アルフォンスの渇望
「おい、嘘つき。お前の家族が王とか、嘘つくなよ」
「やーい、アルフォンスの嘘つき野郎〜」
「う、嘘じゃない。兄さんは本当に王様になったんだ」
「そんなの嘘に決まってんだろ。だって、お前は弱いじゃないか。嘘つきにはこうしてやる。俺がお前を叩き直してやる」
ブリリア魔導国の王都。
そこにある貴族のための学校で、僕は同じ学級の子にそう言われた。
嘘つき野郎と言われて、みんなから叩かれたのだ。
違う。
嘘なんかじゃない。
アルス兄さんは本当に王になったんだ。
天空を統べる王。
フォンターナ連合王国で王として認められ、そして自分の国を治めている。
だけど、ここではそれをきちんと理解してくれる人がいなかった。
理由は簡単だ。
僕が弱かったから。
同じ学校に通っている中でも僕は魔力量が人よりも少なかったらしい。
本当に僕の家族が王ならば、王族であるはずの僕も王と同じくらいの魔力量がないとおかしいらしい。
だって、この国ではそうだから。
王族は皆魔力量が多くて、そして、その魔力量にふさわしい強さを持つ。
だから、王族だったら強くないとおかしい。
そう言うのだ。
そして、もし本当に僕が王族なのだったら、貴族や騎士の子に力比べをしても勝てるはず。
そう言って、僕に殴りかかってくることもあった。
それを僕はすべて迎え撃ち、そして負けている。
勝てなかった。
どうしても勝てない。
悔しい。
それに許せない。
僕は絶対に嘘なんかついていない。
兄さんは本当に王になったんだ。
「だったら、お前の兄貴が嘘つきなんだよ、アルフォンス。お前の兄さんは嘘つき野郎だ」
「よくも言ったな。取り消せ。今の言葉を取り消せよ、クレマン」
「やだね。取り消してほしかったら俺に勝ってみろよ、アルフォンス」
僕を囲んでいた子どもたちの中でも一番強いクレマン。
そのクレマンの言葉にカッとなって、僕はクレマンに殴りかかった。
だけど、駄目だった。
僕はまた負けて、あいつらの間違いを取り消させることができなかった。
※ ※ ※
「また喧嘩をしたのですか、アルフォンス様?」
「……してない」
「そうですか。それでは、その傷はなんですか?」
「……なんでもないよ。アイには関係ないだろ」
喧嘩をして、そして負けた。
叩かれた場所が痛い。
でも、あいつらもやりすぎてはいなかった。
僕が外国からの留学生だからだ。
多分、あいつらも親にやりすぎるなとかそんなことを言われているんだ。
だけど、それが余計に腹が立つ。
だって、それは僕があいつらに情けをかけられたことを意味するのだから。
許せない。
僕を嘘つきだと言ったあいつらが許せない。
見返してやる。
絶対にあいつらを見返してやる。
そのためには強くならなくちゃいけない。
僕を嘘つきだと言ったクレマンたちを見返すことができるくらいに強くならないといけない。
それになにより、アルス兄さんのことを嘘つきと言ったことだけは絶対に許せない。
「強くなりたいですか、アルフォンス様?」
「……え?」
「強くなりたいですか、と質問いたしました。アルフォンス様は強くなりたいとお考えなのではありませんか?」
「……うん。強くなりたい。僕は、強くなりたいんだ。誰よりも、この国の誰よりも強くなって、嘘つきと言った奴らを見返したい」
「では、辛いことにも耐えられますか? 強くなるために、どれほどつらい経験をしても、頑張ることができますか?」
「できる。強くなれるなら、僕はどんなことでもやってやる」
「それでは、僭越ながらこのアイがアルフォンス様を鍛えて差し上げましょう」
「アイが?」
「はい。ご不満ですか、アルフォンス様?」
「……ううん。そんなことないよ、アイ。さっきも言った。強くなれるなら、どんなこともやるよ」
「かしこまりました。それでは、今この時をもって、私アイはアルフォンス様のお世話係から教育係へと変わります。よろしいですね?」
急にアイが僕の教育係になると言い出した。
アイって戦えるのかな?
でも、僕はどうしても強くなりたかった。
だから、アイの言葉に即答したんだ。
こうして、この日から僕はアイに特訓をつけてもらうことになったのだった。
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【備考】
ガロード暦6年夏
アルフォンス5歳
場所・ブリリア魔導国





