あくなき努力
かつてあった光景を思い出す。
【壁建築】によって囲った陣地。
その陣地の中に立てこもる俺たちに対して投石攻撃が行われた。
かつて俺が作った投石機を逆用して壁の向こうから放り込まれた大岩は、ただの岩でありながらこちらに大きな被害を出した。
その大岩は燃えていた。
しかも、ただの炎ではなく黒い炎がついていた。
投石攻撃を行っていたウルク軍の大将であるペッシ・ド・ウルクの持つ当主級の魔法である【黒焔】。
あらゆるものを燃やし尽くすまで決して消えないと言われるその【黒焔】によって燃える大岩が俺たちの頭上からいくつも降り注いでいたのだった。
あのときのことは今でも思い出す。
今までいろんな相手と戦ってきたが、あそこまで追い詰められたのはあのときの戦いが一番だったのではないだろうか。
それは、当時俺と一緒に戦場にいたバイト兄も同様だったのだろう。
俺の兄として、これまでの俺の戦いでいつも活躍してくれていたバイト兄。
現在はバルカ軍やフォンターナ軍の騎兵団として構成している兵に対して、バイト兄は名付けを行い【騎乗術】を使えるようにしている。
そのため、バイト兄の魔力量もかなりのものとなっていた。
たとえ当主級が相手でも、一歩も引かず戦い抜ける実力がある。
だが、バイト兄はその強さで満足しているというわけではなかったようだ。
日々、自分を高めるために努力している。
毎日のようにどこかで誰かと模擬戦をしたり、訓練をしたりしている。
が、どうやら心の底で思うところがあったのだろう。
弟である俺やカイルが予想以上に強くなっており、結果を出しているということに。
兄として弟には負けられない。
そう思って、俺たちに勝てる強さを求めていた。
そうして、バイト兄がたどり着いたのが、かつて自分たちを苦しめた【黒焔】だった。
一度火が付けば対象が燃え尽きるまで消えない黒い炎。
これが使えれば、それまでよりも確実に強くなれる。
だが、それは叶わぬ夢だったはずだ。
なぜなら、【黒焔】を使える魔法を持ったウルク家はすでに族滅しており、その使い手はどこを探してもいなかったからだ。
しかし、バイト兄はそれでも諦めなかった。
それはきっとペッシのしたことを覚えていたからだろう。
ペッシはかつて【黒焔】を使って俺たちを追い詰めた。
だが、その【黒焔】の使い方は二通りあったのだ。
ひとつは当然のことながら、ウルク家が持つ呪文だ。
当主級と呼ばれる騎士を圧倒するほどの魔力量を持つウルク家の者に使用可能な【黒焔】という呪文。
それを唱えることで黒い炎を使っていた。
が、それとは別に【黒焔】を使っていたときがあった。
それは九尾剣を使っていたときだった。
ペッシは自身が持つ九尾剣に魔力を注ぎ込み、その剣身から黒い炎を出していたのだ。
あれは不思議な現象だった。
というのも、俺やバイト兄などがいくら九尾剣に魔力を注ぎ込もうとも、出てくる炎の剣は普通の炎だったからだ。
魔力を多く注げば、その分だけ炎の剣の大きさが変わったが、それでも限界があるようである程度の大きさ以上にはならなかった。
結局、その後、俺は九尾剣から黒い炎を出すことは叶わなかった。
だが、バイト兄はそれを実現させた。
きっと、普段からあらゆる武器に魔力を注いでいたからこそ、なんらかのコツを掴んでできるようになったのかもしれない。
バイト兄の魔法は【騎乗術】というものがあるが、最初に作り出したのは別の魔法だった。
【武装強化】だ。
手にする武器に魔力を注ぎ込み攻撃力を向上させるという魔法で、北の森にいた鬼を相手に作り出した魔法だった。
魔法剣ではなくともただの剣であっても、【武装強化】を行えば攻撃力が大幅に上昇する。
かつて、初めて戦ったときには傷すらつけられなかった巨人タナトスと再び出会い戦った際に、この【武装強化】を使い傷を負わせたことなどもあった。
バルト家はこの【武装強化】を使い高い攻撃力を誇る。
そして、そんな魔法を作り出した本人であるバイト兄はこの魔法の呪文を唱えることなく常に自力で魔力を武器に送り込んでいた。
特に九尾剣にはいつも魔力の込め方などにアレンジを加えて、いろいろと試していたらしい。
そして、その努力が実を結んだ。
ついに、九尾剣から黒い炎を出すことに成功したのだ。
あの圧倒的な火力を持つ黒い炎を、今は九尾剣ではなく同じ炎鉱石を使用している氷炎剣からも出せるようになっていた。
「すごい。魔法剣から氷の剣が出たと思ったら、黒い炎に変わりました。あれがあの氷炎剣の能力ですか、アルス・バルカ殿?」
「そうですよ、ブライアン殿。と言っても、他の者が使えば黒い炎は出ませんけどね。氷炎剣の本来の力は氷と炎の変換です。剣身から生み出した氷を炎へと変えることができるのです」
「な、なるほど。実体のある氷の剣と違い、炎でできた剣は防ぎにくそうですな。あの攻撃を防ぐのは難しそうだ」
「そのとおりですね。そして、あの黒い炎はかつてウルク家が使用した【黒焔】と同じものです。燃やしたものは完全に燃やしきるまで決して消えることはありません」
「…………え? オ、オリビア様はバイト殿の攻撃によって燃えていますよ? 黒い炎が全身を燃やしているのですが……」
「そうですね。……大丈夫なのかな?」
「いや、大丈夫なわけないでしょう。人は燃やされれば死にますよ」
ごもっともなことで。
ブライアンの言うことはまさに真理だろう。
バイト兄の氷炎剣による攻撃をオリビアは氷の剣だと判断した。
そして、その攻撃は遠距離攻撃ではないために【矢避けの加護】の宝玉で防ぐことはできない。
だからこそ、自身の持つ剣で払おうとしたのではないだろうか。
だが、氷炎剣による氷の剣は打ち払おうとした瞬間に黒い炎の剣となった。
それにより、炎の剣はオリビアの剣と鍔迫り合いになることなく通過して、オリビアに直撃してしまった。
その結果、オリビアは騎乗している飛竜ごと黒い炎によって包まれてしまったというわけだ。
「あ、よかった。炎を氷に変換したみたいだ」
「……よかった、のでしょうか? 今度は氷漬けになった状態で地上に落ちましたよ?」
「うーむ。オリビア殿を手に入れるために勝つ必要があるとはいえ、我が兄ながらすごい攻撃をするな。生きてるのかな? まあ、いいか。勝負あり!! 神前決闘の見届人たるアルス・バルカがここに告げる。この勝負、バイト・バン・バルトの勝利だ」
黒い炎によって全身が燃えているオリビアに空中で近寄ったバイト兄が再び氷炎剣を振るった。
今度はその黒い炎が瞬時に氷に変わった。
ちなみにあの氷も普通ではないらしい。
あらゆるものを燃やし尽くす黒い炎から変換した氷は、いわば絶対に溶けない氷と言えるだろう。
かつて、初代王にして不死者の王でもあるドグマ・ドーレンを長年封印していた氷に近いかもしれない。
そんな絶対零度の氷によって氷漬けにされてしまったオリビアはそのまま地上へと墜落した。
それを確認した俺は高らかに宣言する。
こうして、領地とオリビアの身を賭けて行われた神前決闘はバイト兄の勝利によって幕を下ろしたのだった。
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