バルカニアでの研究
「よう、グラン。作業の進捗はどうだ?」
「順調でござるよ、アルス殿。といっても、作業量が多い故、まだまだ終わりそうにはないでござるが以前までよりは遥かにましでござるな」
「そうか、悪いね。まあ、なるべく急ぎで頼むよ。なんせ、リード領でもバルカニアでも必要になったからな。増産しとかないと」
おっさんと話した俺はバルカ城を出て、バルカニアの中を移動する。
向かった先は、バルカニアの南東区にある研究施設だ。
ここには学校や大学、図書館などと一緒に研究のための棟がいくつも建てられている。
その中の一つに入り、グランと会う。
グランはここで多くの者とともに作業をしていた。
それは俺が魔力から生み出した精霊石の表面に加工するというものだ。
精霊石の表面に魔法陣を描き込み、さらに別の魔法陣を描き込んでという感じで細工をしていく。
そうすることで、精霊石という土の魔石を特殊な使い方ができるようにしていくのだ。
最終的に最後に描き込まれた魔法陣によって、すべての魔法陣は暗号化される。
この魔法陣技術は東方から持ち帰ったもので、現在はここバルカニア以外では使われていない秘中の秘だ。
そのため、その作業に携わる者もかなり限定しているので思ったほどには作業が進んでいなかった。
が、それも最近になって状況が変わってきた。
精霊石に魔法陣を描き込んで作り出す目的はなんと言ってもアイシリーズを増やすためだ。
アイという仮想人格を持ちつつ、魔装兵器をもとに作られた神の依り代を体として自律行動する存在。
リード領のとくにラインザッツ領統治に用いられ始めたために、このアイの需要が大きくなっていた。
だが、意外と細かい作業も必要な工程があるために、大量生産できていなかったが、その状況を覆したのもアイだった。
つまり、精霊石に魔法陣を描き込んでアイを作る作業をアイ自身にさせられるようになったのだ。
グランが教えたらしい。
毎日毎日同じように魔法陣を描き込んでいくことに飽き飽きしてきたグランが、そばにいたアイに魔法陣を教え込んだ結果、学習機能を持つアイはそれを習得してしまった。
そして、アイは各個体が独立して動くものの、基本的にはカイザーヴァルキリーの頭に本体情報がある。
そのため、作られたばかりのアイも自分自身を作る技能を生まれながらに習得していたのだ。
これによって、アイの増産スピードは加速度的に増加していた。
「アイの増産はそれでいいとして、研究のほうもやってるんだよな?」
「もちろんでござる。今は既存のものをいろいろと改良できないかどうか研究中でござるよ、アルス殿。四枚羽は飛行速度と旋回能力が向上しているのでござる。それに魔装兵器もアルス殿の言うように小型化しているのでござるよ」
「そうか。じゃあ、あとでそれも確認しておこうかな」
これまではグランとそのほかの者がアイ作りに手間を取られていた。
だが、アイ自身にアイを作らせることができるようになって、グランの研究時間が取れるようになった。
なので、それを有効活用すべく、いろいろとやっているらしい。
その一つが四枚羽の性能向上だ。
最初は13機しかなかった四枚羽もその数を増やしている。
それと同時に、魔装兵器も改良することにした。
この魔装兵器もかつて東方で見たものとは大きく性能が変わってきている。
初めて東方で魔装兵器を見たときは、まさしく岩の巨人という感じだった。
ゴツゴツした岩でできた高さ3mほどのいわゆるゴーレムという見た目。
だが、それを俺は岩ではなく硬化レンガで作り直したことで大型化に成功して5mほどの魔装兵器を作ることに成功していた。
また、アトモスの戦士であるタナトスの肉体を参考にしたこともあり、見た感じは本当に大きな人のように見えるようになっていた。
が、それをさらに一歩進めた魔装兵器がある。
それは先の戦いで実戦投入されていた。
ラインザッツ平野における魔装兵器の投入。
あれは新型魔装兵器だったのだ。
それまでの魔装兵器は核となる精霊石に魔力を注いで起動させ、その魔力を注いだ者が遠隔操縦していた。
そのため、操縦者は自分の視界内に魔装兵器を視認できる状況でなければ満足に操縦はできず、また、ある程度大雑把な動きしかできなかった。
