サラディア家当主
「お初にお目にかかります。サラディア家の当主を務めているビラン・ライン・サラディアと申します。我らサラディア家はこれより貴方様のもとにつくことをここに誓います」
「それは違います、サラディア家の当主ビラン殿。あなたの主になるのはここにはいないカイル・リードであり、アルス・バルカではありません。今一度問います。あなたはリード家の配下となることを誓いますか?」
「失礼いたしました。我らサラディア家はこれよりリード家の配下として従うことをここに誓います」
「ありがとうございます。では、これより我らは同門ですね。今後はフォンターナ王国のためにともに頑張りましょう」
かつて、武闘派としてその名を轟かせたサラディア家。
【水壁】などの防御用の魔法を持ちつつも、攻撃用の魔法も兼ね備えた実戦的魔法使いの一族だそうだ。
なんでもサラディア家はドーレン王家の初代王時代に、初代王とともに竜と戦ったことがあるそうで、それを今でも語り継いでいることが自慢らしい。
歴史ある名家ということだ。
だが、そんなサラディア家も今では他の貴族の下につくことになった。
よく知らないが、もう結構前のご先祖様が下手を打ったらしい。
とある戦いで失敗し、重要な土地を獲られてからは名門貴族としての誇りはあっても他貴族に秀でるほどの勢力では無くなってしまったらしい。
それでも、しばらくは独立を保っていたそうだが、ついに他の勢力に取り込まれてしまうことになった。
それが、当代の覇権貴族であるラインザッツ家だったそうだ。
しかし、このことは内心ではあまりおもしろく思っていなかったのだろう。
サラディア家当主のビランがその配下で今回の交渉の架け橋となったサラディアの騎士コフィンと一緒に語るところによれば、ラインザッツ家とはあまり良好な関係に無かったようだ。
どうやら、名門貴族家であり実戦的な魔法を兼ね備えたサラディア家はラインザッツ一派から見ると少々危険だったようだ。
それゆえか、少々扱いが悪かったらしい。
が、その扱いの悪さを払拭するために戦があれば積極的に活躍の場を求めて戦ったのだが、その見返りは多くなかった。
サラディア家側の言い分だけを聞くと、そんなことがあってフラストレーションがたまっていたらしい。
故に今回のこちらの交渉にもあっさりと頷いた。
ラインザッツ家とは手を切ってリード家と手を組む。
そのことをさほど時間もかけずに了承の返事を持ってきたのだ。
当主自ら俺のもとにやってくるだけあって、相当気合が入っているのかもしれない。
「それで、ハマン家はまだ返事を寄越してこないのですか、バルカ殿?」
「そのようですね、ビラン殿。今すぐに返答は難しい、なんて悠長なことを言っているようです」
「ふん。ラインザッツ家の腰巾着のハマン家らしいですね。やつらはいつもラインザッツ家の顔色を伺ってご機嫌伺いをしているような連中です。即決即断ができないのですよ」
「……バルカ軍と戦っていたときは、サラディア家とハマン家が先鋒として出てきて戦っていましたが、意外と仲が悪いのですか?」
「仲がいいはずがありません。やつらは卑怯者なのですよ、バルカ殿。我らがラインザッツ勢力として戦場で活躍する横でうろちょろしては、こちらの戦果を自らのものとして恩賞を賜るような不届き者です。サラディア家とは犬猿の仲といってもいいかもしれません」
「それはひどい。なら、ハマン家はもう一度叩いておきましょうか。ラインザッツ領を狙うリゾルテ王国が動きを見せているというのに、日和見主義は許せませんから」
「では、我らサラディア家もご一緒させていただきたい。我々も必ずや活躍してみせましょう。ともにフォンターナのために戦いましょう」
このビランとか言う貴族は信用できるのだろうか?
もしかしたら、こちらにつく素振りをしておいて、いざとなったら寝首をかこうとねらってたりはしないだろうか?
だが、そんなことは考えても分かるはずがない。
なら、考えるのは後にしよう。
利用できるのであれば、利用しつくすことこそ考えるべきだろう。
どうやら、サラディア家はバルカ軍について動き、戦いまで買って出ようという意気込みらしい。
もちろん、これには彼らなりの狙いがある。
一つはこちらの信用をわかりやすく得るためだ。
自分たちは命をかけて戦ったのだから、それ相応に報いろ、というものだ。
特に、サラディア家は扱いの悪さを理由にラインザッツ家と手を切りフォンターナ側につくと言ってきている以上、こちらが粗雑に扱えばいずれ反旗を翻す可能性は十分ある。
そして、もう一つの理由は周辺勢力に対する睨みだろう。
ラインザッツ領をうまく切り取ってリード領とした場合、このあたりに地の利があり、一番最初にこちらについたサラディア家がここらの勢力の中でも一番大きな顔ができるようになる可能性がある。
が、そのためにはサラディア家と同じように歴史ある家で、同じような【風壁】などという魔法も使えるハマン家の存在は邪魔だったのだろう。
おそらくは、ビランはこちらにつくと言う前にハマン家が返事を渋っているという情報を手にしていたのではないだろうか。
もしも、ハマン家がこちらにつかないのであればバルカは道中のじゃまになりかねないハマン家と戦う可能性がある。
ならば、その戦いに便乗してハマン家を叩き、可能ならばその領地の一部だけでもかっさらってしまうとでも思っているのかもしれない。
実はハマン家とサラディア家は領地が隣り合っていて、歴史的に仲が悪かったりするのだ。
俺もそうだったが、領地が隣で仲良くするというのはかなり難しい。
特に水利関係などではしょっちゅう揉めて、衝突が起こるからだ。
そんなわけでこちらの軍門に下ったサラディア家はバルカとともにラインザッツ派のハマン家と戦うことを選択した。
そして、俺はそれを受け入れた。
実際は騎兵だけで構成されたバルカ軍のほうが圧倒的に動きやすい。
が、それでもやはり数は正義なのだ。
元ラインザッツ一門のサラディア家がこちらについて軍を出し、ラインザッツ一門のハマン家を攻撃し、それに勝利し更に進軍をする。
そんな話を聞けば、他のラインザッツ家の中の貴族や騎士の家はどうするだろうか。
機を見るに敏として、サラディア家に追随するようにフォンターナ側になびく可能性がある。
そうでなくとも、攻略したハマン領を一時的に任せることができる人材を得ることも可能になるのだ。
サラディア家の申し出を断る理由は俺にはなかった。
こうして、バルカ軍は降伏しともに戦うと誓ったサラディア家の当主ビランが率いる軍とともにハマン家の治める街を攻略し始めたのだった。
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