リオンへの相談
「通信兵、いるか?」
「はい、ここに」
「コスタンブル要塞を攻略中のカイルに【念話】で伝えてくれ。バルカ軍はこれからラインザッツ領南部を切り取ったリゾルテ王国軍に対して逆侵攻をかける。リード軍は引き続き、コスタンブル要塞を攻撃し、その後はラインザッツ領都を目指してほしい、と」
「はっ。かしこまりました」
スルト家当主のブライアンの投降と臣従。
それにより、リゾルテ王国軍と戦うための大義名分ができた。
スルト家ほか、いくつかの貴族や騎士の領地をリゾルテ王国から奪還するために動く。
そうなると、バルカ軍はラインザッツ家に対処できなくなるので、カイルに連絡をとっておいた。
これでラインザッツ家への対応はリード軍が、リゾルテ王国軍への対応はバルカ軍が受け持つ形になる。
大丈夫かな?
戦場での流れの中での対処としては間違っていないと思う。
が、これはこれで当初の方針とはちょっと違ってきている。
局地的な対応で国の方針そのものに影響を与えることになるのは、いささかまずいだろうというのも思わなくもない。
「しょうがない。一応、上に報告しておこうか。バイト兄、ちょっといいか?」
「どうした、アルス?」
「俺はいったんフォンターナ王国に戻ってリオンと話してくるよ。リゾルテ王国と戦うことになったってな。ちょっとの間だけ、バルカ軍と臣従したスルト家ほか、ここにいる奴らのことを任せたいんだけど」
「わかった。それくらい問題ないぜ。さっさと行って状況を説明してこいよ」
「助かる。それじゃ、行ってくるよ」
こういうときはホウレンソウが大切だ。
現場で臨機応変に動きつつ、こまめに上に報告を入れて、責任者に責任を押し付けよう。
俺はリゾルテ王国との戦いの責任の所在が国をまとめるリオンにあることを主張するために、本国へと戻ることにしたのだった。
※ ※ ※
「……それはリゾルテ王国と本格的な開戦になる、ということですか、アルス様?」
「いや、どうなんだろうな。一応は大義名分的にも旧ラインザッツ系のスルト家などの要請によって、リゾルテ王国に切り取られた領地を奪い返すって流れになる。その意味で言えば、ラインザッツ領からリゾルテ王国軍を追い出すことが戦略的な目的になるんだと思うよ」
「ですが、それはこちらの都合でしょう。竜騎士部隊まで使って敗北したとあれば、リゾルテ王国は引くに引けない状況になるかもしれません。そうなると、戦いはラインザッツ領からリゾルテ王国軍を追い出すだけで終わるかどうかはわかりませんよ」
「だよな。だから、こうしてリオンに相談に来たわけなんだけど」
「まったく、本当にいつも難しい問題を持ってきてくれますね、アルス様は」
転送魔法陣を使ってパパっとフォンターナの街まで戻ってきた俺はリオンと面会する。
要件を伝えるだけであれば【念話】でも良かったかもしれない。
が、内容が今後の国の行く末にもかかわることでもある。
通信兵ごしの伝言ゲームではなく、面と向かって話をするためにこうして一度戻ってきたというわけだ。
そのリオンが難しい顔をして俺からの報告を聞いていた。
リオンもバルカ軍がリゾルテ王国軍と戦闘になったことそのものは特に問題とはしなかった。
だが、その後、どこまでリゾルテ王国と争うのかを気にしている。
やはり、こういうのは落としどころを考えておかないと、ズルズルと泥沼にハマったように長期戦に突入してしまう危険性もあるから注意は必要だろう。
「どうやら、リゾルテ王国側も揺れているようです。今後の方針をどうすべきかについて」
「ん? どういうことだ、リオン? 漁夫の利を狙ってラインザッツ領に進軍してきたのは他ならぬリゾルテ王国だぞ? なんか迷うようなことがあるのか?」