なので、それまでの戦いで魔装兵器を使うときには飛行船の上から操縦者が見下ろしながら操っていたのだ。
が、それを根本から変えた。
それができたのは、やはりアイのおかげだ。
魔装兵器に仮想人格アイをインストールするための魔法陣を追加したことで、操縦を魔力を注いだ者ではなく、アイに委ねることにしたのだ。
それによって、今までとは全く違う動きができるようになった。
アイが魔装兵器の操縦を担うことで、それまでの大雑把な動きではなく、かなり細かな動きができるようになった。
大振りな攻撃や体ごとの突進攻撃などではなく、硬化レンガの大剣を扱った剣術のような動きまでできるようになったのだ。
それにもアイの学習機能が関係している。
というのも、アイは依り代の体を使ってバイト兄と模擬戦のまねごとをしたり、あるいは、魔装兵器を使って巨人化したアトモスの戦士とも戦っていたのだ。
それによって、肉体を使った戦闘技術が向上し、それをすべての端末で再現できるようになっていたのだ。
これにより、白兵戦闘技術の増したアイが操る魔装兵器は大きいだけのデカブツではなく、まさしく戦士と呼べるものになった。
もともとの自動修復機能までついていることを考えるととんでもない性能を持つ。
が、今度はそれを小型化しようというわけだ。
「でも、本当にいいのでござるか? もっと大型化したほうがいいのではないでござるか?」
「いや、小型化でいいんだよ、グラン。つーか、デカかったら城の中に入らないだろ?」
「城の中で魔装兵器を使うつもりなのでござるか?」
「そうだ。グランの耳にも入っていると思うけど、今度このバルカニアは天空霊園とともに独立した国になる。が、そこで戦力についての制限ができた。兵員数に規定があるんだよ。それの抜け道として、魔装兵器を使おうかと思っているんだ」
「なるほど。魔装兵器は人ではない。ゆえに軍の兵員としては数えない、という屁理屈をつけるのでござるな。確かに普段は精霊石の状態で保管しておけば、数として数えることはできないでござるな。しかし、そうなるともう少し姿形を変えたほうがいいのではないでござるか? 裸のタナトス殿の体が基礎となっているのは、城の中ではちとまずいのではござらんか?」
「そうなんだよな。だから、そこんところをグランと相談しようと思ってね。俺の要望としては、城の中で警備できる大きさの魔装兵器がほしい。そして、それらはできれば人間が使う剣や魔銃といった武器を扱える体が望ましい、って感じかな」
「なるほど。武器の共有化でござるか。面白そうでござる。機能性も考慮しての小型化というわけであれば、面白くなりそうでござる」
「ああ、頼むよ、グラン。もちろん、城の外での戦闘時であっても使用可能じゃないと困るからな」
「承知したでござる。任せておくのでござるよ、アルス殿」
魔装兵器の開発の今後について、グランと話し合う。
コンセプトは小型化だった。
これまではなるべく大きく力強くという感じで魔装兵器を運用してきた。
だが、これからはもう少し小回りが効くようにしたい。
大きな魔装兵器は平地などでの戦いでは使いやすいが、意外と市街地では扱いにくいことに気がついたからだ。
まあ、当面はアイの数を増やしてバルカ城にも配備しておこう。
依り代の体でも現状ですでに素人より戦闘技術を持っているのだ。
基本的に軍に所属するのは男性ということもあり、女性型のアイをたくさん城に置いていることが戦力増強だとはみなされにくいだろう。
評議会の連中は勉強不足だったな。
ラインザッツ家との戦いをラジオ放送したなかで魔銃などの話はあったが、魔装兵器や四枚羽のことは放送していない。
なので、あれらの兵器の有効性を知っているのはバルカやリード家の者たちばかりで、本国にいた者ほどその情報を持っていないのだ。
ゆえに、天空王国の戦力保持に兵員数の規定だけを決めてしまった。
こうして、バルカニアでは人知れず新たな魔装兵器を生み出すべく、グランによる研究が続けられることになったのだった。
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