ラインザッツ家の危険性
「それで? その道路はもう完成したんだよね、アルス兄さん?」
「ああ。スルトの街とリシャールの街をつなぐ交易路を作っといたぜ、カイル。【道路敷設】と一緒に【線路敷設】も使ったからな。大量の荷物を搬入することができるようになったはずだ」
「……うん、知ってる。アイが四枚羽で上空から航空地図を撮影して随時更新しているからね。それで見てるから、状況はある程度理解できているよ」
「いやー、やっぱ四枚羽の本当の活用法ってのはそういうのなんだろうな。戦場で魔銃をぶっ放す兵器に使えるけど、基本的には平時に利用したほうが効果がある。この街道と線路作りも上空から観察して作った航空地図があったからこそ、短期間でできたからな」
「なんか楽しそうだね、アルス兄さん」
「まあな。命をかけて戦うなんてことをするよりは、こうして道路でも作って飯の種を得るほうが俺の性に合っているよ」
「ふふ。アルス兄さんは昔からそういうところは変わらないね。毎年戦場に出ているのに、あんまり戦いを楽しんでないっていうのは、アルス兄さんのいいところだとボクは思うよ」
「俺はバイト兄のように戦闘狂ってわけじゃないからな」
いつのまにやら、焼肉街道という謎の名称が定着しつつある道。
スルトとリシャールを結ぶその街道を、バルカの魔法を使って整備し終えた俺はカイルのもとへとやってきていた。
もうリゾルテ王国軍は本国へと戻っているのを確認している。
そのため、スルト領を離れられるようになっていた。
カイルのほうはというとライン川の東岸にあるコスタンブル要塞を攻略し終えていた。
かつて、何年も籠城戦をしてついには強敵を追い返したこともあり、一度も落とされたことがないこの要塞は難攻不落だと言われていた。
それをもうすぐ夏が終わろうかという時期までに攻め落とした。
カイルの実力からすると意外と時間がかかったようだが、街全体が大きく、ライン川の水路などを使ってうまく防衛されたりもしていたのである程度はしょうがないだろう。
だが、ここまでくればラインザッツ家はもう後がない。
このコスタンブル要塞を最終防衛ラインとして守りを固めたということからもそれがわかる。
そのため、コスタンブル要塞攻略成功の報告を聞いた俺たちはカイルのもとに集まり、最後の戦いに挑むことにしたというわけだ。
「いよいよだな、アルス。もうすぐラインザッツ家との戦いも決着がつくな」
「張り切ってるね、バイト兄」
「もちろんだ。お前に付き合って焼肉街道なんてもんをずっと整備していたからな。いい加減、戦いたかったところだよ」
「よく言うよ。工事は嫌だからってヴァルキリーに乗ってリゾルテ王国軍への偵察ばっか行っていたじゃないか」
「そんなことはないぞ。俺だってかなり道路作りの監督をしてたって。なあ、ブライアン?」
「バイト殿の言うことは合っていますよ。持ち前の指揮能力を発揮して、工事の差配をしていただきましたから」
俺とカイルが話していると、そばにきたバイト兄が話しかけてきた。
どうやらバイト兄は再びカイルと合流して戦場へと出るのが嬉しいようだ。
張り切るのはわかるし、バイト兄の実力を信頼してはいるが、相手はあのラインザッツ家だ。
決して油断できない相手であり、注意するようにもう一度だけ言っておこうか。
だが、俺が口を開こうとしたとき、その前に言葉を発する者がいた。
「バイト殿の能力はこの中の誰もが知るところでしょう。一度は戦った我々はそれを身にしみて理解しています。ですが、それでも言わせてください。ラインザッツ家はそう簡単には終わりませんよ」
「ビラン殿の言う通りだ。ラインザッツ家の魔法は強力だからな。特に対人性能は群を抜いている。【刹那】を使われたら、いくら氷炎剣を使いこなすとはいえバイト兄でもなにが起こるかわからないんだぞ?」
「そのとおりです。事実、我々はコスタンブル要塞の攻略でも思った以上に手間取りました。時間を操作して攻撃を加えてくる相手との戦いに我がサラディア家は慣れているはずですが、それでも結構な被害が出たのですから」
俺が言いたかったことを代わりに言ってくれた存在。
それはカイルとともにコスタンブル要塞を攻略していたサラディア家当主のビランだった。
サラディア家はスルト家と同様にもともとはラインザッツ家の下につく貴族家だった。
かつて、ラインザッツ軍としてサラディア家も軍を率いて、俺やバイト兄が率いるバルカ軍と戦った。
そして、今はリード家の下についてカイルとともに行動していたのだ。
そのビランが言う。
決してラインザッツ家を侮るなかれ、と。
それはそうだろう。
サラディア家は結構な損害を出していたからだ。
【水壁】という防御用の魔法を持ち、実戦的に使い勝手のいい魔法を持つサラディア家はコスタンブル要塞での攻略戦では常に前線に立ち続けたそうだ。
何度も壁を越え、城門を開けようと突撃し、内部へも入り込んでいた。
が、そのたびにラインザッツの魔法に阻まれてきたのだという。
やはり、その中でも特に【刹那】が厄介だったようだ。
時間を停止して攻撃してくる相手に幾度となく煮え湯を飲まされたのだという。
実際問題、時間が止まった中で攻撃されればそうそう防げないだろう。
「けど、だからこそラインザッツ家はここで潰しておかないといけない。だよな、カイル?」
「うん、そうだね、アルス兄さん。ラインザッツ家の【刹那】は暗殺向きだ。やっぱり、どう考えてもラインザッツ家だけは味方にしてそばに置いておくのは危険すぎると思う」
「ああ。だからこそ、この際、徹底的に叩いておこう」
俺がそう言うと、その場にいた全員が頷いた。
この場にいるのはこれからラインザッツ家と最後の戦いに赴く者たちばかりだった。
カイルやバイト兄はもちろんのこと、これまで俺たちとも争いながらも最終的にはリード家に臣従した者たちがここに集まっている。
そして、その戦うべき相手は当然ラインザッツ家だ。
時間を操作する魔法を持つ一族。
その魔法の性能は対人性能でいえばトップクラスだろう。
だが、一番気がかりなのは暗殺のようなケースだった。
もしも、これからラインザッツ家と戦って勝利した場合、彼らを味方に引き入れることができるかどうか。
俺やカイルなどは特にそれを心配していた。
フォンターナ王国は特に重要なポジションにいる者の多くが若く、しかも、後継者もまともに育っていないことが多い。
そんな中に、時間を止めて攻撃できる実力者が入り込んだ場合の危険性をどうしても考えてしまう。
サラディア家やスルト家などと同様にラインザッツ家をリード家の下につくことを認めることはなかなか難しい。
いつ、何時、寝首をかかれるかわからないからだ。
だからこそ、その危険は摘み取ってしまわなければならない。
そのためにはどうすべきか。
族滅しかないだろう。
かつて、カルロスが仇敵であるウルク家を一人残らず倒して、【黒焔】などの魔法もこの世から消し去ってしまったように、ラインザッツ家と雌雄を決する必要がある。
そうしなければ、リード家の当主たるカイルがこの地を治めることができないからだ。
こうして、コスタンブル要塞を攻略し終えたリード・バルカ連合軍はラインザッツ家との戦いを完全に終わらせるための戦いを行うことにしたのだった。
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