気中の魔力を取り込み、単純に魔力量を増やすというもの。

 その取り込んだ魔力を本来自分が持つ魔力と練り合わせるというもの。

 さらにその練り合わせた魔力を腹の中にある胃腸に集中させて、普段の食事で食べ物から取り入れる魔力を増やすというもの。

 そんな風に魔力の量と質をひたすら向上させ続けてきていたのだ。


 おそらくだが、他の人はそこまで魔力についていろいろなことをしていないのではないだろうか。

 あくまでも体から自然に発生する薄い魔力を利用しているだけ。

 だから、俺が名付けたあとも【壁建築】や【道路敷設】といった高い魔力が要求される魔法が使用できないものもいたのだ。


 魔力の質を向上させれば、まだ肉体的に成長しきっていない子供の体でも大人を吹き飛ばすことができる。

 ということは、魔力の質と量がその人の戦闘力に直結してくるのだろうか。

 見たところ強化した俺と一緒に行動できそうなやつは限られていそうだ。


「バイト兄、バルガス、2人は俺と一緒に来い。父さんとマドックさんは他の連中を率いて俺たちのあとを追いかけてきて」


 昔から俺が魔力の訓練法を教えて身体強化が得意なバイト兄、そして戦場での経験から防御力が高く【散弾】を食らってもピンピンしているバルガス。

 この2人は一騎当千になりえる。

 2人とともに先頭に立って切り込んでいくことにした。


「目指すのは敵軍中央の鎧を着た連中だ。あそこに行くぞ」


 そうして、狙うのはおそらく貴族連中の一団である鎧集団。

 あれは強敵だ。

 金属製の鎧を着ていると言うだけでもこちらにとっては脅威だ。

 なんといっても【散弾】が効きづらいのだ。

 いくら硬いといっても石を飛ばす魔法である【散弾】では金属鎧を満足に貫けずダメージを与えられないだろう。

 が、それ以上に鎧を着ている連中は魔力量が多かったのだ。


 俺の目を通して見える一人ひとりの魔力量。

 訓練の賜物か、あるいは何らかの秘訣があるのか、鎧を着ている連中は全員魔力が高い。

 当然その強さは農民兵の比ではないだろう。

 だが、だからこそそいつらを狙う意味がある。

 俺やバイト兄、バルガスはこちらにとっては主力であり、精神的な支柱だ。

 それと同じようにフォンターナ軍にとっても鎧連中は農民兵にとっての心の支えであるはずだ。

 やつらを崩せば農民兵はまとまりを欠くはず。

 そう考えた俺は2人とともに農民兵には目もくれずに敵軍中央へと目指して進んでいったのだった。

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