四枚羽開発秘話
俺が初めて魔導飛行船を作ってからそれなりに時間が経った。
空を見上げながら、ふとその時のことを思い出す。
神アイシャがいる神界は浮遊石と呼ばれる石によって空高くに浮いていた。
その浮遊石を俺は魔力的に記憶して再現することに成功し、バルカニアなども天に浮かべることに成功した。
そして、それを応用して魔導飛行船を作った。
浮遊石によって常時浮いた状態になる機体部分を作り、その両翼についたプロペラを自身の魔力と意思によって操作できる魔装兵器の魔法陣技術を利用して回すことで、さらなる浮力と推進力を得ることができた。
その結果、魔導飛行船は高高度を高速でたくさんの人間を乗せて移動できる性能を手に入れたのだ。
この魔導飛行船作りに際して、俺は当然のことながら前世で持っていた知識を利用した。
浮力を得ることができる形状の翼だとか、そこにプロペラを付けて回すことで空を飛ぶこと、あるいは空気抵抗を考慮した胴体部分などがそうだ。
そのため、魔導飛行船は完全に大型プロペラ機のようなものになっていた。
だが、前世においてプロペラを持ち、空を飛んでいたのはなにも飛行機だけではなかった。
ほかにも便利なものがあった。
それはいわゆるドローンと呼ばれるものだ。
飛行機とは全く似ても似つかない構造で、複数ある羽を独立して回すことで空を飛ぶことができる。
俺は魔導飛行船づくりの際に、このドローンも作れないかどうか検討していたことがあるのだ。
もちろん、俺にドローンについて深い造詣があるというわけでない。
なんとなくの形と、どうやって浮いたり前後左右に飛ぶのかのイメージがある程度だった。
普通なら、そんないい加減な知識ともいえない情報でドローン作りが成功するはずもない。
が、そこは頼れる弟であるカイルがいた。
魔導飛行船の際も空気抵抗や揚力、推進力などの高度な計算はすべてカイル任せにしたが、そのときにドローンの情報もカイルに渡して研究を丸投げしたのだ。
そして、そんな無茶ぶりに対してカイルは頑張ってくれた。
なんとかして、4つの羽を上部に取り付けて空中を移動する装置を実際に作り上げてくれたのだ。
本当にカイルはすごい。
が、そのカイルを以ってしてもこのドローンは完成には至らずにお蔵入りすることになってしまった。
それはなぜか。
理由は単純だった。
非常に操作が難しいのと、視界が確保できないという根本的な問題があったのだ。
四枚羽はそれぞれの羽の回転数を別個に操作することで浮き上がったり、空中で停止したり、前や後ろに進んだり、宙返りをしたりする。
そして、それらの姿勢制御は本来であれば事前に組み込まれた電子制御システムなどで行うことになる。
だが、精霊石に魔法陣を描くことで魔力を注げば回転するプロペラを作れたとしても、そんな制御システムはできなかったのだ。
そのため、俺たちがつくったドローンもどきは毎回、自力ですべてを操作しなければならなかった。
4つの羽の回転数を浮かせたいときはこうやって、空中での姿勢維持のときはこう変化させて、前に進むときは……と考えながら操作しなければならなかったのだ。
これは想像するだけでも難しいのがわかるだろう。
なにもない空間でやるだけならゆっくり操作もできるかもしれないが、実際に使うとなると障害物を避けるなどの操作も必要なわけで全然お話にならなかったのだ。
それはリード家が持つ【並列処理】があっても難しかった。
唯一操作できたのはカイルくらいのものだろう。
だが、そのカイルですら完全な操作は不可能だった。
それは俺たちにリアルタイムの映像を映し出すカメラがなかったことに起因する。
なんとか未完成ドローンを操作できたカイルも、ドローンが遠くへ飛んでいった際や、障害物の向こう側などにある場合はドローン周辺の情報がわからなくなる。
そうなれば、どうやっても操作は無理だろう。
遠隔地であってもタイムラグのない映像を操縦者に送る機能がなければ、このドローンは使うことができない。
数々の実験を経た結果、俺はその結論に達せざるを得なかった。
こうして、飛行装置開発は魔導飛行船を有人で操作するという方法に落ち着いたという経緯があったのだ。
だが、この状況が変わった。
ドローンを使える条件が急にクリアできた。
それがアイという仮想人格の登場によるものだった。
アイには以前、ラインザッツ家との戦の戦況予測をできるかと聞いた際に地形情報の把握が必要だと言ったことがある。
そして、その地形把握のためにアイを魔導飛行船に乗せて空から地上を俯瞰するように観測させた。
このとき、アイがこう言ったのだ。
自分も魔導飛行船の操縦を学びたい、と。
アイには学習機能がある。
