天空王
「坊主が王になる、か。まさかこんなことになるとはな。考えたこともなかったよ」
「俺もそう思うよ、おっさん。おっさんと初めて会ったときは金も持たない農民の子どもだったからな」
「いや、あの時点で俺は坊主がただものではないってことは分かっていたんだ。きっとどっかの没落した貴族の生き残りじゃないかとか、そんなことを考えていたんだ。だからこそ、そのうち騎士どころか貴族にまで昇り詰めるんじゃないかと思っていた。だけど、さらにその上にいくとはな」
「人生、何が起こるかわからんもんだね」
「ああ、そうだな。しかし、本当にめでたい話だ」
各所との調整がほぼ終わった。
評議会やリオン、あるいは教会などともいろいろと話し合い、俺はドーレン王の王位返還の儀式が行われる同日に王になるということが決まった。
といっても、一代限りの特殊な王であり、どちらかと言うと名誉職みたいな感じになりそうだ。
フォンターナの街での話し合いを終えた後、俺はバルカニアに戻ってきている。
そして、バルカ城でおっさんと話し合っていた。
「天空王ってことになるらしいな、坊主?」
「ああ。いろいろと協議した結果、そういうことになりそうだ。天を統べる王ってことで天空王だな」
「やっぱ、あれか? バルカ王って名称だとバルカ家と混同してややこしいってことか?」
「そのとおりだね。俺を王として認めても、あくまでもバルカ家は貴族家だってことになるからね」
最初は評議会でもバルカ王という呼び方が使われていた。
だが、話し合ううちに違う名称をつけることになった。
というのも、バルカ王という呼び方では俺の息子であるアルフォードが当主を務めるバルカ家が貴族ではなく王族のような印象を与えるという点が問題になったのだ。
あくまでも、王として認めるのは俺個人のことであり、バルカ家は引き続きフォンターナ王に仕える貴族家として存続していく。
なので、紛らわしいバルカ王という呼び方は却下されたというわけだ。
その代わりに、天空王というのはどうか、となったわけである。
「天空王ねぇ。まあ、たしかに空の上にある街にいる王様ってことでは言い得て妙か。けど、坊主の使う魔法のことを考えるとな。どっちかと言えば、レンガの王とかそんな感じが合ってる気もするがな」
「確かに。まあ、だからこそってところだろう。天空王と聞いて、土の魔法が主なバルカ家は浮かんでこないだろう? それがいいってことなんだろうね」
「なるほどな」
我ながら次々と呼び名が変わるなと思ってしまう。
農民から騎士になり、貴族家の当主代行になったかと思えば王国の宰相兼大将軍を名乗り、最終的には天空王などと呼ばれることになりそうだ。
もっとも、今別に名乗っている神の盾とどっちが人々にインパクトを与えるかはよくわからんが。
「しっかし、それだとこれから坊主のことは天空王様って呼ばないといけないな」
「別に今まで通りでいいよ、おっさん。俺もおっさんのことはずっとおっさんだしな。まあ、公式の場では多少かしこまって呼び合う必要があるだろうけど」
「そうか。そう言ってくれると助かるよ。坊主は外見が全然変わらないからな。俺の中では坊主って呼び方が一番しっくりくるんだ」
「俺もそう呼ばれたほうが調子に乗らずにすみそうでいいかな。俺は王様だぞって調子に乗ってたら、何言ってんだ坊主って注意でもしてくれよな、おっさん」
「ああ、わかった。そんときは任せといてくれ」
昔から付き合いのあるおっさんに急によそよそしい態度を取られても困る。
人目の多いところでは別だが、そうでなければこれまで通りでもいいだろう。
そんなふうに、これまでとこれからのことについてさらに話し合う。
「天空王が治める国。それもバルカという名称は使わないんだな。天空王国でいいのか?」
「うん、とりあえずそれでいこうか。バルカ王国は却下されたからな」
「よし、なら天空王国としよう。で、この天空王国はフォンターナ王国に属するが独自の統治を許されている、と。自治権が認められているってことだな?」
「そうだね。ただし、戦力の制限を求められている。天空王国という国を守るために必要最低限の組織はあってもいいけど、フォンターナ王国やそれ以外の貴族領に攻め入ることは許されていない」
「戦力の制限、か。天空王国内の治安維持のための組織はあってもいいが、それも兵数の上限が決められているのか。本当にこの条件を受け入れたのか、坊主? もしなにかあったときに、どうするつもりなんだ? フォンターナ王国に救援を依頼してって対応しかできないんじゃないか?」
「そうだな。きっと評議会もそう思っているからこそ、その条件を出したんだろうね」
やはり、おっさんもそこが気になるようだ。
王であるということを認めるかわりに要求したのが、俺に大きな軍を持つな、ということだった。
天空王国ができて、俺をフォンターナ王国の国政から追い出したとしても、圧倒的な軍がそこにあれば危険極まりない。
なので、天空王国が持ってよい軍の兵数というのが決められたのだ。
その数は最大でも1000人程度だ。
治安維持のためだけならば足りるかもしれないが、どこかを攻めるというのにはさすがに足りないだろうという目算らしい。
そして、その条件を俺は受け入れた。
だからこそ、大きな問題なく王位就任の話が決まったのだろう。
「本当にそれだけの戦力でいいのか? まあ、坊主がいれば問題ないかもしれないが……」
「いや、さすがにちょっとそれだとね。何かあったときに困るかもしれない。だから、抜け道を用意しておいた」
「抜け道?」
「そうだ。この条件は兵員数だけが条件として求められているってことだよ、おっさん。それ以外の兵器関係なんかは条件にいれないように交渉しといたからな」
そういって、おっさんに対してニッコリと笑いかける。
こうして、来年にできる予定の国のために、俺は新たな戦力を用意することにしたのだった。
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