魔法習得の性質
「ここをキャンプ地とする」
「アルス、お前何いってんだ?」
バルカ村から街に向かって南下する途中にある川。
途中で南西方面にある隣村に立ち寄りバルガスを始めとした隣村の戦力を吸収することに成功した俺は、南にある川に来ていた。
川と言ってもそれほど大きなものではない。
だが、そこそこの水深がある川のため、よく人が通る場所というのが限られているのだ。
もしも、フォンターナ家が人数を集めてバルカ村へとやってくるのであればここを通る。
その場所へと先に陣取ってしまうことにしたのだ。
川の北側に陣取って、野営の準備に入る。
周囲から薪となる木枝を集めて火をおこす。
その間に俺は次々と建物を建てていった。
もはや定番化しつつある宿屋を量産していったのだ。
集団で手分けして【整地】を行い、俺が記憶している宿屋を再現していく。
ポンポンと増えていく建物。
わずか1日にして、川の北には宿場町のような場所が出来上がってしまった。
「どうせだし、防衛用に壁も作ってみるかな?」
俺たちの集団の人数は隣村の人間を吸収したこともあり、100人を越えている。
その人数を全員収容しても足りるだけの施設群が出来上がったので、つい欲が出てしまった。
まだフォンターナ家のものたちは来ていないようだ。
なら、せっかくなのだから壁を作ってみることにした。
「え? 【壁建築】できないやつがいるのか?」
だが、そこで驚くべきことがわかった。
俺が名付けをして魔法を習得させた人たち。
全員が俺の独自魔法を使用することができるようになっていた。
だというのに、一部の魔法を使うことができない人がいるということがわかったのだ。
急いで調査した結果わかったことがある。
それは魔力の使用量が多い魔法を使えないものがいるということだった。
しかも、それは単純に使えないという状態なのではなく、習得できていないというものだったのだ。
名付けを行うと、まるで脳に直接魔法の情報をインプットされるように魔法を覚える。
その際、呪文名とともにその魔法がどういう効果があるのかというのがなんとなく理解できているのだ。
それは一度も実践していなくともわかるようで、例えば【整地】であればだいたいどのくらいの面積を一度に整地できるかというのがわかるのだ。
だが、【壁建築】を覚えていないものは名付けを行ったあともそんな魔法があるというのを知らなかったようで、さらにどのような壁ができるかということも知らなかった。
もしかして、と思うことがあった。
そこで、【壁建築】を使える人と使えない人を集めて観察してみる。
そのとき見る際には魔力を目に集中させて、その人の持つ魔力の量を見たのだ。
「やっぱりか。壁を作れないやつは魔力の量が少ないな」
俺の考え通り、【壁建築】という魔法を使用できないものは総じて魔力量が少なかった。
それも基準があるようだ。
壁建築は結構大きな壁を作り出すため、一度の魔法で使用する魔力量が多い。
俺も自分の土地を壁で囲むときには魔力回復薬を飲みながら建築したものだった。
そして、その一回分の魔力使用量にその人の持つ総魔力量が足りなければ知識としてすら魔法のインプットが行われないようだった。
これは多分、その人が自分の体を守るための仕組みなのかもしれない。
俺も以前、自分の身に釣り合わない量の魔力を消費して意識を失ったことがあった。
魔力欠乏症とでも言うべき状態で、何日も起きられなかったくらいだ。
魔力量が足りないのに一発ですべての魔力を使い切ってしまうような魔法を覚えたらどうなるだろうか。
魔法が発動する間もなく気を失い、場合によっては危険なことにもなりかねない。
そうならないように防衛本能としてなのか、あるいは魔法陣の仕組みなのか、力の足りないものには相応の魔法しか覚えられないようになっているのかもしれない。
この件は要調査案件として覚えておこう。
今後名付けられた人の魔力量が増えた際に【壁建築】を使えるようになるのかも追跡調査しておくことにしよう。
ちなみに、【壁建築】と同様に【道路敷設】も使えない人がいたようだ。
こっちも結構道幅を広く設定したせいで魔力使用量が大きいからだ。
だが、【整地】や【土壌改良】などといったものから【身体強化】や【散弾】などの戦闘向きのものはみんな使えるようだ。
とりあえずこれからの戦いには問題ないだろう。
そんな風に名付けの魔法陣の不思議な現象に頭を悩ませつつも、川北の陣地の周囲を壁で取り囲み終えた。
そうして陣地が完成した頃になって、行商人のおっさんからフォンターナ家の情報が入ってきたのだった。
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