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対峙

「500人以上? そんなに集めてるのか」


 行商人のおっさんが街へ行き集めてきた情報を伝える。

 やはり、当初の予想通りフォンターナ家は貴族からの使いである徴税官たちに攻撃をくわえた俺に対して兵を差し向けてきたようだ。

 だが、その数は500を超えるという。

 普段バルカ村から徴兵される人数は多くとも50人程度なのに、その10倍は用意してきたということになる。

 気合の入り具合がわかるというものだろう。


「で、どうするんだ、アルス?」


「どうするっていうのは? ここまできたら戦うしかないと思うけど」


「そうじゃねえよ。情報を集めてきたらこんなところにすごい陣地まで作ってるじゃねえか。しかも、隣の村からまで人を集めて。何か作戦があるのかと思ってな」


 行商人のおっさんに聞かれて考え込んでしまう。

 現状の俺達の戦力は100名を超える程になっている。

 この点で言えばフォンターナ家の予想を超えているのではないかと思う。

 だが、それでも人数差が大きい。


 たしか、城壁などを利用している防衛側を崩すには人数的に3倍は必要になる、というのを聞いたことがあるような気がする。

 そのことを考えると、いくらここに壁を作り防衛態勢を整えたと言っても耐えきれるものではないだろう。

 というか、籠城という方法自体取りづらい。

 籠城するのに絶対に必要な条件はほかからの援軍が来るという状況だけだ。

 援軍が来ることもないのに籠城したところで結局勝ち目はない。


「やっぱり野戦で決着をつけるしかないだろうな」


「大将、俺もその考えに賛成だ。守るにしてもそれなりの準備というのが必要だ。ここには防衛する手段が圧倒的に足りてないからな」


 一緒に行商人の報告を聞いていたバルガスも俺の考えに同意する。

 バルガスは戦場では一兵卒を超えるものではなかったそうだが、実戦経験を通して、ここで守りをかためるというのは良くないというのがわかるのだろう。

 であれば、100対500という圧倒的劣勢の立場であれども壁の中にこもらず戦いに出たほうがいいかもしれない。

 向こうはこちらのことをただの農民の寄せ集め、烏合の衆だと考えているはずだからだ。

 言ってみれば奇襲だ。

 こちらが全員戦闘用の魔法を使えるということを知られていないうちにぶつかり、損害を与える。

 対策を取られる前に勝利をもぎ取る。

 これくらいしか、方法がないともいえるのが厳しいがしょうがない。

 とにかくチャンスは一度きりしかない。

 初戦でこちらが損害を与えることができなければ、ここへついてきてくれた人たちも俺のもとを去ってしまうだろう。


 体が震える。

 果たして自分のしていることはなんの意味があるのかと考えてしまうこともある。

 だが、いまさら引き返すわけにもいかない。

 すでに他の人をも巻き込んで、引き返すことをできるラインを越えてしまっているのだから。

 生き延び、自由を手にするには戦うしかないところまで来ているのだ。

 こうして、俺は不安や恐怖が次々と浮かんでくる心を無理やり落ち着けながら、今後の対策を考えていくのだった。




 ※ ※ ※




 風が吹き、木の枝や葉が揺れ音が鳴り続けている。

 そんななか、平地に沢山の人が並んでいる。

 その集団は2つだ。

 片方はボロの服を着てみすぼらしい格好のものが多い集団。

 対して、もう片方はもう少しいいものを着ているものが多い。

 特に人数の多い集団の中には太陽の光を跳ね返すような金属製の鎧を身に着けているものも存在している。

 その数は30人以上になるのではないだろうか。


 俺たちは行商人から受け取った情報をもとに、フォンターナ軍を迎え撃つことにした。

 陣をはった川からさらに数時間ほど移動したところにある平坦な土地。

 そこに出向いていったのだ。

 行商人の情報は正確だった。

 おおよその人数とその行軍の日程などは正しかった。

 そのため、こうして目的の場所でお互いが相対する事となったわけだ。


 お互いがまだ弓矢も届かぬ距離で止まっている。

 と、そこへフォンターナ軍の中から出てくるものがいた。

 真っ白い馬、というか角のないヴァルキリーに騎乗した人物が一人でフォンターナ軍の先頭よりさらに少し前あたりまでやって来たのだ。


「バルカ村の住人に告ぐ。即座に降伏して武器を捨てよ。さすれば命だけは許そう」


 その人物が停止してから一呼吸置いて話し始めた。

 これはあれだろうか。

 戦闘前の最後通告だろうか。

 それとも兵の気力をあげ、こちらの士気を削ぐための演説だろうか。

 どうしたらいいのかわからないため、とりあえず様子を見る。


「バルカ村に住むアルスは罪を犯した。貴族の命令を無視するどころか、徴税官や兵士に対して危害を加えたのだ。これは看過できる問題ではない。だが、我々もバルカ村の住人を全員裁きたいわけではないのだ。今すぐアルスが投降し、みなが武器を置けばこれまでの生活に戻ることを約束しよう。速やかに武装解除をしたまえ」


 うーむ、敵ながらいい声をしている。

 こちらに多少近づいてきたとはいえそれなりに距離が離れている。

 だと言うのに、こちらの全員がしっかりと聞き取れるような声なのだ。

 遠くまで通る声とでも言うのだろうか。

 そういえば戦場では声がよく通るものがいい指揮官の特徴だというのを聞いたことがある気がする。

 そんな事を考えているときだった。


「おい、アルス。ボケっと聞いていていいのか?」


「父さん、どうしたの?」


「ぼーっとしている場合じゃないって言っているんだよ。あんなことを聞かされたらここにいるみんなの心が揺らぐだろ。何か言い返さないと」


「そうだぜ、大将。戦い前の口上が始まったんだ。すでに戦いは始まっているってことさ」


 父さんに続き、バルガスまでがそう言ってくる。

 なるほど。

 やはり、こういうのは甘く見ていると戦況に大きな影響を与えるものなのだろう。

 ならばここらで俺もなにか言っておく必要があるな。

 そう考えた俺はこちらもヴァルキリーに騎乗した状態で集団の前に進み出ていったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が後手後手で、自分から行動を起こそうとしないのがイラつくなあ。 まわりに担がれるだけで皇帝になって、傀儡のまま殺されるどっかの古代帝国の皇帝みたい。
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