独立準備
「おーい、いたいた。ちょっといいか、坊主?」
「おう、どうしたんだ、おっさん?」
「いや、いつまでも戻ってこない坊主を呼びに来たんだよ。グランと一緒に研究するのもいいけど、坊主にはほかにもやることがあるだろ。バルカ城に戻ってきてくれ」
「わかった。じゃあ、グラン、あとの研究は頼んだぞ」
「任せるでござる。きっとアルス殿が気にいるものを作ってみせるでござるよ」
俺はグランの研究棟に来て一緒に研究を続けていた。
が、そこにおっさんが呼びに来た。
いい加減戻ってこいという感じで、魔装兵器を夢中で改良している俺に少々呆れているようだ。
呼び出しを食らった俺はすでに思いつくプラモデルの参考図を描き出しつくしていたので、あとのことをグランに任せて城へと戻る。
「それで? 他にやることってなんだ、おっさん? なんか喫緊の仕事ってあったっけか?」
「もちろんだ。というか、今すぐに手を付けておくべき問題ばかりだ」
「何かあるっけ?」
「おいおい、しっかりしてくれよ、坊主。坊主は今度、天空王になって国を造るんだ。そのためにしておくべきことがいくつもあるだろう。特に大きい問題が2つある。それはこの国の問題と、残された地上での問題だ」
「えっと、それじゃこの国の問題を先に取り掛かろうか。そういや、独立した国になるわけだけど、どうすりゃいいんだ。何を準備しておくべきなんだろうな」
「決まっているだろう。天空王国の国土はここバルカニアと天空霊園だ。ちなみにだが、東方にあるバリアントも一応入っているが、あそこは人が住む場所というよりは拠点扱いだな。まあ、それはいい。国とは治めるべき者がいて、土地があり、そして人がいる。つまり、国があるということは国民がいるってことだ」
「……うん、そうだね。ああ、そうか。なるほど。国民、か」
「ようやく分かったようだな。天空王国に住む国民は誰で、そいつが持つ土地や財産なんかのこと。あるいは、それらに対する税であったりの規定が必要だ。そして、今後、外との取引もどうするかも考えないといけない。天空王国が外の商人と取引するに当たって、例えば関税をかけたりだとかいろいろな決まりごとを作らないといけないだろう」
「うげ。そう言われると当たり前の問題が残っていたな」
「そうだ。それらのことを独立前にある程度片付けておく必要があるんだ。遊んでいる暇はないぞ、坊主」
おっさんに指摘されて、今更ながらに俺はのんびりしすぎていたことに気がついた。
確かに新たな国ができるというのは、とんでもないことだ。
これまでとはいろいろと違うことが出てくる。
中でも重要なのが、だれが国民であるか、という点だろう。
国民を把握していない国というのはさすがにまずい。
そして、その国民に対しての法律も改めて作る必要もあるだろうし、それ以外の外との交易に対してのルールも必要だ。
「えっと、とりあえず天空王国の国民としてはまずバルカニアに住む者たちだろうな。天空霊園はどうだろ? 教会関係者が多いけど、あれってうちの国の国民に含めるのかな? 後でパウロ教皇にも確認だな。それと移住者の受け入れだとかの規定も必要かな」
「聞いた話だとリード領では統治にアイを使っているらしいな? うちもそれを導入しようぜ。国民の名前と住所、その他もろもろの情報を一元化して管理できるってのは、統治者からするとかなりやりやすいはずだ」
「そうだな。というよりも、むしろ国境がはっきりと分かれている天空王国のほうがやりやすいだろうしな。わかった。カイルに連絡をとってアイの活用法について確認してみる。先にやっている向こうなら、やり始めて見えてきた問題もある程度わかるだろうし」
「よし、あとはまあ法律やらなんやらはフォンターナ憲章に則って決めるとして、だ。地上の問題も考えておく必要があるぞ、坊主」
「地上っていうのは、具体的にはバルカ家のことだな、おっさん?」
