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御神体

「随分と活躍しているようですね、アルス」


「いやー、それほどでも。パウロ教皇はいかがお過ごしですか? 元気にしてました?」


「ええ。今のところ、教会は平穏そのものですよ。このフォンターナの街における大教会に新たな御神体も安置されたことですしね」


 王都でのリオンとの話を終えた俺は、しばらくしてからフォンターナの街へと戻ってきていた。

 すでに王都とフォンターナの街は転送魔法陣で行き来可能にしている。

 そのためかどうかわからないが、さらにこの街も活気づいているようだ。

 人通りと商店での呼び込みの声などがいつも以上によく聞こえてくるような気がした。


 そんなフォンターナの街の中を移動して、俺は教会へと顔を出した。

 聖光教会の総本部となったフォンターナの街の大教会。

 そこにも多くの人が詰めかけていた。


 というのも、パウロ教皇が言ったように新しく御神体とでも言うべきものが置かれるようになったからだ。

 それは今だけの限定公開が行われていて、それをひと目見ようと多くの人が訪れていたのだ。

 その御神体は俺が寄贈した女神の鎧、あるいはアイシャの鎧と呼ばれるものだ。

 つまり、リゾルテ王国の持っていた宝にして、聖遺物となるあのオリビアの着ていたミニスカ鎧が御神体となっていたのだった。


 実はこの女神の鎧を俺は一度アイシャのもとへと持っていった。

 神界にある神殿内で依り代を操り、兄であり夫でもある初代王と思念で会話しながら生活しているアイシャ。

 そのアイシャに数千年前に着ていた鎧を見せて、こいつをどうすると聞いたのだ。


 だが、アイシャはこの鎧にさほど興味を示さなかった。

 あら、珍しいものを持ってきたのね。

 それくらいの感想だったのだ。

 どうやら、もはや何かと戦うという必要性もなくなったアイシャにとって、この鎧ははるか昔に着ていた古着同然の扱いに近いものだったようで、それよりも早く新作の服を持ってきてくれと言われたのだ。


 というわけで、この女神の鎧は本来の持ち主であるアイシャにとって不用品となり、俺が引き取ったというわけだ。

 だが、当たり前だがこの鎧を俺が着ることはない。

 女性用なので当然である。

 しかし、だからといって使いみちがないわけではなかった。


 こうして、この女神の鎧は大教会に寄贈されるに至ったわけだ。

 これをパウロ教皇はことのほか喜んだ。

 まあ、それは当然なのかもしれない。

 なぜなら、かつての聖都にはいくつかの秘蔵された聖遺物がたしかに残っていたのだ。

 それがナージャによってすべて塩に変えられてしまい、何一つ残っていない。

 そんなところに、たしかに聖遺物であると神自身が認めた代物が手に入るのだ。

 嬉しくないわけがないだろう。


 が、それ以上にパウロ教皇を喜ばせる効果がこの鎧にはあったのだ。


「やっぱり、例の鎧の効果は本当だったんですね。この大教会に一歩足を踏み入れると誰でもわかるでしょうね。教会内の空間が清らかである、ということに」


「そうでしょう。女神の鎧はやはり神が着用することに意味があったということでしょう。これこそが、リゾルテ家ではなく教会が聖遺物たるこの鎧を所持する何よりの証拠になります」


