コスタンブル要塞
王都の西に位置するラインザッツ領。
そのラインザッツ領の中を南北に分断するかのように流れる大きな川がある。
それがライン川だ。
このライン川はかなり長い川でもあり、最終的にはアーバレスト地区までつながっている。
ゆったりと水量のある大きな川が流れていることで、このあたりは農業も盛んなようだ。
ラインザッツ家が覇権貴族となるほどの大勢力になれたのは、このあたりの暖かく農業に適した土地を持っていたからにほかならない。
そのライン川がラインザッツ家にとって最終防衛ラインとなる。
そのため、このライン川には防衛のための場所が存在していた。
それがコスタンブル要塞と呼ばれる場所だ。
が、これは要塞といっていいのだろうか。
かつて俺たちが攻略したこともあるパラメア要塞よりも遥かに規模が大きいのだ。
パラメア要塞はパラメア湖と呼ばれる湖の真ん中にある島を利用して造られていた。
その島に要塞をつくり、守りを固める。
パラメア湖に住む特異な魔物という存在もあって、かつてのパラメア要塞は難攻不落とまで言われていた。
が、このコスタンブル要塞は小さな孤島を利用したというようなものではないらしい。
ライン川の西岸に突き出た三角形の土地を要塞化しているのだが、それは完全に一個の街と言えるものだった。
というよりも、普通の貴族領の領都よりも遥かに大きな街なのだ。
堅牢な高く分厚い壁に囲まれていて、水路によって外からの補給も可能な巨大な街。
この要塞ひとつでそこらの貴族領を凌ぐほどの力があるのではないかとすら言われているくらいらしい。
それがこのコスタンブル要塞の全貌だった。
ここまででかいと普通に攻城戦をしてもなかなか落としきれるものではないらしい。
というのも、壁で囲われたコスタンブル要塞の中にはその住民全員を養えるだけのものが揃っているからだ。
農地もあれば、武器の製造から整備まで、あるいは日常生活に必要なものをつくり購入できる店もある。
すべてを要塞内でまかなえるので、外部からの補給を遮断されても数年間戦い続けたという記録もあるほどなのだという。
なので、補給を断って兵糧攻めをしようとしても不可能な鉄壁の防御体制が整っているということになるらしい。
「住人も数が多くて、このコスタンブル要塞を守る兵数もいる。厄介だな、これは」
「でも、ちんたら攻略なんてできないだろ、アルス。何年も籠城させるなんてやる前に、リゾルテ王国の連中が追いついてくるぞ。そんなことになるくらいなら、いっそここを無視して川を渡ってラインザッツの領都を攻めたほうがまだマシだぜ?」
「それもありかもしれないけどな。でも、ここを放置した場合、常に後ろを警戒しなくちゃいけなくなる。それを考えた場合、やっぱり攻め落とせるならここでしっかりと叩いておくべきだろう」
「わかった。なら、作戦はどうする? 俺としてはあんまり水上戦はしたくないぞ? ヴァルキリーの足も使えなくなるしな」
「だな。前にあった水上戦は氷炎剣で強引に勝利をもぎ取ったけど、今はそれもできそうにないし。どうしたものやら」
このコスタンブル要塞の厄介なところは、やはりライン川の存在だろうか。
外部からの補給が無くとも長期戦が可能、とはいえ、補給があるにこしたことはない。
そして、その補給はライン川を使って行われるのだ。
当然、相手はそれをいつでも行えるような技術を持っている。
つまり、船の扱いについて相当に長けているということを意味していた。
コスタンブル要塞に取り付いて攻撃を開始するまでに、船で渡る段階での攻防でもこちらが不利になるかもしれない。
それに攻撃を開始した後も、船による補給を警戒する部隊も必要だろう。
そんな技術はバルカには無い。
かつて俺がやった水上戦は、アーバレスト家に対しての戦いだけだった。
あのときは、俺が【氷精召喚】で呼び出した氷精たちに川の水を凍らせて、その氷を氷精剣で炎へと変えて船団ごと燃やし尽くすという大技で無理やり乗り切った。
が、それはもはやとり得る手法ではない。
なんと言っても、今の俺は【氷精召喚】を使えないからだ。
氷精を呼び出すことができなければ、大規模に凍らせることは不可能で氷炎剣も効果を発揮できない。
ならばどうするか?
パラメア要塞のように水攻めでもできないかと思ったが、それもちょっと難しそうだ。
今回のコスタンブル要塞は湖の孤島にあるわけでもないので、水没まで持っていくことはできないだろうし、湖の魔物であるスライムもいない。
このコスタンブル要塞をどう料理すべきか思案中だった。
そんな俺のもとに一つの連絡が入った。
それによるとどうやらこちらに援軍がくるらしい。
王都連合軍に完勝したカイルがラインザッツ領へとやってくることになったのだった。
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