「そうだ。坊主が天空王として独立した国を興して、アルフォードを当主としたバルカ家とは分かれることになるだろう? だけど、アルフォードはまだ次の年でようやく5歳だ。到底領地を治められる年齢じゃない。つまり、坊主の手を離れたバルカ家を誰が取り仕切っていくかを決めておいてやらないと大変なことになるぞ」
「そうだな。なにかあってから、天空王の俺が手を差し伸べたら問題視される可能性もあるもんな」
「そういうことだ。どうするつもりか、考えているんだろうな?」
「ああ。というか、おっさんはどうするつもりなんだ? バルカニアに残って天空王国の民として暮らすのか、あるいは地上に残ってバルカ家に仕えるか。それによって対応が変わるんだけど」
「え? 俺の返事で対応が変わるのか?」
「ああ。もし、地上でバルカ家の一員として働きたいっていうんなら、おっさんがバルカ家の家宰になってほしい。アルフォードを支えるためにな」
国を興すというのは本当に大変だ。
今までは当主の座を譲ったものの俺がいて、俺が信頼できるメンバーがバルカ領をうまく切り盛りしてくれていた。
だが、そんな俺は完全にバルカ家から離れることになる。
ということは、これまでバルカ領を統治していたメンバーが天空王国とバルカ領で分かれる必要が出てくるわけだ。
そのための人の振り分けなどをしておく必要があった。
そんななかで、一番重要なのはバルカ家の家宰となる存在だろう。
アルフォードはすでにバルカ家当主となってはいるが、統治能力はまだ期待できない。
ついでに言えば、俺の息子であるということで今はフォンターナの街にあるバルカの館で生活している。
おそらくは大きくなってもフォンターナの街が生活拠点であり、フォンターナ王であるガロードの近くにいることになるだろう。
対して、バルカ家の本拠地はこれまでのバルカニアから、地上にある魔導列車の集積駅でもあるバルカラインになるだろう。
バルカラインというバルカの領都を任せつつ、バルカ領全体を見ることになる家宰がしっかりしていれば、おそらくは統治は大丈夫なはず。
その大役を本人が希望すれば、俺はおっさんに任せてもいいと思っていた。
「悪いな、坊主。俺は自分の人生を坊主に賭けたんだ。今更坊主のもとから離れる気はないさ。俺はできれば天空王国で仕事がしたい」
「……そう、か。ありがとう、おっさん」
だが、おっさんの意思を確認したところ、おっさんはバルカ家ではなく俺とともにあることを望んだ。
正直、嬉しい。
おっさんがバルカ家のために働いてくれたらそれも十分に嬉しいが、俺と一緒に仕事がしたいと言ってくれるのはやはり素直にありがたかった。
「なら、バルカ家の家宰はペインに頼もうかな。ほかの者に対して顔が広いし、統治のために今までいろいろと裏方でも頑張ってくれていたし」
「ペインか。いいと思うが、あいつはもともとウルクの騎士だった人間だ。バルカの生え抜きとは言い難いがいいのか?」
「問題ない。ペインの両脇にはバイト兄とバルガスをつけることになる。あの2人がペインを支えてバルカ領を守るようにすればうまくいくはずだ」
というか、アルフォードの後見人をバイト兄に任せたら、それはそれで大変なことになりそうだしな。
いつでも戦いたがるバイト兄はバルカ領全体の舵取り役としては少々怖い感じもするからだ。
だが、主に俺のもとで外交関係で仕事をしてくれていたペインならバランス感覚が優れている。
今後のフォンターナ王国の中でのバルカ家という立ち位置をうまくこなしてくれるはずだ。
こうして、俺の独立にともなっての種々の問題を解決するために、その後もいろいろと話し合っていた。
そんなことをしているとあっという間に時間が過ぎ、年が明ける時期が迫ってきたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





