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バルガス戦

「散弾」


 バイト兄とバルガスが言い争いをしている。

 その横で俺が魔法を発動した。

 ヴァルキリーに乗る俺は右の手のひらをバルガスの方へ向けて呪文を唱える。

 その瞬間、俺の手から矢じりのように尖った硬い石がバルガスの方へと飛んでいった。


 ダダン。

 そんな音をたてて散弾が地面へと突き刺さる。

 バルガスへ向けて放った魔法が地面へと当たったのは、別に狙いが甘かったからではない。

 あくまでも威嚇射撃のようにして少し狙いをずらしていたに過ぎない。

 バルガスの足元の地面へと散弾が飛んでいったのだ。


「……今のは魔法か?」


「そうだ。武器をおろせ。話がしたい。動けば今度は当てるよ」


「いいぜ、やってみろよ」


 俺が話し合いのためにと思って声をかけたものの、どうやら挑発とでも受け取ったようだ。

 散弾を目にしても多少驚いただけで、恐怖しているというわけでもないらしい。

 バルガスはまるで猛禽類のように、獲物を狙うような目をしてこちらへと向かって走り始めた。

 恐ろしく喧嘩っ早いのか、あるいは戦場で活躍したという経験が、遠距離攻撃を可能とする相手には速攻をかけて近付く必要があると教えているのか。


「ちょ、止まれって。散弾!」


 慌てて迎撃するように魔法を発動する。

 だが、次の瞬間、バルガスが横に飛んだ。

 いくつもの石が飛ぶ散弾は命中性を上げる意味合いがある。

 どれかひとつでも当てて相手にダメージを与えようと考えて作った魔法だからだ。

 だが、それをバルガスは見事に防いでみせた。


 こちらに向かって走っていたはずのバルガスは、俺が散弾を飛ばした瞬間、その軌道を読み横に跳躍した。

 しかし、それだけではすべての石を回避することはできない。

 だが、それを見越して大剣を盾にするように振るって当たりそうな石を弾き飛ばしたのだ。


 その動きには迷いが無かった。

 多分飛んできた石に驚いて大剣を振っていたら間に合っていなかったのではないだろうか。

 こいつはもしかすると、俺が最初に威嚇射撃したときに散弾の特性を見抜いたのではないだろうか。

 散弾という魔法は便利だが、それゆえに特徴がある。

 まず、俺が目標物に向かって手のひらを向けるということ。

 それはすなわち、どこに向かって魔法を放とうとしているのかというのが相手から読み取れるということでもある。

 さらに複数の石が散らばって飛んでくるという特徴も、どのように拡散するのかを理解してさえいればその範囲外へと逃げることもできるだろう。

 範囲外へと逃げ切れなくとも、盾などで防いでしまえば問題もない。

 尖った石だとはいえ、金属を貫通するまでの威力はないのだから。


 だが、それを一度見ただけで理解し、対処することができるものだろうか。

 俺はできないかもしれない。

 いや、できたとしても実践しようと思わないだろう。

 もしも、回避に失敗すればそれだけで大ダメージを受けることになるのだから。


 バルガスという男が他の村の人間にまで畏怖されるというのがよくわかった。

 戦い慣れている上に、瞬時に判断する力があり、さらに相手の攻撃を恐れることなく飛び込むことができる勇気すらある。

 なるほど、英雄と言われるだけある。


「散弾、散弾、散弾、散弾」


 だんだんと距離を縮めてくるバルガス。

 それを俺は迎撃し続ける。

 いくらものすごい判断力で回避ができると言っても限界があるはずだ。

 そう考えた俺は、散弾を唱え続けた。

 次々と生み出される鋭利な石が走り寄るバルガス目掛けて放たれる。

 それをなんとか回避しようとするバルガス。

 だが、ついにはその回避に限界が訪れた。

 俺とて何も考えずにパニックを起こして魔法を連発しているわけではない。

 バルガスの回避する方向を予測して、動きを先読みした位置に向けて散弾を放っていたのだ。


 横っ飛びに跳んだバルガスに向かって直撃コースで散弾が飛んでいく。

 あれではいかに大剣だといえ、防ぎ切ることはできないだろう。

 そう思った俺は再びバルガスの行動に驚かされた。


 今まさに直撃する。

 そう思ったときだった。


「ウオオオオオォォォォォォ!」


 バルガスが吠えた。

 間近で聞いたら間違いなく鼓膜が破れかねないような大声で叫ぶバルガス。

 そして、その咆哮と同時にバルガスは自ら俺の放った直撃コースの散弾へ向かって突っ込んできたのだった。


 バルガスは革の胸当てをしているものの、それ以外は生身だ。

 普通に考えて散弾に直撃すればダメージがあるはずだった。

 だが、俺のすぐ至近距離にまで近づいてきたバルガスの体には大きな傷が見当たらない。


 もしかして、【硬化】か?

 俺の頭には散弾を受けてもびくともしなかった大猪の姿が頭によぎった。

 大猪は矢が通じないとされるが、硬い体表と毛皮だけがその原因ではなく、【硬化】という魔法を使えることが大きかった。

 実はこの【硬化】に近いことは俺もできる。

 俺はよく筋力を上げるために全身に魔力を満たす【身体強化】を使うことがある。

 だが、このとき全身ではなく体表面である皮膚に魔力を集中させると、外からの衝撃などを防ぐ力が増すのだ。

 多分、バルガスも同じだ。

 呪文ではないが、先程の大きな遠吠えのような声を自己暗示のようにして、体の防御力を上げる方法を戦場で独学で身につけたのかもしれない。


「残念でした、っと」


 まさか、この村にも防御力を上げるような魔法を使うやつがいるとは思いもしなかった。

 それに戦い慣れているやつが相手では【散弾】という魔法だけでは対処しきれない可能性があるということもわかった。

 これはフォンターナ家と戦う前に気がつけただけ、ある意味良かったのかもしれない。


 だが、防御力が上がるからと言って被弾覚悟で突っ込んできたのは悪手だ。

 別に俺の攻撃が通じないと決まったわけではないのだから。


 ズドン、という音が響いた。

 あたりには土煙が立ち上り、周囲の視界を悪くしている。

 周りからは何が起こったのかわからなかったのだろう。

 静まり返っていた。


 少しすると風が吹き、土煙が消えていく。

 そこにはバルガスが倒れていた。

 その横には彼ご自慢の大剣が根本から折れた状態で転がっている。


 それを見て、ようやく周りも理解したのだろう。

 俺がバルガスを倒したということに。

 固唾をのんで見守っていた村人はまるで恐ろしいものを見たかのように、ヴァルキリーに騎乗する俺の姿を見つめていたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結果は何も関係ない隣村を巻き込もうと威嚇射撃し、戦闘になって相手を傷つける。
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