一人のアイが魔導飛行船を操縦できるようになれば、今後はどの個体であっても操縦技術が得られるようになる。
これはパイロット育成などの手間も省けて、結構なメリットが有ると判断して、俺はアイに魔導飛行船を操縦させることにした。
このとき、地形把握以外にも俺からアイに要求したことがあった。
それは、各地の天気を観測し、その結果から未来の天気を予想することができるかどうかを試させたのだ。
それはある程度うまくいった。
だが、継続的に天気予報をし続けるには、各地の天候を観測し続ける必要がある。
そして、特定の観測基地を持たないことからも、常時空を飛び回り観測し続ける必要もあった。
そのときに、ピンときたのだ。
かつて、試験的に作っていたドローンをアイに操縦させることができないだろうか、と。
アイならば、一度操縦を学習してしまえばドローンの扱いに困ることがなくなる。
アイそのものが制御システムになり得る可能性が十分にあった。
そして、なによりも重要だったのが「ドローンそのものにアイを搭載できる」という点だった。
というのも、アイはカイルの作り出した仮想人格であり、その実体は存在しない。
本体ともいうべきものはカイザーヴァルキリーの頭に存在していて、今俺の隣りにいる女性の姿をしたアイは、あくまでも神の依り代に使う精霊石に魔法陣を描き込んで遠隔操作させているに過ぎないのだ。
つまり、アイは別に人型でなければならないという縛りはなにもないのだ。
人型である依り代を動かすことができるというのであれば、ドローンそのものにアイをインストールして動かすこともできる。
そして、人型の依り代を自由自在に動かすことができるアイは、ドローンに使用しても周囲の状況を把握できたのだ。
そういえば、アイシャも神殿内限定であれば本体である神像から離れていても依り代を操作できていた。
もしかすると、人間の目という臓器を通さずに、魔力か何かを使って周囲の状況把握ができるのかもしれない。
そして、それは仮想人格であるアイにもできるということなのだろうか。
これは現在新たに研究中で、解明できれば映像装置なども作れる可能性もあるかもしれない。
いずれにせよ、バルカニアの倉庫に残っていたドローン試験機に新たな精霊石をはめ込み、そこにアイのための魔法陣を描きこむとアイはドローンを操縦できるようになった。
どこにいても視界を確保しつつ、習熟した操縦技術で高速で飛び回りながらも障害物には当たらないようにまでなってしまったのだ。
そして、それを利用して各地に飛ばして天気予報をしていたというわけである。
また、それが俺の新たな航空戦力増強の構想へとつながった。
四枚羽と名付けたアイによって操縦されるドローンの兵器利用。
それは、ドローンの本体部分に魔銃を取り付けるだけで可能となった。
魔装兵器や依り代などと同じように、東方で得た魔法陣技術を基に作られた魔銃という兵器。
この魔銃にある魔法陣からは硬化レンガ製の弾丸が発射される。
これはつまり、魔力さえ補充できれば弾倉などの荷重物を持たずに、いつでも攻撃可能なのだ。
普段は天気予報のために空を飛んでいる四枚羽。
だが、それは時として兵器として利用可能になる物騒なものへと変化した。
その小さな飛行装置から殺傷能力のある攻撃が繰り出されるのだ。
それが今、最強と名高い竜騎士部隊に襲いかかっている。
空を飛ぶ飛竜はたしかに脅威的な存在だろう。
だが、この四枚羽の動きにはついてこられていない。
なぜなら、飛竜はもともと羽をバサバサと羽ばたいて飛んでいるので、そこまで細かな軌道変更などができないからだ。
しかし、ドローンは違う。
人を乗せないドローンは空中を縦横無尽に動き回るのだ。
人が落ちるだとか、急激な旋回でGがかかって脳の血流に問題が発生してブラックアウトを起こすというようなこともない。
まるで、体にまとわりつく鬱陶しい虫のように、竜騎士の周りを飛び回り、魔銃によって攻撃していく。
魔銃の攻撃能力では鱗のある飛竜には大きなダメージというのはないようだった。
だが、無傷というわけではない。
弾数無限の魔弾攻撃でだんだんとダメージが蓄積していく飛竜たち。
が、実際にはそれよりも先に飛竜に乗っている騎士が無事では済まなかった。
騎士相手であれば魔銃は一定の効果があるということは、すでにラインザッツ軍との戦闘で証明されている。
こうして、リゾルテ王国軍が誇る竜騎士部隊はバルカの新戦力である四枚羽によって、次々に撃ち落とされていくことになったのだった。
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