王都の王城にて
「と、言うわけでラインザッツ家との戦いは無事に終わったぞ、リオン。こっちの完全勝利だな」
ラインザッツ城での仕事で俺がこれ以上なにかすることもなくなった。
一応、治安維持のためにバルカ軍をそのままラインザッツ城に残してきてはいるが、その指揮はバイト兄にまかせている。
新たな領地の掌握はカイルの仕事なので、俺はアイシリーズが無事にラインザッツ城に到着したのを見届けてから別の場所へと移動した。
今、俺がいるのは王都だ。
現在、王都にはフォンターナ軍が駐屯しており、その指揮をフォンターナ王国の宰相であるリオンが執っている。
王都圏、および、王都から北にかけての貴族家をフォンターナ王国に帰属させるための動きとともに、南のリゾルテ王国にも裏から手を伸ばしているのだ。
特に、リゾルテ王国へは北に位置するフォンターナの街よりもこの王都のほうが距離的に近くていろいろと動きやすいのだろう。
しばらくはこちらに居続けることになるらしい。
「ご苦労さまでした、アルス様。ご無事で何より、と言いたいところですがなんの不安もなく、当たり前のように完勝でしたね」
「そうでもないよ。途中でリゾルテ王国の竜姫と神前決闘なんてものがあったりして、結構想定外のこともあったからな」
「オリビア・リゾルテ殿ですね。彼女は今、どうしているのでしょう?」
「バルカニアに送った。あそこなら空の上だからな。たとえ飛竜であっても飛んで逃げるなんてことはできないだろう。その後どうするかはバイト兄と要相談だな」
「無事なのであればそれで十分です。一応、リゾルテ王国内ではまだまだ彼女の人気は高いので、扱いだけは気をつけてくださいね」
王都にある王城の一室。
そこで、リオンと話をしている。
この王城はいつぐらいからあるものなのかは知らないが、かなり古いものなのだろう。
だが、古くとも、いや、古いからこそ威厳があると感じる造りをしていた。
が、本来はもっときれいだったのではないだろうか。
以前、メメント家が王都を抑えていたときに結構荒れたという話を聞いたことがある。
ところどころで補修されずに残った傷などが散見された。
「そういえば、その後のリゾルテ王国の状況はどうなんだ、リオン? 確か、本家筋に対して分家が謀反を起こしたんだろ?」
「はい。正確には分家ではなく、分家の分家の分家のさらに分家くらいの家格の家ですけどね。謀反は鎮圧されました」
「え? 鎮圧されちゃったの?」
「そうですよ。ラインザッツ領切り取りのためにリゾルテ王国の外に出ていたリゾルテ軍が最強の竜騎士部隊を引っさげて急遽引き返してきたんですから」
「それって大丈夫なのか? その謀反を起こした家ってのは、リオンの奥さんがいるんじゃないのか?」
「ええ。ただ、鎮圧されたと言っても正確には追い返されたという程度のようです。リゾルテ王国の王都に向かっていた勢力は竜騎士部隊などに追い返されたものの、いまだにその力は残っています。いつ、再び動乱が起こるかわからない状態と言えますね」
「ふーむ。随分と混沌としているな。オリビア殿との神前決闘は受けないほうがよかったのかな? あれのせいで竜騎士部隊はほとんど損害なく引き返すことになったわけだし」
机を挟んで向き合って座っている俺とリオン。
そのリオンの話ではリゾルテ王国内で発生した反乱は失敗に終わったらしい。
だというのに、そのことを話しているリオンはさほど気にしている様子ではなかった。
飲み物を口に運んでから、続きを話す。
「いえ、むしろこちらにとっては都合がよかったとも言えますよ、アルス様」
「そうなのか?」
「ええ。だってそうでしょう。そのまま謀反が成功していれば、それだけの話です。リゾルテ王国内の指導者層が代わるだけで、こちらにはそこまでの利点がありません。ですが、失敗したというのであれば話は別です。付け入る余地が生まれるのですから」
「なるほど。つまり、謀反に失敗していつ粛清されるかわからない者たちに救いの手を差し伸べようってわけか」
「そのとおりです。そうすれば、向こうに対して大きな貸しを作ることができます。それに、リゾルテ王国内で2つの勢力が争い合ってくれたほうが双方の力を削ぐことができますからね」
なかなかどうしてリオンもしたたかだな。
さらりと非道なことを言う。
が、戦わずしてリゾルテ王国の国力を削ぎ、相手に大きな貸しを作るということを考えるのであればこれが正解なのだろう。
なにも戦うばかりがこの乱世の世の中を渡る術ではないというわけだ。
「ま、なんにせよ、そっちのことはリオンに任せるよ。俺は俺のやるべきことをしよう。そろそろ準備をしておいたほうがいいんだよな?」
「ええ、そうですね。早くしてくれと催促がきています」
「ドーレン王に対しての王位返還儀式だな。つっても、前例がないことだし、どんな儀式をでっち上げるかパウロ教皇とも相談しないとな。戴冠の儀式でも参考にしたらいいのかな」
カイルやリオンにすべき仕事があるように、俺にももう一つだけ仕事が残されていた。
それはドーレン王についてのことだ。
いい加減、そろそろドーレン王に対して王位を戻さなければならない。
ドーレン王を正式に復活させ、しかし、その自治を認めたままでありながらもフォンターナ王国に取り込むことで連合王国のような形を作る。
そうすることで、いずれはリゾルテ王国も取り込もうと考えていた。
なので、この王位返還はさっさとやっておく必要があるのだ。
王位を暫定王に戻すだけなら、多分すぐにできる。
が、それではあまりに有り難みがないという問題があった。
ある日唐突に暫定王のもとに王位が舞い戻っても、おそらくは向こうに感謝されることはないだろう。
なので、うやうやしく儀式を行い、俺たちの行為によってドーレン王が正式に王へとなれたという明確な実績がほしいわけだ。
そのためには、それなりの催しをする必要がある。
こうして、リオンと話した俺は次にフォンターナの街に戻り、パウロ教皇とどんな儀式をするかを決めることにしたのだった。
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