不穏な動き
「ご報告いたします。動きが見られたようです」
「……やっぱ動いてくるか。了解した。引き続き、報告を頼む」
「はっ」
「おい、どうしたんだ、アルス? 王都連合軍が動き出したみたいだぞ。お前も一緒にラジオを聞いて、カイルのことを応援しようぜ」
「いや、そんな暇はないかもよ、バイト兄。軍をまとめろ。動くぞ」
「ん? バルカ軍を動かすのか? お前、今までカイルの手伝いには行かないって言っていたのに、この土壇場で動く気にでもなったのかよ」
「違う。そうじゃないよ、バイト兄。リゾルテ王国が動いた。ちょっと危惧していたことが起きたみたいだ」
ラジオから流れてくるリード軍対王都連合軍の戦い。
まずは王都連合軍が動き出し、それをリード軍が迎え撃つ状況になりつつあるらしい。
そんなラジオ放送をバイト兄などが聞いているときに、俺のもとには一つの報告が入った。
リゾルテ王国に動きあり。
南の雄であり元覇権貴族でもあるリゾルテ王国がこのタイミングで軍を動かしているという。
この報告が入ったことで、俺たちはゆっくりとラジオを聞いている場合ではなくなってしまった。
「どういうことだ? なんでリゾルテ王国が軍を動かすんだ? こっちを狙ってきているってことか?」
「いいや。リゾルテ王国の狙いはおそらくはラインザッツだ。ラインザッツ家は現在100000もの数の軍を失った。そして、それ以上に当主級の数が激減した。それを好機と見て動き出したんだろうな」
リゾルテ王国が動いた理由。
それはおそらくは領地確保のためだろう。
多くの戦力を失ったラインザッツ家に対して、今が動くべきときだと判断したのだと思う。
ラインザッツ家もリゾルテ王国のことを警戒はしているので、別に全軍をバルカとの戦いに動員したわけではない。
が、それでも100000の軍を一度の戦いで失ったのだ。
リゾルテ王国が領地を狙って攻撃してきた場合に、その防衛を任された軍に対してそう簡単には援軍を送ることができないだろう。
リゾルテ王国側としては、もしかしたらリード領に踏み込んでくる可能性もあった。
もし、バルカ軍対ラインザッツ軍の戦いの結果がラインザッツ側の勝利であったら、リード領を狙って動いたかもしれないのだ。
王都連合軍に対して向き合ってるリード軍はリゾルテ王国に対しての備えが整っていない。
簡単に死の土地を脱却しつつある土地を奪い取っていったことだろう。
一応、この心配もあったのでバルカ軍を王都方面に向けられなかったという事情もあるのだ。
「なんだそれ? じゃあ、リゾルテ王国は最初から美味しいところを掻っ攫おうって魂胆だったのか?」
「だろうね。まあ、そうでもなければおとなしくしている必要も無かっただろうし」
「おい、なんでそんなに冷静なんだよ、アルス。俺たちはラインザッツ家に勝ったんだぞ。だってのに、ラインザッツ領をリゾルテ王国に獲られるなんてありえねえだろうが」
「もちろんだ。こっちだって命をかけて戦ったんだからな。だから、こっちも軍を動かすぞ。ラインザッツ領の切り取りに入る。のんびりラジオなんて聞いている暇はねえぞ、バイト兄」
「ったく。せっかく、カイルの活躍するところを聞こうと思ってたってのに、とんだ災難だぜ。わかった。すぐにバルカ軍をまとめる。全員出すのか?」
「いや、リシャールの街で捕虜の面倒を見る必要がある。そうだな、3000くらいは残しておいて、残りの7000くらいで出ようか。もちろん、全員速度重視でヴァルキリーに乗せるぞ」
「おっしゃ、わかった。すぐに準備する」
リゾルテ王国はどこまでラインザッツ領を狙ってくるだろうか。
とりあえずは、リオンにも報告して向こうに抗議声明だけでも出しておこう。
バルカがラインザッツに勝った直後に動くのは卑怯だとかなんとか言っておこう。
だが、それらの言葉はあまり意味を成さないだろう。
きっと、そんなことは気にせずに弱った獲物の肉を食いに動くに違いない。
この場合、何が一番最悪かを考えたほうがいいかもしれない。
それはラインザッツ領をすべてリゾルテ王国に持っていかれることだ。
リゾルテ王国とフォンターナ王国は王国になる以前から同盟関係にあるが、別にお互いを信頼している仲間だと思っているわけでもない。
むしろ、双方が生き残りをかけて利用しあっている間柄だと言える。
だが、リゾルテ王国がラインザッツ家を食えば話は変わる。
そうなれば、王都から南の多くがリゾルテ王国の勢力範囲になるからだ。
もしそうなれば、別にフォンターナ王国と無理に仲良くしていく必要はなくなる。
場合によっては、領地が近いリード家とぶつかる可能性も出てくる。
それを阻止するためには、こちらがリゾルテ王国よりも多くの土地を押さえることが重要になる。
なので、さっさと行動しなければならない。
できるだけ早く、スピーディーにラインザッツ領を切り取ってリゾルテ王国の侵入も防がなければならないだろう。
こうして、俺たちはカイルの活躍をゆっくりと楽しむ暇もなく、再び軍を動かし始めたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





