リード軍の現状
「みんな、おはよー。3日ぶりかな? 今回もキリの星占いじゃなくて、実況放送をしていくよ。予告していたように、バルカ軍対ラインザッツ軍の戦いのあとは、もう一つの大きな合戦になるリード軍対王都連合軍だよー。それじゃあ、またまた解説をお願いしてもいいですか、バルガス様?」
「バルガス・バン・バレスだ。前回に引き続き二度目の解説役としてラジオ出演させてもらうことになった。よろしくな、キリ嬢ちゃん」
「はい、よろしくお願いします。そして、遠く離れた戦場の光景を実況できるのは神の巫女たるアイさんがいるからです。今回もアイさんに出演していただくことになっています。アイさん、よろしくお願いしますね」
「アイです。よろしくお願いいたします」
俺はまた、こうしてラジオに出演している。
3日前に終わったバルカ軍とラインザッツ軍の戦いの終了時に俺はリード軍の危機を伝えた。
もしかすると、大将が動けないうちにドーレン王家主導の王都連合軍はリード軍に攻撃を仕掛けるかもしれない、と。
そして、それが現実のものとなった。
王都南部に布陣していた王都連合軍がすぐに動き始めたからだ。
それに対して大将のとった行動は、攻撃を受けるはずのカイルにリード軍の戦いもラジオ放送してもいいかと聞くというものだったようだ。
いくらなんでも、大丈夫かと言いたくなる。
大将がカイルを高く評価しているのは知っているが、それでも危険が大きすぎる。
「……なんだか不安そうですね、バルガス様」
「ん、ああ、そう見えるか、キリ嬢ちゃん。それはいけねえな。不安が顔に出るようじゃ、俺もまだまだだってことだな」
「でも、それだけカイル君のことが心配なんですよね? さっき、アイさんが言っていましたリード軍が相手にする王都連合軍も10倍以上の数がいるみたいです。勝てるのでしょうか?」
「……わからん。確かにカイルは優れた将であると思う。でも、だからといって大将と同じような戦果を挙げられるかというと、正直に言って難しいだろうな」
「でも、例えばですけどアイさんが以前言っていた戦力差は人数だけじゃないってのがあったじゃないですか。戦場の法則とかいって、強い人の数や装備の質なんかが複合的に関わってくるってやつです。あれを考慮すれば、リード軍は王都連合軍とそこまで戦力差は無かったりしないんでしょうか?」
「いや、俺が知る限りではリード軍の装備はそこまでよくないはずだ。というか、俺が聞いた情報だけで言えば、大将はバルカで正式採用している魔銃ですらそれほどリード軍に渡していないからな」
「え? そうなんですか? てっきり、バルカがリード家を背後からしっかり支えているものだとばかり思っていました」
「いや、そんなことはないぞ。ああ見えて大将は結構きっちりしているからな。リード家が領地を切り取ってリード領を得てからの財政支出なんかも、バルカ銀行からの貸付でやっているからな。基本的にはただで施すようなことは何一つしていない」
そうだ。
どういうわけか、大将は変なところで律儀というか、こだわりを持っている。
というよりも、割と人の目を気にしているような節がある。
好き勝手にやっているように見えて、意外と周りの目を気にして行動しているんだ。
カイルは大将にとって実の弟だ。
だが、リード家はフォンターナ王に認められて領地を切り取り、自分の領地を手に入れたのであって、バルカから領地をもらったわけでもなければ、もともとバルカの騎士だったわけでもない。
言ってみれば、リード家とバルカ家は同格に近いかもしれない。
決してリード家はバルカの下につく存在ではない。
そういう思いがあるのだろう。
故に、領地の切り取りの際や、今回の戦いではバルカはリード家の求める要請を受けて与力しているにすぎないという立場を貫いている。
そして、それは財政面などでもそうだった。
バルカ家として、リード家の領地切り取りなどに関しては明確に区切りをつけていた。
多分、これはフォンターナ王国の他の連中に文句を言われないためでもあると思う。
バルカが完全なお膳立てをしてリード家が領地を得たのだとしたら、それは実質的にバルカ家の領地が広がることを意味する。
が、実際はどうあれ名目だけでも公私を分けて行動していればまだ言い訳ができる。
あくまでも、リード家が得た領地はバルカとは直接関係がないと主張できる。
まあ、現実にはバルカ銀行がカイルに金を貸し付けているわけだから、全然無関係であるとは言えないのだが。
「まあ、しかしだ。そんな事情は置いておいたとしても、バルカがリード軍全体に装備を渡すことはできなかった大きな理由がある。それがなにかは、キリ嬢ちゃんにわかるか?」
「えっと、なんでしょうか。魔銃がそこまで用意できなかった、とかですか?」
「それもあるかもしれないな。だが、そうじゃない。はっきりした理由がある。それは、リード軍に装備を提供するのは不安だったってことだよ。なんせ、今、リード軍にいる兵の多くはつい去年までは盗賊行為を繰り返していた連中だからな」
「あ、そういうことですか。そう言えば、カイル君が治めるリード領って、去年までは無法地帯のようになって荒れていたんでしたね。そっか、アルスくんはそういう元荒くれ者たちの手に魔銃なんかの武器が行き渡ることに不安があったってことですね」
「だろうな。貴重な武器をこれまで幾多の戦場を共に戦ってきたバルカの兵に対してではなく、よく知りもしない連中に預けることはさすがの大将もできなかったってことだろう」
魔銃は非常に使い勝手のいい武器だと思う。
攻撃力は決して高くはないが、それでも対多数の戦いにおいては強さを発揮する。
だが、もしもそれを相手に使われてしまったらどうだ?