「そこですよ、アルス様。今回、ラインザッツ領に進軍しているリゾルテ王国軍はいわゆる主戦派なんです。最強の竜騎士部隊を持ち、かつて覇を唱えたリゾルテ家として領土を拡張すべしという好戦派なんですよ。ですが、リゾルテ王国にはその主戦派とは主義主張の違う穏健派も一定数いるのです」
「穏健派か……。そいつらはフォンターナ王国と仲良くやっていこうって考えなのか?」
「そうですね。基本的な方針でいえばそうなります。あくまでも自分たちの独立は維持するが、拡張路線とは一歩引いた考えというのでしょうか。こちらがラインザッツ領にリゾルテ王国軍が侵入した際に抗議した際、我々の考えをきちんと受け止めてくれたのです」
「でも、その後もリゾルテ王国軍によるラインザッツ領切り取りは続いている。ってことは、あくまでも主流になっているのは主戦派だってことかな」
三人いれば派閥ができるというが、リゾルテ王国にもいろんな考えのやつがいるようだ。
主戦派と穏健派が存在しているとリオンが指摘する。
今、ライン川の向こうにいるのは主戦派の中での実行部隊だということだろう。
バルカ軍がラインザッツ軍に勝利した直後に動き出した主戦派に対して、こちらからの抗議に一定の理解を示した穏健派。
しかし、その後の動きを見るに穏健派は主戦派を止めるほどの力はないのかもしれない。
「けど、そうなるとこう考えることもできるか。主戦派を叩いて勢力を減らして、穏健派をリゾルテ王国の中での主流にできればリゾルテ王国の動きを抑えることができる」
「そうですね。好戦的な主戦派がリゾルテ王国内で強い勢力を持ったままであれば、戦いは終わらないかもしれませんね。穏健派が勢力を拡大して実権を握るくらいにできれば、今後の交渉もしやすいかもしれません」
「……ちなみに、リオンが結婚したリゾルテ王国の関係者ってどっちなんだ? 主戦派だったりしないのか?」
「違いますよ。というか、穏健派をまとめているのは私の妻の実家ですからね」
「なるほど。じゃあ、要するにリオンの奥さんの実家がリゾルテ王国内で力を高めれば問題ないってことか」
「まあ、そういうことになりますね」
俺がバルカ騎士領をカルロスから任されたころからの付き合いのリオン。
そのリオンは今ではフォンターナ王国の実質的なトップとして国を動かしている。
そんなリオンはすでに既婚者であり、その相手はリゾルテ王国にいた。
かつて、カルロスとともにドーレン王を王都へと護送した際に襲撃を受けたリオン。
そのときにリオンはリゾルテ家にも支援を求め、そこでリゾルテ家の関係者と婚姻関係を結んでいた。
その結果、王都内での活動も可能になり、その後しばらくは王都で様々な仕事を請け負い、パーシバル家の討伐などの流れも作り出した。
そんなリオンの結婚した相手というのは、なんとリゾルテ家の女性だった。
いや、これは正確ではないのかもしれない。
【調教】という魔法を持ち、飛竜を使って最強の戦力を持って覇を唱えたリゾルテ家。
そのリゾルテ家を本家とするなら、リオンの結婚した相手は分家の分家の分家、くらいの末端の家なのだそうだ。
しかし、分家であるといっても、代々続いてきた家柄でもある。
つまり、リゾルテ家の継承権を持つ家系ということになる。
要するにリオンの言いたいことはこういうことなのだろう。
リゾルテ王国内で穏健派のリーダー格でもあるリオンの妻の家を主流に持ってくる。
つまり、リゾルテ家の継承権を使って、奥さんの家の立場を上げる。
それは、はっきりとは言わないが、王位につかせるということを意味しているのではないだろうか。
こうして、リオンとの協議の結果、リゾルテ王国とフォンターナ王国が末永く仲良くやっていくために穏健派を育てるという名目の下に王位の簒奪工作も並行していくことになったのだった。
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