ロマン兵器
「やはり、関節部分が問題でござるな、アルス殿」
「そうだな。というか、やっぱ魔装兵器を単純に小型化しただけだと動きが悪いな」
グランと一緒に魔装兵器の小型化について検討する。
硬化レンガ製の5mほどで、タナトスモデルの体の魔装兵器。
これを単純に小型化するように作ることは可能だった。
高さ2m弱で作れば、人間用の剣や魔銃も装備することができる。
が、それだとちょっとな、という感じになっている。
その理由はいくつかあった。
というのも、大型のときにはタナトスの体を模したものでも十分兵器としての力があった。
なんといっても重さがあるのだ。
拳を振り回したり、蹴りをするだけでもとんでもない破壊力が生まれる。
だが、それは小型化すると消え去ることになった。
しかも、同じ等身大かつ人型のアイと比べると動きが悪い。
アイはその出発点が神界の神殿で暮らしているアイシャが、自分の生活を自分の手で行えるようにということにあった。
そのため、皮膚のようなスキンの下は球体関節人形のような構造で可能な限りなめらかな動きができるようにしていたのだ。
魔装兵器はそんな関節構造をしていない。
岩を削り出して作った彫刻のようなものに近いだろうか。
大型のときにはその自動修復機能に頼る強引さで動いていた。
まともな関節というものはなく、ゴリゴリと削りながら体を動かしていたからだ。
なので、ただ単に小型にしただけでは動きの良さはアイに軍配が上がった。
だからといってアイを戦闘用として使う気はなかった。
白兵戦能力を多少持ったとは言え、それはあくまでも自衛のものでしかない。
せっかく、アイシャにすら合格をもらえるほどのかわいいお人形として作ったのだ。
それを戦闘用の危険な代物であるという、どちらかというとマイナスイメージを持たれるようなことは避けたかった。
領地の運営やバルカ銀行などでも働いてもらっているのだから、いい印象であったほうがメリットは断然大きいだろう。
「……プラモでも参考に作ってみるか」
「え、なんでござるか、アルス殿? プラモ、でござるか?」
「ん、ああ。ちょっと思いついただけなんだけどな。人型でありつつも、人には見えない構造の小型魔装兵器でやってみようかなって案が一つだけあるんだよ」
グランとあれこれ話している間、ずっと考えていたことがつい口に出てしまった。
小型の魔装兵器。
通常サイズの人と同じ大きさで、武器も共有できつつも、ぱっと見たときに人ではないとわかるフォルム。
それでありながらも、アイと同等かそれ以上の動きをもたせる構造。
その一つの答えが俺の中にはあった。
いつもの前世の記憶の中にあるものだ。
それはプラモデルで造ったことのある人型リアルロボットだ。
キットとして売られているものをニッパーで切り取ってパチパチとはめ込んでいくだけで作ることができる人型模型。
しかも、それは非常にうまくできており、さまざまなポージングも可能になっていた。
あれを魔装兵器として作れないだろうか?
これまでの魔装兵器をスーパーロボットだとすれば、それをリアルロボットに変えてみる。
もしそれができるのであれば、仮想人格アイをインストールすれば動かすこともできるだろう。
肩や脚の付け根は球体関節で、肘や膝、あるいは手の指などはまた違う関節構造にすることで、今までの魔装兵器よりも遥かに動きやすくなるのではないかという気もする。
もしそうならば、小型化した後に既存の大きな魔装兵器にその技術を流用することもできるかもしれない。
そんなプラモデルのような魔装兵器を作ってみてはどうかと思ったのだ。
「ほう。面白そうでござるな。どれ、それでは一度、紙に描いてみるでござるよ、アルス殿。そのプラモとやらの絵をこの紙に描くのでござる」
「よし、わかった。つっても、大雑把なものしか描けないからな。あんまり詳しく聞かれても困るんだけど……」
どうやらグランは俺の言葉を面白がって、プラモデルのことを聞きたいらしい。
そこで紙を渡してきた。
バルカ製の植物紙だ。
その紙は原料に魔力回復薬を使っているからか、魔力を使ってインクいらずで字を書いたりもできる。
カイルの【念写】などがそうだが、俺は【念写】を使わずとも魔力操作で紙に字をかける。
そして、脳内イメージを魔力で紙の上に再現することで、下手なりにもイメージ図を描写することができる。
それをグランに勧められるままに実行した。
そうして出来上がったプラモデルのイラストをグランへと見せる。
「ほうほう。なるほど。確かに人型ではあるものの、人の体の構造そのものを真似せずに作ることができそうでござるな。アイの場合はゴムによって皮膚に近いものを再現していたでござるが、それをしないで関節部分を隠す必要もない。であれば、人型であっても人にはできない動きもできそうでござるな」
「そうだな。頑張れば変形できたりするんじゃないか? さすがにそんな構造は俺にはわからんけど」
「変形でござるか? 例えば人型からどのような姿に変形するのでござる?」
「えーっと、そうだな。例えばで言えば、体をうまいこと折りたたんで変形して飛行形態になるとか、かな? 変形したときにうまいこと魔導飛行船のような形になれれば、空も飛べるんじゃないか。あるいは、複数が合体して大型化するとかかな。実現可能かは全くわからんが」
「飛行形態への変形や合体でござるか。面白そうでござる。なるほど。形が変わったときに、四枚羽のように羽が各所に位置するようにできればどうでござろうか……。それなら空も飛べそうでござる。……ううむ。これはなかなか難しいでござるな、アルス殿」
「ダメそうか、グラン。ぶっちゃけ、ただの思いつきだから無理なら無理でいいんだけど」
「いや、そんなことはないでござるよ、アルス殿。ぜひ拙者に時間を与えてほしいのでござる。きっと、これまでにない魔導兵器を開発してみせるでござるよ」
「わかった。ま、今すぐにどうしてもほしいわけでもないしな。アイの量産さえできているんなら、魔導兵器改良は多少時間がかかっても別にいいよ、グラン」
「かたじけないでござる。いやー、これは大仕事でござるな。腕が鳴るでござる」
どうやらグランのやる気に火を付けてしまったようだ。
俺がいくつか紙に書き出したプラモデルのイラスト。
そして、そのプラモデルが人型から飛行形態へと変形するという、少年心をくすぐるロマンの塊を披露してしまった。
それがグランにとっても興味をひいたようだ。
現実的に変形や合体機能が必要かどうかはさておいて、面白そうだという意見のもとに小型魔導兵器開発の研究は新機能付きのものへと発展していった。
こうして、俺とグランの研究はロマンを追いかけるものへと変わっていったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





