竜騎士部隊の撤退
「竜騎士部隊が後退しました。追撃しますか?」
「どこまで下がったんだ、あいつら? 撃墜数はわかるか、アイ?」
「四枚羽により撃墜した竜騎士の数は183です。ただし、飛竜に乗る騎士が主であり、飛竜は生きているものが多いようです。その生き残った飛竜を連れて、竜騎士部隊はライン川を越えて撤退しました」
「そうか。やっぱ、魔銃だけだと飛竜相手には決定力が足りないみたいだな。まあ、四枚羽が13機しかないからしょうがないんだけど。追撃は必要ないが、再び戻ってこないかどうかだけは引き続き警戒しておいてくれ。まだ、こちらに残った地上部隊を助けに戻ってくるかもしれないからな」
「承知いたしました、アルス・バルカ様」
どうやら、新投入した四枚羽はいい戦果を出したようだ。
超高速でビュンビュン飛び回る四枚羽に対して、竜騎士たちは対応に苦慮していた。
まあ、それは仕方がないだろう。
向こうからすれば初めて経験した空での戦いだったはずだ。
今のところ、リゾルテ王国の竜騎士部隊以外で航空戦力を持つのはバルカを除いて存在しない。
そのバルカの航空戦力も従来知られていたのはのろまな飛行船程度だった。
最新鋭の魔導飛行船も基本的には俺専用機で、利用頻度は少なく、他の貴族が情報をなかなか得られるものではなかった。
そのため、リゾルテ王国が想定する空戦の相手は、自身と同じ竜騎士であると考えていたのだろう。
他の貴族家もなんらかの手段を持って飛竜を手に入れ、リゾルテ王国と同じように騎士を乗せて竜騎士として運用する可能性はゼロではない。
そのため、普段の訓練では竜騎士が空で戦闘になるのは相手も飛竜に乗っていると仮定してのものだったのだと思う。
なので、竜騎士はお互いが飛竜に乗って模擬戦のような訓練を行っていた。
それは別に悪いことでは全然ない。
だが、いつからか、それが当たり前になっていたのではないだろうか。
つまり、空を飛んで戦えるのは飛竜に乗っている自分たちだけであり、相手も飛竜に乗るのであれば空中での移動の速度や旋回能力はほとんど同じであるという考えが、常識として脳にこびりついてしまっていたのだ。
なので、自身よりも速く、旋回能力が高い相手と戦うことになるとは全く考えていなかったに違いない。
そのために、四枚羽に遭遇した竜騎士たちは全く対応できていなかった。
特に飛竜の背中に乗っている関係上、後ろやお腹の下側に移動されると全く見えなくなる。
しかも、四枚羽は飛竜と比べると圧倒的に小さいのも関係していたかもしれない。
両手で抱えられるほどしかない全長の四枚羽が死角から死角へと移動しつつ、攻撃してくることに手を焼いていた。
各自が持つ魔法を手のひらから発射しようにも狙いをつけられなかったくらいだ。
ほとんど唯一できた抵抗が飛竜の体を使うというものだったのも、騎士としては悲しいものではないだろうか。
空を羽ばたく飛竜の周りをうろちょろ飛び回るのを飛竜たちが嫌がって、体をぶつけにきたり、しっぽで叩き落とそうとしてきたようだ。
アイが言うにはその攻撃によって四枚羽にも何機か損害が出てしまったという。
これは後できっちり回収しておく必要があるだろう。
ただ、総合的に見ると空戦はこちらの勝利で終わった。
何人もの竜騎士が撃ち落とされ、生き残った者たちは撤退してしまったのだから。
「聞こえるか、バイト兄? こちら、アルス。四枚羽によって竜騎士部隊を撤退に追い込んだ。どうぞ」
「聞こえてるぞ、アルス。了解した。こっちは騎兵がばらけたからちまちま削っているだけで、そこまで大きな戦果はまだない。竜騎士たちを追い払ったことを主張して、一気に畳み掛けるか?」
「いや、無理をする必要はないよ。背水の陣って言って、逃げ場のない川岸に追い詰められた相手は必死に抵抗するだろうからな。安全に、無理をせず、削り作業に徹底してくれ」
「了解だ」
四枚羽による戦果をバイト兄に伝える。
今もヴァルキリーに騎乗して戦場を駆け回っているバイト兄だが、骨伝導通信器のおかげで【念話】も必要とせずに連絡を取り合えるのが嬉しい。
骨伝導なので、耳をふさいで周囲の音を遮るということもないので、戦いながらもバイト兄は返事をしてきて、それに対する指示を出す。
「よろしいのですか? 攻勢を強めればリゾルテ王国軍にさらなる打撃を与えられると思いますが?」
「その必要はないよ、アイ。というよりも、まだ油断できないからね。無理する必要はない」
「油断、ですか?」
「ああ、ライン川の向こうにはまだ渡河していなかったリゾルテ王国軍がいるんだろ? ってことは、向こうにいるのが本陣だってこと。本陣にいるだろう当主級たちが参戦してくれば戦局はまた大きく変わるだろうし、注意深く進めていくほうがいいと思う」
というか、竜騎士部隊の中には当主級がいなかった。
いたら魔銃の攻撃もあまり効かずに対応されたかもしれない。
しかし、なぜ当主級が一人もいなかったのかは気になる。
もしかして、この戦いは別の狙いがあったのだろうか?
例えば、こちらが竜騎士部隊にどのように対応するのかを見極める、とかはどうだろうか?
そう考えると、自軍の兵がこちらに残っているにもかかわらずに竜騎士部隊だけがさっさと撤退していったことも一応の説明がつくが。
相手の狙いが今ひとつ、わからない。
が、やれることをやっていこう。
そう思って、俺もカイザーヴァルキリーに乗り、バイト兄と協力して今だ抵抗しているリゾルテ王国軍の残存兵力を削るために動き始めたのだった。
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