緊急特番決定
「相変わらず、すごいなぁ。覇権貴族を相手にあんなに完勝できるのはアルス兄さんくらいだろうね」
「事前の戦闘結果の予測から予想は可能でした。バルカ軍がラインザッツ軍に対して勝利する確率は高かったと言えるでしょう」
「そうかもしれないね、アイ。じゃあ、次はボクの番かな。アルス兄さんがいないうちにドーレン王家側はリード軍と戦いたがるだろうし、ラジオを聞いていたんなら尚更早めに動いてきそうだ。ちなみに、アイはリード軍と王都連合軍が戦った場合、どっちが勝つと予想している?」
「リード軍15000対王都連合軍120000が戦えば、後者が勝つと考えられます。リード軍が勝つ確率は低いと予想します」
「これはまた随分辛い予想だね。なら、その予想を覆せるようにボクも頑張らないとね」
ラジオからラジアル平原の合戦についての実況解説が流れていた。
その戦いもすでに終わって、今はその総括を流している。
ここにいるアイとは別のアイが実況するという話だったけど、結局ほとんどバルガスさん任せだったような気もする。
まあ、なんにせよアルス兄さんたちはラインザッツ軍相手に勝利した。
そのことは素直に喜ばしい。
だけど、まだ終わりじゃない。
むしろボクにとっての正念場はここからだろう。
ラインザッツ軍がバルカ相手に用意した100000という軍よりもさらに数が多くなった王都連合軍。
その相手をしなければいけないからだ。
(カイル様、情報が入りました。王都南部に布陣していた王都連合軍に動きあり。リード軍と一戦交えんとして侵攻してくる模様です)
(わかった、ありがとう。こちらも迎え撃つからすぐにリード軍を動かすよ。準備を怠らないようにね)
(了解です)
どうやら、ドーレン王家の動きは早かったようだ。
ドーレン王家、あるいはビスマルク家が新たに擁立した臨時王が号令をかけて集めた貴族の連合軍が王都の南に布陣していた。
その王都連合軍が動き出したと【念話】を使って報告が入る。
やはり、向こうもラジオを聞いていたのだろう。
そして、全会一致でリード軍に対して強襲をかけるとして話がまとまったに違いない。
急いで迎え撃つ準備をしよう。
決戦場所となる予想地点にリード軍を展開させて、ボクは相手を待ち受けることにしたのだった。
※ ※ ※
「おい、アルス。カイルの手伝いにはいかないのか?」
「なに言ってんだよ、バイト兄。王都方面のことはカイルに任せるって話だっただろ? こっちはラインザッツ軍と戦うことに集中して、向こうは向こうでなんとかするって決めていたじゃないか」
「そりゃ最初はそういう話だったさ。けど、もうラインザッツ相手に俺たちは勝ったわけだろ。なら、弟を手伝うために動いてもおかしくないだろうが」
「いや、それよりもこっちはこっちで戦後処理をしないと。ラインザッツ軍でこっちに投降して捕虜になったやつの面倒を見ないといけない。それが終わったら、次はラインザッツ領を切り取りにかかる予定だ。リード軍と合流する予定は無いよ」
「お前、本気かよ? もしも、カイルが負けたらどうするんだ。というか、カイルのことが心配じゃないのかよ?」
「さっきから何言ってるんだよ、バイト兄。もしかして、カイルが負けるとでも思っているのか?」
「わからん。俺だってあいつが負けるとは考えたくはない。けど、向こうも数の違いは大きいだろ。ドーレン王家が招集をかけて集めた王都連合軍は120000を超えるって話だからな。負ける可能性は十分にあるだろうが」
「……そうか。バイト兄でもそう思っているんだったら、それはちょっとまずいな」
「だろ? だから、カイルのところに行こうぜ」
「いや、行かない。というか、それならますます行けないだろ。俺たちが手伝ったら、いつまで経ってもカイルの評価が上がらない。あいつには自分の力で周囲に認められる力を示す必要がある」
ラインザッツ軍との戦いが終わり、その戦後処理をしていた。
そこで、バイト兄が何度も俺に対して言ってくる。
カイルを助けに行こう、と。
そして、その会話の中で思ったこと。
それは、いまだにカイルの評価はそこまで高くないということだった。
実の兄であるバイト兄でさえ、カイルのことが心配で、相手にする王都連合軍に勝てるかどうか不安がっている。
ということは、カイルのことを知らない連中からしたら余計にそうなのだろう。
これはちょっと問題かもしれない。
というのも、この戦いはドーレン王家とフォンターナ王国の問題であると同時に、リード領の領地切り取りのための戦いでもあるからだ。
この戦いが終わった後には周辺の領地をリード領として切り取り、勢力を拡大するつもりでいる。
だが、そのときに、リード家の当主のカイルの実力が疑問視されたままだというのはまずい。
カイルには実力を示してリード領を広げた後、維持し、さらなる拡大をしてもらいたいのだ。
だというのに、カイルの戦いにまでバルカが首を突っ込んでしまえばどうなるだろうか。
バルカあってこそのリード家だと思われたら、この辺の領地を持つ家の連中がリード家に従いにくくなる可能性もある。
なので、ここでカイルを助けに向かうのは今後のことを考えてデメリットも大きいのだ。
「つっても、ただ勝つだけでも駄目かな。カイルが自分の力を示すなら、それを強烈に印象付けないといけない、か。よし、通信兵、いるか?」
「はい、ここに」
「【念話】でカイルに連絡を取れ。カイルが力を持っていることを知らしめるために、リード軍対王都連合軍の戦いをラジオで実況放送してもいいか聞いてみてくれ」
「了解いたしました」
「へ? おいおい、リード家の戦いもラジオで流すのか、アルス?」
「そうだよ、バイト兄。このままじゃ、リード家の力を周囲に認識してもらえない。なら、もう一度ラジオを使って放送するのはありだと思う。あれは多分、かなり印象を操作できる。勝てばだけどな」
「お前、それは手助けに行くどころか余計にカイルを追い込んでるだけじゃないのか? なんか、めちゃくちゃ厳しいことをするな」
「しょうがないよ。カイルは俺たちにとってかわいい弟だけど、もうリード家という貴族家の当主なんだ。それも他国の王女まで嫁にもらって結婚した立派な男だ。いつまでも子どもじゃない。あいつは自分の力で周囲に認めてもらえるように頑張らないといけないんだよ」
「アルス様、カイル様より返答がありました。リード軍対王都連合軍の戦いのラジオ放送について、承諾した、とのことです」
「よし、そうこなくちゃな。カイルもよくわかっているみたいだ。通信兵、バルカニアに連絡を取れ。緊急放送として、リード軍対王都連合軍の戦いも放送してくれるように伝えてくれ」
どうやら、カイルも現状をしっかりと理解しているようだ。
ここが頑張りどころだとわかっているのだろう。
だからこそ、こちらからの連絡に対して手伝いを頼むこともなく、ラジオ放送も受け入れてきた。
まあ、そうは言ってもやはり心配なのは心配だ。
一応、すぐにでもカイルに何かあれば助けに迎えるように準備だけはしておこう。
こうして、史上初のラジオ実況解説番組は続けざまに新たな戦いを放送することになったのだった。
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