決闘開始
「聖域。……両者、前へ。これより、バイト・バン・バルトとオリビア・リゾルテ殿による神前決闘を始める。オリビア・リゾルテ殿の勝利の場合はバルカ軍は即時の停戦と撤退、そしてリゾルテ王国によるラインザッツ領南部の領有を認めること。バイト・バン・バルトの勝利の場合はリゾルテ王国軍の即時の停戦と撤退、そしてリード家による領地の領有を認めること。さらに、オリビア・リゾルテ殿はバイト・バン・バルトの妻となる。以上のことを誓いますか?」
「おう、神に誓うぜ」
「バイト・バン・バルトの誓いを聞き届けました」
「あの、こちらだけ条件が多いのは不公平では……」
「では、神前決闘を拒否するということでよろしいですか、オリビア・リゾルテ殿?」
「いえ、そういうわけではありませんが」
「では、誓いますか?」
「……わかりました。誓います」
どうやらオリビアは相当バルカ軍との決戦を回避したいようだ。
自分の身を賭けて決闘するという気持ちはどんなものなのだろうか。
……なんかこう、無理やり結婚を迫っているみたいでこっちがちょっと責任を感じてしまうな。
別に断ってくれても全然いいのだが、両者が正式に合意したことで神前決闘が行われることは確定した。
ならばもう、あとはバイト兄の勝利を祈りつつ、見守るだけだ。
この神前決闘は一対一の戦いを行う。
が、別にオリビアが自分で戦わなければならないという決まりはないようだ。
代理という形で別の者が決闘に出ても問題ない。
そのためか、竜騎士部隊のほとんどの者が「自分が戦う」とオリビアに申し出ていた。
どうやら、民衆人気だけではなく部隊内でもかなりの人気があるのだろう。
バイト兄が結婚云々と言い出したときから、多くの竜騎士たちが殺気を放っていた。
だが、オリビアは自分で戦うことを選択したようだ。
彼女は強いのだろうか?
こちらが事前に持っている情報ではここ数年ほどは戦場に担ぎ出されるようになったが、それまでは別に軍人だったというわけではないはずだ。
ただ、魔力量はかなりある。
竜騎士部隊の騎士たちに対してもオリビアが名付けをしているのかもしれないが、普通の当主級よりも魔力量が多いように思う。
単純な魔力量だけで言えば、バイト兄よりもオリビアのほうが多いように感じるくらいだ。
俺が【聖域】をかけて清めた場所で誓いを立てあった両者が向き合う。
と、そこで思わぬ乱入者が二人の間に割って入ることになった。
それを見て、思わずバイト兄が声を上げた。
「……おい、なんだそいつは?」
「なにか? この子は私の飛竜ですが?」
「これから決闘するんだろ? 邪魔だ。下げてろ」
「何を言っているのかわかりません。私はこの神前決闘でこの子に乗って戦うのです。下げるはずがないでしょう」
「なに? まさか、そいつで空に飛ぼうってんじゃないだろうな? そんなのありかよ」
「当然です。決闘においてどのような武器や防具を使うかは決まりはありません。私は竜騎士部隊の将として、竜騎士として飛竜に乗って戦う。当たり前のことでしょう?」
そう言って、オリビアは彼女のそばにきた飛竜を撫でる。
全身を鱗に覆われている飛竜だが、オリビアに撫でつけられて機嫌が良さそうだ。
他の竜騎士たちが飛竜を相手にしているのを見ていても躾けられてはいるがそこまでの信頼関係まではなさそうな感じを見ると、やはり他の者とは飛竜との関係が違うのかもしれない。
しかし、もしかしてこれが彼女の決闘をする根拠だったのだろうか。
飛竜も装備品のひとつだと言われてしまえば、たしかに否定はできない。
そして、一対一の戦いで片方だけが空を飛べるというのは普通に考えて大きなアドバンテージだ。
バイト兄は【氷槍】などの遠距離攻撃魔法が使えるとはいえ、勝つのが相当難しくなるのは間違いないだろう。
「っち。じゃあ、ちょっと待ってろ。そっちがそのつもりなら、こっちも用意する」
「用意? ……まさか、その子は」
「おう。俺も飛竜に乗って戦う。それなら別に問題ないからな」
「待ってください。その子はどこで……。その傷は?」
「ん? こいつはこの前手に入れた飛竜だよ。傷を負って置いていかれた飛竜を捕まえて、俺が乗れるように躾けておいたんだよ」
「あなた方は【調教】を使えないはず。だとすると、無理やりその子を従えているのですか。なんというひどいことを」
だが、彼女の目論見は少しあてが外れたことになるだろうか。
バイト兄は相手が決闘に飛竜を持ち出すなら自分も、とこちらが鹵獲していた飛竜を引っ張り出してきた。
ライン川でのリゾルテ王国軍との攻防で、こちらは多数の竜騎士を撃墜した。
だが、それを実行したのは四枚羽であり、四枚羽による魔銃での攻撃では飛竜たちに決定的なダメージは与えられなかった。
なので、竜騎士を倒したものの生き残った飛竜は他の竜騎士に連れられて撤退されてしまっていた。
が、すべての飛竜が撤退できたわけではない。
魔銃での攻撃も数を打てばそれなりの攻撃にはなるもので、何匹もの飛竜が戦場にて倒れていたのだ。
そして、その中に生きている飛竜もいた。
バイト兄はそいつを見つけて、俺がフォンターナの街などに帰っている間にしつけをしていたらしい。
といっても、【調教】がないので無理やりいうことをきかせるようにしたらしい。
瀕死で倒れていた飛竜に【回復】を使って傷を治したあと、言うことを聞くまで体で覚えさせたらしい。
そのため、【回復】をかけてもその飛竜には体に傷が残るくらいになってしまった。
見た目は歴戦の武者のように体中に傷が残る飛竜のその姿を見て、竜姫と呼ばれるオリビアがショックを受けるのもわからんでもない。
しかし、そんな無茶苦茶なやり方でも飛竜はバイト兄を乗せて空を飛ぶようになっていた。
以前、俺と話していたが飛竜に乗るということが現実になり、バイト兄はご満悦だった。
ちなみに、俺はまだ飛竜には乗ったことがないのでいつか乗せてもらおうと思う。
「それでは、この決闘では両者飛竜に乗って行うこととする。両者とも飛竜にまたがった状態で待機。合図を以って決闘を始めるように。それでは始め!!」
俺が合図を出すと同時に二人と二匹が空へと飛び上がる。
こうして、バイト兄対オリビアの決闘は飛竜にまたがっての空中戦となることになった。
俺は初めて見る空中での戦いに少しワクワクしながら、二人の動きを見つめるのだった。
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