 厳重な警備のもとに展示され、訪れた人々の目に触れている女神の鎧。

 その女神の鎧は鎧単独で置かれているわけではなかった。

 俺が作った硬化レンガ製のマネキンに着用させた状態で展示されている。

 そのマネキンは鎧に合うように女性型だ。

 だが、その女性型のマネキンは適当に作ったわけではない。


 神界で迷宮核と【合成】されて神像にされてしまった、アイシャ本人の体をコピーして作り上げたものだった。


 つまり、大教会に展示されている女神の鎧はアイシャのマネキンが着用していることになる。

 そして、女神の鎧には不思議な効果が備わっていた。

 以前、オリビアとバイト兄が神前決闘をしている際にそばにいたスルト家当主のブライアンは俺にこう言っていた。

 女神の鎧には忠誠と信奉を力に変える効果がある、というものだ。


 忠誠とは貴族や騎士が鎧の籠手などに口付けをすることで忠誠を示すと、鎧着用者はその貴族や騎士らが使える魔法をつかえるようになるというものだ。

 そして、信奉とは人々が神を信じる心が力となる、というものだった。

 もっとも、オリビアが女神の鎧を着ているときには彼女の知名度などが信奉の代わりとなっていた。


 が、今は違う。

 たとえ、マネキンであるとはいえ神であるアイシャの肉体と完全に同一のスタイルの体が鎧をまとっているのだ。

 俺が神像そのものに魔力を流して完全にトレースして作り上げた硬化レンガ製のマネキンはどうやら神の分体である、と判断されたらしい。

 つまり、人々は大教会に安置されている女神の鎧を見て、あれは神が鎧を身に着けているのだと認識したともいえる。


 これが面白い効果を生み出した。

 というよりも、本来あった効果であり、しかし、長い年月で忘れられた効果だったのだろう。

 それは全土で神を信仰する心が鎧に力を与えたことで、女神の鎧を中心にして【聖域】の効果が発揮されたのだ。

 不死者の穢れを空間ごと祓うことができる【聖域】は本来であれば枢機卿クラスの者にしか発動できない。

 だというのに、人々の信奉だけを力にして、女神の鎧が置かれたこの大教会内は常に【聖域】が発動した状態が保たれることになったのだ。


 この不思議な効果が現れたとき、俺はもう一度神界に戻ってアイシャに確認することにした。

 そして、どうやらこれは正常な効果だったらしいということが分かった。

 神であるアイシャのように竜姫オリビアを遥かに上回る知名度を持ち、信仰の対象になる者が鎧を着ると女神の鎧はものすごい力が引き出される。

 その際に、力の一端が漏れ出るという形で【聖域】の効果が鎧の周囲に溢れ出るのだそうだ。


 つまり、この鎧を真の意味で使いこなせるのは竜姫オリビアがいたリゾルテ王国ではなく、神を祀る教会こそであり、それゆえに鎧の所有権は教会にこそあるべきだということにもなる。

 なので、パウロ教皇はリゾルテ王国から奪い取ったにも等しいこの鎧を喜々として大教会に飾っているのだ。


 また、それ以外にも【聖域】が発動しているというのは大きな意味がある。

 というのも、かつての聖都は初代王にして不死者の王を封印するために、枢機卿たちが複数人で交代しながらも常時【聖域】を発動させていたのだ。

 つまり、聖都は【聖域】の力によって清浄な空間を持つ土地であると認識されていたのだ。


 だが、フォンターナの街における大教会はそうではなかった。

 そのため、本当にこの北の地の大教会を教会本拠地として認めてよいのか、という意見は少なからずあったそうだ。

 が、それもこの鎧の効果で打ち消すことができるだろう。

 なにせ、かつての聖都と同じように【聖域】の効果が常時発動した場所になったのだから。


 こうして、フォンターナの大教会は新たな御神体を手に入れたことで、名実ともに旧聖都に代わる聖地であると認識されるようになっていったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 御神体、それは神の着用物 それもよりデリケートな部分に密着した しかも神の血汗が染み付いた物ほど効果が つまり何が言いたいかというと 御神体に神のパンツを祀る
[一言] 〃女性用なので当然である〃 着ないのか…アルス君なら永遠の男の娘になれるのに 〃しかし、だからといって使いみちがないわけではなかった。 これをパウロ教皇はことのほか喜んだ〃 アルス「着る…
[一言] 現実には聖遺物があると教会に箔が付くと偽物が大量に作られましたからね。 庶民にも一目で本物と分かるのは宣伝効果抜群ですね。 キリストの手に打ち付けられた聖釘は何十本もありますし 釈迦の遺骨…
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