予想外の話
「それで、相談なんですけどいいですか、パウロ教皇?」
「ええ。例の件ですね。新たな王の誕生。そのための儀式をどうするかという内容でしたね」
「はい。俺としては戴冠の儀式を踏襲したものでいいかなと思っているんですけど」
大教会にある御神体を見た後は、別室に移動してパウロ教皇と話をする。
今後のことについてだ。
パウロ教皇にはカイザーヴァルキリーがドーレン王の座を持っていることを話しているので、それをどのような形でシグマ・ドーレンに戻せばいいかを検討する。
と言っても、やり方は当主の座を継承権を持つ者に譲るだけなので、教会関係者なら誰でもできる。
が、それを誰でもできるとは見せないように大げさにやろうというのが今回の相談内容だった。
リオンとの今後の国のあり方でも話していたが、これからはフォンターナ王国は連合王国のような形になる。
つまり、フォンターナ王とは別にドーレン王がいるという状態になるのだが、それは対等な関係ではない。
あくまでも、フォンターナ連合王国として、ドーレン王よりもフォンターナ王が上位に位置するということをしっかりと示しておく必要があるのだ。
そのためには、王位返還の際にそれを明確に周囲にアピールすることが大切になるだろう。
なので、王位返還を行う場にはフォンターナ王であるガロードも儀式に出席することになる。
儀式を行うのは教会をまとめるパウロ教皇で、この大教会で実施するのが一番無難だろう。
そして、その場でカイザーヴァルキリーから王位が戻ったシグマ・ドーレンにはフォンターナ王のガロードがその頭に王冠を載せる。
いわゆる戴冠の儀式をガロードの手で行うことによって、今後新たなドーレン王が生まれるたびにフォンターナ王がそれを認めるという形にしたい。
そうしておけば、今後出てくる王たちの序列をこれからもずっと規定することにつながるからだ。
「儀式の内容としてはそれで十分でしょう。時期は年が明けたときで調整してはどうかと思っています」
「新年ですか? 今はもう夏も終わって秋になってますけど、結構はやいですね」
「そうですね。もしかしたらもう少し後の来年の春以降にずれ込むかもしれません。ですが、もっとも都合がいいのがその時期です。新年であれば、各地の貴族たちも新年の挨拶のためにこのフォンターナの街に集まってくるでしょう? 多くの貴族が見ている前で戴冠の儀式を執り行うにはこれが一番ではないかと思います」
「なるほど。まあ冬であっても、街中にもっと吸氷石の像を増やしておけば寒さも和らげることができますしね。盛大な儀式の後に、民衆の前でお披露目することもできますか」
ぶっちゃけ、こちらとしては別にいつでもいいしな。
パウロ教皇ができると言うのであれば、それで問題ないだろう。
そんなふうに気軽に考えている俺にパウロ教皇は呆れたように言ってくる。
「随分と他人事ですね、アルス。分かっているのですか? これはあなた自身のことでもあるのですよ?」
「え、俺ですか? いや、たしかにカイザーヴァルキリーは俺の使役獣ですから俺も関係してますけど、別に儀式ででしゃばろうとは思っていませんよ。出席者の一人って感じでしょう。まあ、事前の準備で必要なことがあれば手伝いますけど」
「……なにを言っているのですか?」
「ん、何がですか? 別に変なことを言っているつもりはないですけど」
「……その顔を見ると本心でそう言っているようですね。ちょっと待ってください。私が考えていたこととあなたとの間には相違があるかもしれません。ちょっと確認が必要かもしれません」
「相違? シグマ・ドーレン暫定王に王位を取り戻して正式な王とするっていう話ですよね? それ以外にもなにかあるんですか?」
「……ここで私が言うべき内容ではないのかもしれません。が、当事者であるあなたが何も知らないというのは、もしかしてまだ隠しているのか、あるいは正式に決定していないのか……」
「さっきからなんの話ですか、パウロ教皇?」
「ふむ。いいでしょう。よく聞きなさい、アルス。現在、このフォンターナの街ではとある話が持ち上がっています。もうすぐ、新たに王が誕生する、と。そして、その話は私の耳にも入ってきています。フォンターナ王国の意向として教会に相談がきています」
「新たな王の誕生? さっきからの話しぶりだと、それはドーレン王のことではないってことですか?」
「はい、そのとおりです。新たに王として認められ、フォンターナ王から戴冠の儀式を受けるかもしれないのは、あなたのことです。アルス・バルカを王にしよう、という動きが最近持ち上がってきているのです」
「なんだそりゃ。聞いてないぞ、そんなこと」
まじで?
誰だ、そんなことを言っているのは。
俺が王になる?
そんな話が噂だとしても広がるのはまずいだろう。
不敬である、とかいうレベルではなく、それこそ謀反を企んでいるのではないかと疑われてもおかしくない。
俺はパウロ教皇から聞いたとんでもない話に驚いて、更に詳しく話を聞くことにしたのだった。
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