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国の形

「悪いな、カイル。せっかくコスタンブル要塞を攻略している最中だったのに呼び戻すことになっちまった」


「別にいいよ、アルス兄さん。それに、リオンさんと直接会って話したいっていうのはボクも思っていたから。やっぱり重要なことはじかに会ってじゃないとね」


「そう言ってもらえると助かるよ」


 フォンターナの街とリシャールの街に転送魔法陣をつないで行き来が可能になるようにした。

 これまではフォンターナの街とバルカニアや、バルカニアとリシャールの街を行き来できるように転送魔法陣を設置していたが、これでバルカニアを経由せずに移動できるようになったということだ。

 もちろん、誰でも勝手に移動できるわけではなく、それぞれの街で転送魔法陣を管理する者を配置して、使用する際は事前に【念話】で連絡をとってからということになる。


 そのため、リシャールの街の最高責任者であるカイル不在では勝手に転送魔法陣を設置できないということもあり、一時的にコスタンブル要塞から帰還してもらっていたのだ。

 コスタンブル要塞は現在も包囲戦を継続しているので、こちらでの用が終わり次第、カイルはまた戦場へと戻ることになる。


「この度はリシャールの街にフォンターナ軍の駐屯の許可を出していただきありがとうございます、カイル」


「かまいませんよ、リオンさん。歓迎いたします」


「そう言ってもらえると助かります。それで早速ですが、カイルから私に話があると聞いていますが、どういう内容なのでしょうか?」


「ええ、実はリオンさんとアルス兄さんに直接聞いておきたいことがあったんです。ドーレン王、この場合は暫定王と言われるシグマ・ドーレンですね。その暫定王の処遇はどうするつもりなのかを聞いておきたくて」


「暫定王シグマ・ドーレンですか? 暫定王は現在まだ正式にはドーレン王家の王位にはついてません。継承権第一位ではあるものの、ドーレン王家の当主としての座についていないからです。そのための儀式を後ほどアルス様が行う手筈になっていると思いますが……」


「それは承知しています。その後のことが気になっているんですよ。暫定王シグマ・ドーレンが正式にドーレン王となった場合、王都圏やその他の北部貴族の扱いはどうするつもりなんでしょうか? 今はビスマルク家が擁立した臨時王が起こした王都連合軍にリード家が勝利して、各家に捕虜の身柄と引き換えに取引していますが、ドーレン王の処遇が決まらないことには微妙に動きづらいのですよ」


「……アルス様はどういうお考えなのですか?」


「え、ああ、俺に振るの? うーん、そうだな。シグマ・ドーレンを王にしたらしたで、後から面倒になるのかもな。いつ王位を返還するかは期限を決めてなかったはずだし、先延ばしにして後から考えるってのはどうだろうか?」


「それは駄目だよ、アルス兄さん。ボクも実際に王都連合軍の捕虜として身柄を押さえた人たちから話を聞いたけど、やっぱりドーレン王の存在は貴族たちの中では大きいんだ。あんまり粗雑な扱いをすると、各方面から非難殺到になると思うんだよ」


「そうかもしれないけど、下手に権力を残すようなことをするのもな。じゃあ、実権の無い名家として残すけど領地は取り上げるとか?」


「それも一つの方法かもしれないけど、反発はあると思うよ。それよりは王家としての地位を残したまま、フォンターナ王国に取り込んだほうがいいんじゃないかとボクは思うんだ」


「どういうことでしょうか、カイル?」


「はい。実はリオンさんの考えから得た発想なんです。リオンさんはリゾルテ王国を王国の形を残したまま、奥さんの実家を王家にすげ替えてフォンターナに取り込もうと考えているんですよね?」


「ええ、一応、今の段階ではそういう方向に持っていけないだろうかと思案していますが……」


「それを聞いて、ドーレン王家もそうしたらどうかと思ったんです。王都圏をドーレン王国として自治権を与えた状態でフォンターナに取り込んだほうがいいのかなって。もしそうすれば、王家の存在価値を否定せずに取り込むことになるから、リゾルテ王国への裏工作でも説得材料になるんじゃないでしょうか?」


「そんなことを言っていいのか、カイル? そうするとリード家が得られる領地が減ることになりそうだけど」


「問題ないよ、アルス兄さん。というか、あんまり広すぎても今のリード家では管理しきれない可能性もあるしね。リード家はラインザッツ領を取り込むだけでも十分すぎるくらいの戦果だと思うし」


「カイルはこう言っていますが、どう思いますか、アルス様? 王家を残したままフォンターナ王国に取り込むというのはありえない選択ではないようにも思いますが……」


「……まあ、できなくはないんじゃないの? ドーレン王家にどの程度の裁量を残すかに議論の余地があるだろうけど、形としては連合王国とかいうものになるんじゃないか」


 どうやら、カイルはドーレン王家の存在を結構重く見ているようだ。

 多分、王都連合軍に勝利した後に何度も王都圏の連中や複数の貴族家とやり取りしたことで思うところがあるのではないだろうか。

 どれほどかつての力を失っているとは言っても、やはりドーレン王家の存在は特別に思っている者が多い。

 そのドーレン王への扱いを間違えれば、いくら領地を切り取って支配しようとしても反発を招くということなのだろう。

 それは貴族や騎士だけではなく、民衆レベルでの話でもある。

 今後のことを考えると、シグマ・ドーレンの扱いは相当に注意しなければならない。


 それならば、いっそドーレン王という存在を最大限に立てつつも取り込んでしまったほうがいいのではないかという考えのようだ。

 ぶっちゃけると悪くはない考えだと思う。

 というよりも、バルカやリードのことを考えるとそのほうがいい面も大きい。


 なんと言っても、今回はバルカ・リード軍が恐ろしいほどに活躍しすぎているというのもある。

 王都連合軍とラインザッツ軍を徹底的に叩きのめして、その全ての領地を得た場合、リード家の領地の広さは現状のフォンターナ王国を追い抜きかねないのだ。


 もし、そうなればどうなるか。

 家臣団も急造のリード家が権力争いに巻き込まれて非常に面倒な事態にならないとも限らない。

 カイルはそれを嫌っている。

 だからこそ、ほとんど切り取ったといってもいい状態の王都圏の領地を手放すような主張をしているのだろう。


 その後も、俺とリオンとカイルによって、フォンターナ王国の形作りについて議論が続けられた。

 そして、夜が更けるころに三者の中で結論がまとめられた。

 ドーレン王家やリゾルテ王家を速やかに取り込むために、ある程度の王家としての権限を残したまま、フォンターナ王国へと吸収する、と。

 こうして、にわかにフォンターナ王国は連合王国に近い統治機構を目指すことになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] カイルが前線から抜けている間は要塞攻略は誰が指揮しているのだろう、川を挟んでリゾルテ軍を監視しないといけないバイト兄も無理だろうし。 瞬間移動や念話があるからちょっとコンビニ行ってくるとでも…
[一言] ふむふむ、なるほどなるほど 上下関係はありつつも国としての自治権は残すのですね。
[一言] これでドーレン王家の代わりに偉ぶれる覇権貴族制度は廃止か。しかしさんざ王の暗殺を企てすげ替えしまくってるくせに粗雑に扱ってる自覚無しなのか貴族って
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