リオンの決断
「でも、そんな工作活動をできるのか、リオン? お前のことだから各地に【念話】を使える人物を散らばせているんだろうけど、一番南のリゾルテ王国にちょっかいをかけられるのか?」
「できなくはないですが、難しいかもしれませんね。なので、私も南に向かおうかと思います」
「南に? リオンがか? ってことは、フォンターナ軍を動かすってことになるのか?」
「はい。といっても、そのためにはアルス様の協力が必要不可欠ですが」
リオンの妻の実家をリゾルテ家の本家と取って代わるように働きかける。
そのような方針になったはいいが、もちろん、俺にそんなことはできない。
そんなことができるのは、フォンターナの中でもリオンくらいだろう。
なので、リオンにそのことを聞くと、本人が南に向かうつもりだという。
もちろん、リオンが一人で向かうわけではない。
フォンターナ軍を動かしてリゾルテ王国に向かおうと言うつもりなのだろう。
そして、そのためには俺が転送魔法陣を作り、フォンターナ軍に使う許可を与える必要がある。
そうしないと、リード領にたどり着くだけで何ヶ月もかかってしまうからだ。
「うーん、それはどうだろうな。別にリード家がフォンターナ軍に援軍要請しているわけでもないのに、連れていくってのもどうだろうって感じだし。この戦いに加わったからって、今更領地の所有権をフォンターナ王国側に主張されたら、カイルも困るだろう?」
「ならば、改めて取り決めをしておくのはどうでしょうか? フォンターナ軍を派遣した場合のことについて今のうちに決めておきましょう。そうですね。大雑把ですが、リード家には今回の戦いでラインザッツ領と王都圏、そして王都北部の貴族領の切り取った領地を必ず認めます。ですが、リゾルテ王国側にかんしてはフォンターナ王国にまかせていただきたい。どうでしょうか?」
「えっと、それってラインザッツ領を切り取ったリゾルテ王国軍を追い出して取り返した領地もリード領ってことだよな?」
「そのとおりです」
「ふむ。まあ、それならカイルも認めるんじゃないかな? リオンのほうからカイルに連絡を入れてその件を伝えておいてくれ。カイルが了承するなら俺は別に問題ないよ」
「わかりました。すぐに伝えておきましょう」
リオンの主張はこうだ。
フォンターナ軍を転送魔法陣を使ってリード領のリシャールの街につれていく。
そして、そこでリオンが主体となってリゾルテ王国になにやら仕掛けるつもりらしい。
このフォンターナ軍はリード家からの要請で援軍として出すわけではない。
故に、リード家が切り取った領地の所有権についてなどは口をだすことはない。
ただ、ラインザッツ領からリゾルテ王国軍を追い出した後は、自分たちに任せろということなのだろう。
要するに、俺やバイト兄がリゾルテ王国軍に勝った勢いでリゾルテ王国そのものに乗り込んでいくなと言いたいのだろう。
せっかく裏工作してリオンの嫁の実家を盛り上げようというときに、不確定な動きをされるのは困るというところだろうか。
「カイルから返事が来たようです。こころよく了承してくれました。それでは、すぐに向かいましょうか」
「すぐに? フォンターナ軍をそんなにすぐに動かせるのか?」
「もちろんですよ、アルス様。あのラジオ放送を聞いて、皆戦場に出られていない現状を悔しがっているくらいです。活躍の場を求めていますからね」
「やる気満々ってことか。ま、リシャールの街でハメを外しすぎないように気をつけさせてくれよ」
「大丈夫です。フォンターナ軍の規律はアルス様が大将軍を務めていたときと変わりありませんから。では、準備をお願いします」
「了解。それじゃ、行きますか」
こうして、俺はリオンとの話し合いによって、フォンターナの街とリシャールの街をつなぐ転送魔法陣を設置することにした。
その転送魔法陣を利用して南へと移動するのは大将軍ピーチャ・フォン・アインラッド率いる80000のフォンターナ軍だ。
これはフォンターナ軍全体からみても結構な数を送り出すことになる。
リオンがいかに本気かよく分かった。
おそらく、リオンは行き着くところまで行ってしまおうと考えているのではないだろうか。
カイルが王都連合軍を下して影響力を拡大させた。
そして、この調子でいけばおそらくは覇権貴族であるラインザッツ家にも勝つかもしれない。
そうすると、その影響力は半端なく大きなものになる。
君主であるフォンターナ家に匹敵する、あるいはそれ以上の支配領域を手に入れるかもしれない。
その支配領域を安定したものとすれば、おそらくはリード家に敵う勢力はなくなるのではないだろうか。
なにせ、王都圏とその北部貴族とラインザッツ家を除いて、まだ存在している大勢力は南のリゾルテ王国と東のメメント家くらいなものだ。
そっちまでリード家に持っていかれては困るというのもあるのだろう。
おそらくリオンの中ではリゾルテ王国を間接的に支配し、そして、その次に東のメメント家を狙う含みがあるはずだ。
それはつまり、ほぼすべての貴族家をフォンターナ王国の影響下に治めようという狙いが秘められている。
こうしてリオンの決断によって、フォンターナ王国は全貴族を内包する国へと変わる道筋に入ったのだった。
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