もともと盗賊行為をしていた連中がリード軍に組み込まれた状況で、そんな貴重な武器を渡すことはできない。
まず間違いなく、気がついたら数が減って行方がわからなくなっていることだろう。
つまり、大将はカイルのことを高く評価してはいるが、現在のリード軍そのものを完全に信用しているわけではないということだ。
だから、バルカ銀行を通してカイル個人に貸付を行っているが、行方がわからなくなったら嫌な貴重な品々はあまりリード家に渡らないように配慮しているらしい。
魔導飛行船や魔装兵器なんかをぽんっと貸し出さないのはそういうことが頭にあるからだろう。
故に、現リード軍は弱い。
装備の質という面でバルカ軍に遥かに及ばないのは明確だろう。
そして、兵の質の面もそうだ。
去年の冬になる直前にリード領を切り取り、リード家の統治が始まった。
そこで、初めて切り取った領地に住む戦える連中を集めてリード軍を作った。
つまり、リード軍はできてからまだ冬を越しただけの短期間しか経過していない急造の軍になる。
冬の間は訓練を続けていたそうだが、練兵度は低いのではないだろうか。
もちろん、リード軍全員が信用ならない兵というわけでは決してない。
フォンターナ王国から自ら希望してリード領に移り、リード軍に所属しているやつもいる。
が、決してバルカ軍と同じものとしては考えられないということだ。
「それって、装備の質も兵の質もリード軍はバルカ軍に圧倒的に負けているってことですよね? じゃあ、リード軍は数で勝る王都連合軍には勝てないんじゃ……」
「……俺もそれを心配している。だからこそ、大将が騎兵を用いて王都連合軍の背後から攻撃姿勢だけでも見せれば、それだけでも十分な牽制になるんじゃないかと思うんだが、それはしないらしい。いったい大将は何を考えているんだろうな」
「アイが聞いたところによると、問題ないとのことでした。アルス・バルカ様はリード軍の勝利を疑っていないようです」
「本当か、アイ? 大将はリード軍のどこを見てそんな評価を下しているんだ?」
「それは少し違います、バルガス・バン・バレス様。アルス・バルカ様はリード軍のことはさほど評価しておりません」
「はあ? じゃあ、なにを見てリード軍の勝ちを確信しているってんだ、大将は?」
「カイル・リード様を見てでしょう。アルス・バルカ様はカイル・リード様のことを自分よりも強いとおっしゃっておられました」
カイルが大将よりも強い?
それは本当なんだろうか?
おそらく、大将の言いたいことはカイルの魔力量についてだろう。
大将は継承権を息子に譲った。
その結果、それまで持っていた恐ろしいほどの魔力をバルカ家の現当主であるアルフォードが受け継いでいる。
そして、その継承をした後は、たしかに大将の魔力量は最盛期よりも落ちている。
……どういうわけか、その後も魔力量は日々上がっているのだが。
しかし、たしかに現段階だけで言えば、個人としての魔力量は大将よりもカイルのほうが多い。
それを理由にリード家の勝利を予想しているのか?
ということは、リード軍対王都連合軍の戦いは軍による集団戦ではなく、当主級の実力によって流れが決まるということなんだろうか?
解説役の俺自身が戦況の予測が定まっていないそんなときだった。
アイによって、布陣を済ませていた両軍が動き出したと聞かされた。
こうして、全くどうなるかわからない状態でリード軍対王都連合軍の戦いが始まったのだった。
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