長いものには巻かれろ
ライン川西岸におけるバルカ軍対リゾルテ王国軍の攻防。
これはひとまずバルカ軍の勝ちで決まりそうだ。
まだリゾルテ王国軍との戦闘は続いているがそれももうじき終わる。
ライン川という深く、川幅の広い地形を背後に背負って戦うリゾルテ王国の兵たちだったが、背水の陣という火事場の馬鹿力は出なかったようだ。
まあ、それはそうだろう。
なにせ、ライン川の反対側の岸にはまだリゾルテ王国軍の本陣などがいるのだから。
もし、リゾルテ王国軍がすべてこちらの川岸にまでやってきていたら、一致団結して抵抗しようという気になったかもしれない。
が、向こう岸に無事なやつがいるのを知っていて、命燃え尽きるまで戦おうなどと思うはずもない。
ヴァルキリーに騎乗して魔銃をぶっ放して攻撃してくるバルカ軍に対して、徐々に投降する者が出始めた。
こちらも俺やバイト兄などが投降を呼びかけており、ひとまずはこれにて決着ということになりそうだった。
こうして、その後もしばらく続いた戦闘だったが、それも日没までにはケリが付いた。
バルカ軍と戦い、生き残ったリゾルテ王国軍。
その中にいた将を見つけ出し、そこからリゾルテ王国軍の話を聞いてみることにしたのだった。
※ ※ ※
「くー、喉が焼ける。これはすごいですな、アルス・バルカ殿。フォンターナ王国ではこのようなきつい酒を飲むのが一般的なのですか?」
「そうですね。フォンターナ王国は北に位置しており寒いですから、こういう酒精の強い酒のほうが好まれるのでしょう」
「なるほど。場所が違えばいろいろ違うものですな。私のスルト領はそれほど寒くはないので、ここまできついものは無いのです。いいものを頂戴しました」
「スルト領というのはつい先日まではラインザッツ家の支配領域にあった貴族領ですね? それが今はこうしてリゾルテ王国軍の一部として戦っているのですか」
「気になりますか? 我々のように巨大な勢力の狭間に位置する領地持ちは生き残りをかけて強いほうにつくのが当たり前です。ラインザッツ家はバルカに負けて勢力を減らし、そこをリゾルテ王国から狙われた。その状況下で我らはリゾルテ王国の下につくしかできなかったのですよ」
「それは理解しています。ですが、完全にリゾルテ王国の下についているわけでもないのでしょう? だから、こうしてこちらに話をする気になった。そうですよね?」
俺たちと戦ったリゾルテ王国軍。
だが、これはリゾルテ王国にとってはどうやら捨て駒的な扱いだったのかもしれない。
なぜなら、本国からやってきた軍はすべて東岸で待機しており、この西岸に渡ってきてバルカ軍と戦ったのは旧ラインザッツ派の貴族だったからだ。
リゾルテ王国は軍を派遣してラインザッツ領の南を切り取っていった。
そして、そこにいるその土地を治める貴族家をラインザッツからリゾルテ側に寝返らせて支配領域を増やしてきた。
その際、支配下に置いた土地の貴族や騎士に対して軍を出させてラインザッツ家の領都を目指したのだという。
そして、コスタンブル要塞を攻略中のフォンターナ側の動きを見て、別方面から領都を狙って進軍した。
が、それを止めるために動いたバルカ軍がすでにライン川の向こうで待ち構えていた。
そこで、リゾルテ王国がとったのはバルカ軍と戦うという選択肢だった。
だが、戦うのは自分たちの軍ではない。
進軍途中で支配下において味方へと引き入れた、それまでラインザッツ家の影響下にあった貴族や騎士の軍に戦わせたらしい。
つまり、圧倒的な力で取り込んだ勢力の軍を当て馬にして、バルカ軍の力を見極めようとしたのだろう。
ラジオの情報だけでは本当にバルカ軍が強いのかわからない。
あるいは、航空戦力を持つリゾルテ王国側にとっては与し易い相手ではないか。
それを知るために一戦交えたということのようだ。
普通ならば捨て駒のように使われたら、貴族や騎士は反抗する。
が、それでも断れなかった。
ここでリゾルテ王国のために血を流す姿勢を示さなければ、領地を完全に奪われてしまうかもしれない。
それに、渡河してバルカ軍と戦う中には竜騎士部隊もいた。
空を飛ぶ飛竜の姿を見て、これなら本陣が動いていなくてもバルカ軍に勝てると思ったのだろう。
「いやー、しかし驚きましたよ、アルス・バルカ殿。まさか、あそこまで竜騎士部隊を手玉に取るとは。私は戦いながらなのでよく分からなかったのですが、竜騎士と戦っていたアレはなんなのでしょうか? 虫でも飛んでいるのかと思ったら、その虫のようななにかが竜騎士に攻撃を仕掛け始めたので、二度見三度見してしまったほどです」
「あれはリゾルテ王国の誇る竜騎士部隊への対抗策の一つですよ。実際に戦ってみるまで竜騎士相手に通じるかわかりませんでしたが、十分な戦果が得られましたね」
「あれがあれば、リゾルテ王国には後れを取らない、ということですか。……アルス・バルカ殿、お願いがあります。聞いていただけますか?」
「なにか?」
「この私、スルト家当主ブライアン・スルトをフォンターナ王国の一員にしていただきたい。我がスルト家の持つ【土杭】などの魔法はアルス・バルカ殿の持つ土の魔法とも似ているというではありませんか。ぜひとも、そちらにお味方させてほしい」
「いいのですか? これまでスルト家は長い間、ラインザッツ家かリゾルテ家の影響下にあったのでしょう?」
「言ったでしょう。我々は常に強いほうについてきた、と。この戦いでわかりました。私はスルト家の運命をあなたに賭けることに決めました。どうぞ、我が願いを叶えていただきたい」
ラインザッツ家の南の勢力範囲内にあり、今はリゾルテ王国に切り取られたスルト家の当主ブライアン。
俺と同じ土系統の魔法を使ったらしいご先祖がいたらしく、【土杭】などの魔法を駆使してバルカ軍と戦い、そして敗れた。
で、投降した後に今度はリゾルテ王国を離脱してこちらにつく、と言ってきている。
いくらなんでもそこまでコロコロ主を替えていいのか、と思わなくもない。
が、こちらの戦力を見るための当て馬として捨て駒扱いされているのだから、こういうふうになってもおかしくないのか。
あるいは、本当に強いほうに簡単になびくのか。
そこらへんはどうなのかよくわからなかった。
だが、このスルト家の投降は受け入れることにしよう。
リゾルテ王国がすでに切り取ったラインザッツ領に含まれるスルト領。
そのスルト領をリゾルテ王国からスルト家当主であるブライアンに取り戻す、という大義名分が生まれる。
これまでは、ぶっちゃけリゾルテ王国と戦うための大義名分が足りなかった。
だが、スルト家当主からの自領の回復のために要請を受けたという形にすれば、大義名分が手に入る。
こうして、バルカ軍はライン川での戦いに勝利し、そこで取り込んだスルト家ほか、いくつかの騎士家なども自陣営に取り込むことに成功した。
そして、それらの勢力からの要請を受けてリゾルテ王国に切り取られた領地の奪還に動き出す。
……大丈夫かな?
ドーレン王家やラインザッツ家との対立から、いつしかリゾルテ王国までもと本格的に戦い出すことになりそうな状態になり、だんだん収拾がつかないことになったりしないだろうか。
今後のことにちょっと心配になりつつも、俺は新たにフォンターナ王国側へと寝返ったスルト家の者たちに酒を振る舞い続けたのだった。
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