増産計画
「まあ、それはともかく、とにかく先にやるべきことをやっておかないとな。この後の心配ももちろん重要だけど、まだ戦が完全に終わったわけじゃない。油断して何かあったらそれこそ冗談じゃすまないし」
「そうだね、アルス兄さん。このラインザッツ平野での戦いはほぼ終わりだけど、まだラインザッツ城とかも残っているもんね。先にそっちを攻略しないと」
ラインザッツ領を手に入れたあとのことを考えておくことはもちろん重要だ。
だが、まだやるべきことがある。
それは、このラインザッツ平野の戦いでリード家はラインザッツ家に勝利したということを示しつつ、ラインザッツ領全体を手に入れなければならない。
そのためには、まだラインザッツ城などを始めとした各地の拠点の攻略も必要だ。
そのことをリード軍本陣にいる俺とカイルは確認し合う。
そして、すぐに動き出す準備を始めた。
先に足の速いバルカ軍を使ってラインザッツ城を包囲して、開城させる。
ラインザッツ城の中に入ったら、統治に必要なすべての資料などを集めつつ、リード家の支配に反抗する勢力のもとに軍を派遣していくことにする。
この方針をもとに、バイト兄率いる騎兵団とアトモスの戦士がすぐさまラインザッツ城へと向かっていったのだった。
※ ※ ※
「……で、どのくらい用意すればいいと思う?」
「うーん、そうだね。ボクとしては多ければ多いほどいいんだけど」
「まあ、そうだよな。わかった。なんとか数を揃えるようにやってみる。まあ、それが揃うまではシャーロット城にいる百体でなんとか賄ってくれ」
「うん、ありがとう、アルス兄さん。よろしくね」
ラインザッツ城にある一室で俺とカイルがそう言い合う。
あれから、すぐにラインザッツ城へと向かったバルカ軍はそのままほとんど抵抗らしい抵抗を受けずに入城してしまった。
どうやら、ラインザッツ家は混乱の極みにあったらしい。
まあ、それもそうだろう。
なにせ、いきなりラインザッツ家の魔法が失われてしまったのだから。
ラインザッツ平野でリード・バルカ軍にラインザッツ軍が負けたとしても、普通はそんなことは起こらない。
当主であるシュナイダー・ド・ラインザッツが亡くなったとしても、継承権第一位の者がラインザッツ家の魔法を受け継ぐことになるだけだからだ。
だが、ある時点を境にぱったりと魔法が使えなくなってしまった。
そのはっきりした原因はラインザッツ城にいた誰もが分からなかった。
しかし、唯一言えることは当主シュナイダーの身に何かがあり、そしてそれをしたであろう敵対組織が城に攻め入ってきたという事実だけ。
本来であれば先行したバルカ軍は示威行為を見せつつも、先にカイルに入城させるためにラインザッツ城を包囲するだけに留めるはずだった。
だが、城の中が混乱しきっており、包囲されているにもかかわらず街の門が開かれて中から逃げようとする者までいたらしい。
そのため、急遽バルカ軍はラインザッツ城が中心にあるラインザッツ領都へと入っていったという。
結果として、ほとんど抵抗はなくあっさりと城を押さえてしまうことに成功した。
後からやってきたカイルと俺はゆうゆうと城の中に案内されたというわけだ。
その後は領都全体に対して変なことを仕出かさなければ身の安全と財産の保障をすることを宣言したことで、一応大きな混乱は起きていない。
そのため、今は領地の治安維持とラインザッツ領内の安定化のために軍を動かしているところだった。
そして、その仕事と並行して俺とカイルは再び協議し合う。
それは、仮想人格アイの増産についてだった。
壊滅したラインザッツ家に代わり、ラインザッツ領内を治める必要のあるリード家。
だが、そのリード家には広大な領地と影響力を持つラインザッツ領を治めるキャパがいささか不足している。
それを補うために、俺とカイルはついに切り札を投入することにしたのだった。
つまり、領内の仕事をアイにさせることに決めたのだ。
カイルが作り上げた仮想人格を神の依り代にインストールすることで、完全な自律行動を可能としているアイ。
だが、そのアイも完璧というわけではなかった。
というよりも、高度な学習機能があるがゆえに、最初からなんでもできるわけではなく、色々と教え込む必要があったのだ。
そのため、アイを作った当初はリード家の城であるシャーロット城にてメイド的な仕事をさせていたくらいだった。
しかし、もうある程度の仕事をこなせるまでになっているのではないかと思う。
あれからシャーロット城では城の中での様々な仕事を教え込んでいたし、フォンターナの街でも同様だ。
さらにはバルカ銀行の支店での受付業務や出入金管理などもやってもらっている。
そのため、現時点でもアイシリーズは非常に高度な事務作業ができるようになっているのだ。
人手不足のリード家のために、アイに仕事をさせることで領地を治める。
だが、そのためには少しアイの数が足りないかもしれない。
なので、もう少し増産する計画を立てた。
俺が魔力で精霊石を作り上げ、そこに複数の魔法陣を描き込んで魔力を注ぎ起動する。
こうして、リード家によって取り込まれたラインザッツ領は仮想人格によって管理される土地になることが決まったのだった。
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