王都連合軍の戦術
「王都連合軍がリード軍に接近中。どうやら、全軍でリード軍を押しつぶすつもりのようです」
いよいよ始まった。
王都連合軍とカイル率いるリード軍の戦い。
その戦いを数日前と同じように俺はアイとキリ嬢ちゃんと一緒にラジオで放送している。
どうやら、王都連合軍は思い切った作戦に出たらしい。
自陣営は120000もの数がいて、相手はその十分の一ほどの数しかいない。
普通ならば、どっしりと構えて戦えばそれで十分に戦果を挙げられる。
だが、そうはせずに全軍突撃という作戦に出たようだ。
これはもしかしたら、バルカ軍とラインザッツ軍の戦いをラジオで聞いていたからなのかもしれない。
そちらの戦いも圧倒的多数のラインザッツ軍が先手で攻撃を仕掛けた。
が、それは見事に跳ね返されてしまい、バルカ軍が勝利をもぎ取ることに成功した。
その原動力はバルカ軍の充実した装備だった。
しかし、リード軍にはそれだけの装備がないことをこのラジオで放送してしまっている。
魔銃も一部で配備されてはいるが、それは全員に対してではない。
それに何より、封魔の腕輪などもないときている。
であれば、損害が出ることを度外視して、全軍で押しつぶして早期決着を狙っているのではないだろうか。
……本当に大丈夫なのだろうか?
このラジオ放送はバルカの圧倒的な勝ちっぷりを喧伝するのには確かに役に立ったと思う。
だが、こうして詳しく解説を入れることは果たしていいのだろうかと思わなくはない。
どうやって相手に勝ったかが分かっているのであれば、次はそれに対して相手も対策してくるからだ。
力を示すことにはなっても、強さの秘密が分かれば戦いようはある。
もしそうなるのであれば、あまり勝ち方を他に知られないようにしたほうがいいのではないか。
明らかに前回の放送内容から王都連合軍が今回の作戦を決めてきたであろうことを感じて、俺はなんとも言えない気持ちになってしまった。
「王都連合軍は思い切った作戦に出たな。おそらくはバルカ軍と戦ったラインザッツ軍のやり方を反面教師にしたんだろう。だが、もしかしたら臨時王、あるいはビスマルク家の影響もあるのかもしれないな」
「どういうことですか、バルガス様? ドーレン王家から新たに担ぎ出された臨時王や、担いでいるビスマルク家がいったいどういうふうに作戦に関係しているんでしょうか?」
「簡単なことだよ、キリ嬢ちゃん。この王都連合軍というのはいろんな貴族の軍で構成された雑多な軍だ。暫定王の存在を排除して新たに擁立した臨時王の名を使って集めただけの寄せ集めだ。そして、その臨時王の後ろで動いているのは王都圏で有力な名門貴族のビスマルク家だ。が、ビスマルク家は武門の貴族ではなく文化系の貴族なんだよ。つまり、実戦で指揮を執れるほどの存在ではない」
「それって、もしかして全軍突撃以外の作戦はビスマルク家には取れなかったとか、そういうことでしょうか?」
「その可能性はあるな。今までならドーレン王家は当代最強の貴族と同盟を結んで、覇権貴族という存在を作り出し、そいつらに各貴族をまとめさせていたんだ。ドーレン王家にはいろんな貴族の軍を取りまとめて動かす力は無いってことだよ」
「そうなんですね。けど、そうかもしれませんね。どの貴族に先陣を任せるかとか、いろいろと調整することが大変そうですもんね」
「そうだな。だからこそ、全軍突撃ってのはある意味でわかりやすい。各貴族軍に好きなように動けとだけ言っておけば、あとは勝った後に功績をきちんと認めればどうにかなる。何度もできるようなやり方ではないが、この大一番を勝てばいいだけならこういうやり方もありと言えばありなんだろうな」
さすがに、自分の心の中にある不安をそのままラジオで放送するわけにもいかない。
なので、解説するふりをしつつ、ビスマルク家、ひいてはドーレン王家の能力不足についての指摘をする。
が、これは決して根も葉もない嘘というわけでもない。
いくら数が多くても、全軍で突撃するなどというのは戦術的にあまりいいとは言えない。
なぜこんな作戦をとるのかと言えば、前回のラジオ放送の影響もあるだろうが、指揮系統能力不足が理由としてしっくり来る。
だが、それでも十分通用すると王都連合軍にいる各貴族の当主級たちも判断したのだろう。
逆にビスマルク家に戦場で変な命令をされるよりは、各自の判断に任せての全軍突撃のほうがやりやすいという考えもあったのではないかと思う。
だからこそ、こんな作戦がまかり通ったのだろう。
「リード軍の先頭にカイル・リード様が立ちました。王都連合軍を迎え撃つようです」
「……え。これ、本当なの、アイさん? 本当にカイル君がひとりで軍の前に立っているんだけど」
「この映像に嘘偽りはありません。事実、カイル・リード様は一人で相手を迎え撃つつもりのようです」
「おいおい、何言ってんだ、ふたりとも? カイルのやつが軍の前で仁王立ちでもして相手の軍を抑えようとしているとか、そんな馬鹿なことでも言うつもりなのか?」
「あ、あの、それが本当にそうなんですよ、バルガス様。カイル君は明らかにリード軍の中から突出して一人で立っているんです。どうするつもりなんでしょうか?」
「……本当なんだな? それは、いくらなんでも俺にもわからん。カイルの今までの戦い方なら、リード軍を手足のように扱って相手の軍を翻弄するやり方で戦うものだとばかり思っていたからな。というか、いくらなんでも一人で120000も相手になんてできるはずがない。何を考えているんだ?」
もしかして、自暴自棄にでもなっているんじゃないだろうか?
大将はカイルなら王都連合軍に勝てると信じて疑っていなかった。
その期待に応えるためにカイルは全力で頑張るだろう。
だが、人間にはできることとできないことがある。
どんなにやろうと思っても不可能なことは不可能なのだ。
そうして、思いつめたカイルはそれでも大将の言うことに背けずに戦場に出た。
たった一人でも王都連合軍と戦う姿勢を最期まで貫く姿をアイに見届けさせる。
もしかして、そんなことを考えているのではないだろうか。
「やめろ、カイル。早まるんじゃない。一人でどうにかできるわけ無いだろう。キリ嬢ちゃん、大将に連絡をとってくれ。今すぐ救援に向かわないとカイルが危ない」
俺の中に急激に不安が膨れ上がった。
カイルが死ぬ。
そんな嫌な未来が頭の中で浮かび上がる。
本来はリード軍の勝利を伝えるべきこのラジオ放送で、思わず声を荒らげてカイルを助けに行こうと立ち上がりながらキリ嬢ちゃんにあわててそう言ってしまったのだった。
結局のところ、俺もまだカイルの力を見くびっていたということなのだろう。
俺はこの日、初めてカイルの実力を知ることになるのだった。
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