リゾルテ王国の動き
「おい、アルス。リゾルテ王国の動きは今どうなっているんだ? 現状がよくわかんねえんだけど」
「うん? そうだな、ここらでいったん状況を整理しておこうか。まずは、こちらの状況からだ。現在、バルカ軍はリード領からラインザッツ領に向かって東から侵攻した形になる。その結果、ラインザッツ領の東側を中心にサラディア家やハマン家ほか、いくつかの騎士領を切り取った。これはいいな?」
「ああ、それはわかってるよ。俺たちが東から押し込んでいって、さらにその先にあるラインザッツ領の領都を目指しているんだろ? こっちの戦力は結構増えたな。もうすぐ25000くらいになりそうだ」
「数はそんなもんだな。まあ、主力はあくまでもヴァルキリーに騎乗したバルカ軍7000ってことは変わっていないけどね。ただ、こちらの数が増えれば増えるほどラインザッツ家には圧力をかけられる。その意味では数が増えることはありがたいか」
「それより、リゾルテ王国の状況だって。こっちがいくら勢力を増やしたって言っても向こうがそれより大きくなったら意味ないんだろ? どうなってんだ?」
「……実はちょっとリゾルテ王国を甘く見ていたかな。どうやら、こっちが得た報告だけでもすでに向こうはラインザッツ家に従っていた3つの貴族家とその他の騎士家を取り込んでいるらしい。結構動きが早いね」
バルカ軍がラインザッツ領を西に向かって進み、リゾルテ王国が南からラインザッツ領を切り取る。
バルカ軍はハマン家を押さえた段階で一度足を止めることになった。
これは敵対して戦いに発展した後に降伏してきたハマン家への対処が必要だったことと、その後に周囲の騎士家などがこちらについたことによる影響だ。
いくら口で臣従すると言っても、はいそうですか、と気軽に受け入れられない。
速度重視ではあるが、最低限の確認やそれを保証できる何かを必要とした。
それらの確認などをするためにはどうしても一度動きを止めざるを得なかったのだ。
そんな事務作業をしているときに、バイト兄がこちらとは別の動きを見せているリゾルテ王国について質問してきたというわけだ。
南からラインザッツ領を侵攻しているリゾルテ王国の軍の動きはなかなかどうして速いものだった。
これはリゾルテ王国の強さやラインザッツ家が対バルカ戦で敗北していることも関係しているだろう。
だが、それ以上に、ラインザッツ領の南の領主たちの立ち位置が関係しているようだ。
もともとは何年か前まで覇権貴族としてリゾルテ家が存在していた。
そのときにはラインザッツ家も強かったとは言え、勢力的にはリゾルテ家のほうが勝っていたのだ。
そして、その後、リゾルテ家は敗北し覇権貴族としての立場から転落した。
その結果、両者の勢力圏は大きく変わったのだ。
つまり、南の雄であるリゾルテ家と西の雄であるラインザッツ家に挟まれた各貴族や騎士は割と短期間で主が代わっているところが多いのだ。
以前まではリゾルテ家に従っていたが、近年になって覇権貴族となったラインザッツ家に鞍替えした、あるいはせざるを得なかった勢力などがラインザッツ領の南に数多くいるらしい。
どうやら、今回リゾルテ王国がラインザッツ領から切り取っているのは、そんな流動性の高い領主のいる場所だったようだ。
「つまりなにか? しょっちゅうコロコロと主を代えている連中がいて、そんな中の3つの貴族家がリゾルテ王国についたってことなのか?」
「そういうことらしい。多分、よくあることなんだろうな」
「そういうもんなのか? 俺だったらそんなに自分の意見が変わる奴は信用できないけどな」
「ま、それも政治ってことなんだろうさ。それに重要な場所は勝ったほうが押さえているらしい。あれだな、昔フォンターナ家とウルク家が争ってとりあっていたアインラッドの丘みたいな重要地点をとったほうが周囲に影響力を発揮できるって感じなんだろう」
バイト兄と話していて思ったのは、まるで囲碁みたいだな、ということだった。
ラインザッツ領とリゾルテ王国の領地の間には戦略上でいくつかの重要拠点となり得る場所があるのだろう。
そこを取れば、その間にある領地は領主ごと勝者のものとなりえる。
それはあたかも、相手の石をとって、とりかえされてを繰り返すコウのような感じだろうか。
なので、事情を知らずに見ていれば、割とコロコロと仕えるべき主が代わる現象に驚くことになるのだろう。
もちろん、そんな重要な地点をラインザッツ領は把握していたはずだ。
それをあっさりと奪還されたということはそれだけ弱っているということでもある。
が、もしかしたら別の考えもできるかもしれない。
それは、一度手に入れていた領地が仮に奪われても後から再び奪い返せると判断して、勢力圏を引くと決めた可能性だ。
なにせラインザッツ家は当主級を数多く失っている。
そんな状態で、広域の領地をカバーしきれるものではないのかもしれない。
であれば、後で取り返せる場所はあっさりと切り捨てて、ラインザッツ本家にとって本当に必要な守るべき場所まで軍を引いて守備を固めようと考えているのではないだろうか。
限られたリソースをうまく集中させて、急場を凌ごうという感じか。
「その場合、ラインザッツ家はどこまで後退するんだ?」
「地図を見ればわかりやすいかな。ラインザッツ領は南北に川が流れている。その川を最終防衛線にしたいんじゃないかな?」
「じゃあ、その川を先に越えてラインザッツの領都に近づいたほうがより多くの領地を得られるってことか。なら、さっさと行こうぜ、アルス」
「ああ、そうだな、バイト兄。気合を入れろよ? ラインザッツ家にとってもその川で守りきれるかが正念場になるだろうからな。死にものぐるいで抵抗してくるぞ」
「分かってるって。えっと、地図だとここだな。ライン川ってやつがここにあって、で、ここに要塞があるのか。コスタンブル要塞ってやつだな」
「大河の中にある要塞だな。パラメア水上要塞と似てるけど、規模が全然違うみたいだ。かなりでかい川みたいだから、もしかしたら水上戦になるかもな」
ラインザッツ家の領都とは別に、防衛においては一番重要ではないかという場所。
それが、大きな川の中に忽然と存在する要塞の、コスタンブル要塞だ。
ここを抜ければラインザッツ家は覇権貴族としての勢力を完全に失うだろう。
リゾルテ王国が来る前になんとかここを突破したい。
そう判断した俺とバイト兄は全軍に対してそれを説明し、さらに西へと足を進めたのだった。
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