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バルカの長兄

「あ、こんなところにいたんだ。探したんだよ、ヘクター兄さん」


「アルスか。どうしたんだ?」


「いや、このバルカ城を改築しようって話があったでしょ? これは俺が騎士になったときに造った城だけど、天空王になったことを記念してもうちょっと大きくしようかってさ。それで、ヘクター兄さんにもいろいろと仕事を頼もうかと思ってたんだけど、もう飲んでたんだね」


「ああ、悪いな。ここからの眺めがいいから、たまにこうやって風に当たりながら酒を飲んでるんだよ。どうだ、アルス? お前も一緒に飲まないか?」


「うーん、まあいいか。俺も20歳になったことだしね。付き合うよ、ヘクター兄さん」


 年が明け、俺の戴冠式が終わった。

 その後、フォンターナの街では10日以上もお祭り騒ぎが続いた。

 城の中では俺や他の王に対してずっと人が訪れ続けて、挨拶していく。

 そして、街の中では飲んで踊って食べてという感じで、だれもが浮かれていた。


 それが終わってしばらくしてから、俺は天界バルカニアへと戻ってきていた。

 今はバルカ城で生活している。

 が、この城も少し手を加えることになった。

 俺が騎士になった当初に造った城で、当時としては村2つしか領地を持たない騎士に不釣り合いなほどの立派な城だと評判だった。

 だが、王の住む城としてみるといささか手狭ではある。

 対外的な問題として、もうちょっと見栄えのいい城にしてはどうかという意見が出てきたのだ。


 その工事の指揮をお願いしようと思って、俺は兄であるヘクター兄さんを探していた。

 どうやら、そのヘクター兄さんはバルカ城の中でも高い場所にある街の風景をひと目で見られる部屋がお気に入りだったようだ。

 そこで一人で酒を飲みながら景色を楽しんでいた。


 そんなヘクター兄さんにすすめられて、俺もそばの椅子に座って酒をもらう。

 別にこの世界でそんな決まりはないのだが、今まではあまり酒を飲んでこなかった。

 が、20歳になったことだし今日くらいは付き合って飲もう。

 そう思って、銘酒カルロスという度のきつい蒸留酒を氷の入ったグラスに注いでグッとあおる。


「あー、やっぱきつい酒だな。よくこんなきつい酒を父さんやヘクター兄さんは普段から飲んでいられるね。体は大丈夫なの? 飲み過ぎには気をつけなよ?」


「……ありがとうな、アルス」


「ん? なにが?」


「いや、俺は前からお前に言っておきたかったんだ。いい機会だから改めて礼を言わせてくれ、アルス。ありがとう。お前には感謝している」


 景色を見ながら酒を飲んでいたら、急にヘクター兄さんがそう言ってきた。

 どうしたのだろうか。

 割と真剣な目をしてこっちを見てきている。


「昔話をしようか。と、言ってもお前は覚えていないかもしれないけどな。これは俺が子どもの時のことで、お前がまだ生まれる前のことだ。バルカ村はものすごい不作が続いていたんだ。いや、バルカ村だけじゃない。他の村もフォンターナ領全体、あるいは他の貴族の土地もそうだったと聞いている。とにかく、どこも不作で食べるものが全然ないのが何年も続いていたんだ」


「ちょっとなら俺も覚えているよ、ヘクター兄さん。俺が赤ん坊のときもそうだったろ? 食うもんがないから母さんも母乳が出なかったって聞いているしな。俺が3歳くらいまでそんな状態が続いていたっけ?」


「よく覚えているな。そうだ。その時の不作はずっと続いていた。だけど、それを救ってくれたのがお前だ、アルス。まだ3歳になったばかりの子どものお前がいきなり畑を耕し始めて状況が変わった。あのときから、俺たちは腹をすかせて貧困にあえぐことがなくなったんだ。あのときのお前のおかげで今の俺たちの生活はある。本当に感謝しているんだぜ」


「……いいってことよ、ヘクター兄さん。それにあのときのことは俺も感謝しているんだよ? ヘクター兄さんが父さんや母さんを説得してくれていたでしょ? 3歳の子どもが畑で土いじりをするって言い出したときに、2人を説得してくれなかったら俺は畑に出られなかった。もしそうなっていたら、多分、【土壌改良】なんかの魔法もなかったかもしれないしね」


 そうだ。

 父さんや母さんは割と理解があって助かったのだが、それでも小さな子どもを家の外で自由に土いじりさせることに全く抵抗がなかったわけではない。

 それを可能にしてくれたのが、俺の5歳年上の兄の存在だった。

 ヘクター兄さんが両親を説得し、なにかあったら手伝うと言ってくれたからこそ、家の裏の畑で俺は自由にできていたのだ。


「それは当然だよ。なにせ、俺だけはお前が普通のこどもじゃないってことをお前が生まれる前から知っていたからな」


「……たしかに。俺がこの世界に生まれたのはヘクター兄さんのおかげだしね」


 そう言えば、久しぶりにヘクター兄さんとこうして話すな。

 昔はよくこの話をしたものだ。

 小さな貧乏農家として生まれて、小さな家で体を寄せ合って寝ていた。

 そのときに、よくヘクター兄さんと話していた。


 俺がこの世界に別の世界の知識を持ったまま転生してきたのは偶然ではない。

 兄であるヘクター。

 彼がその原因だった。


 バルカ兄弟の長男であるヘクター兄さんによる魔術。

 それこそが俺がこの世界に転生してきたきっかけだったのだ。

 転生の魔術。

 兄弟でそれぞれ別の魔法を生み出しているバルカ兄弟の中でも一番特異な現象を引き起こすヘクター兄さんがいたからこそ、俺の物語は始まったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 686話に至るまでセリフがなく、農業が好きなくらいの情報しかなかった兄さんがこんな重要人物だったとは
[一言] これはもう、父上と母上にも何かあるに違いない 兄上ほどじゃないけど不自然に影が薄かったし
[一言] もうここまで来ると母親にも妙な秘密が有ってもおかしくねえぞ 父親?ただの呑兵衛だろ?(目反らし
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