追撃戦
「全員、ヴァルキリーに騎乗したな。出るぞ」
反転攻勢に出たバルカ軍。
壁の外ではすでに騎兵団が出張っており、ヴァルキリーに騎乗した兵が雷鳴剣などを使って相手の数を減らしていた。
そこに、壁の中にいる俺たちが出る。
父さんの掛け声とともにそれまで壁を越えてやってきていたラインザッツ軍を魔銃で迎え撃っていたバルカ軍が前に出た。
そのバルカ軍は全員がヴァルキリーに騎乗していた。
角ありではなく、魔法の使えない角なしだがすべての者がヴァルキリーの背にまたがって駆け出した。
魔銃と骨伝導通信器と合わせて、今回の戦いで試したかったこと。
それは全軍騎兵という構成だった。
フォンターナ軍では工兵や通信兵、あるいは騎兵などと兵科を分けていた。
これは、それまでの軍がただの農民を集めただけの集団を騎士や従士が統率するという非常にシンプルなものから脱却するために導入した新システムだった。
だが、別に何がなんでも兵科を分ける必要があるかと言うとそうでもない。
そう思っていたのだが、フォンターナ軍では全軍騎兵という構成をとることはできなかった。
これは、非常に政治的な問題を含んでいる。
軍の構成員をすべて騎兵にするならぜひともバイト兄の【騎乗術】がほしいところだ。
だが、バルト家は貴族ではない。
バルカ家に仕える騎士家の一つであるバルト家がフォンターナ軍で大きな勢力を持つことになると、他の貴族がいい顔をしなかったというのもある。
それになにより、ヴァルキリーの数が増えたとは言え、フォンターナ軍全員を騎兵にできるだけの数もいなかった。
だが、今ここにいるバルカ軍であれば全軍を騎兵にできる条件が揃っていた。
フォンターナ王国の中でも辺境伯以上の地位についている上位貴族家は独自の軍を作ることが許されている。
その軍をどのような形にするかはその貴族の自由な裁量であり、たとえ王といえども無理は言えない。
なので、バルカ軍は好き勝手に構成させてもらった。
その結果が、全員騎兵という軍につながったわけだ。
「逃げるやつには魔銃を撃ち込め。騎士以上の実力者は魔法剣か【氷精召喚】で対応しろ。とにかく、ラインザッツ軍の足を止めろ。逃げる奴はすべて倒せ」
カイザーヴァルキリーに騎乗し、バルカ軍の先頭を疾走しながら俺はそう叫んだ。
迷宮核と【合成】し、唯一無二の存在となったカイザーヴァルキリー。
こいつはもう絶対に失ってはいけない存在であり、俺は二度と戦場につれてくる気はなかった。
が、カイザーヴァルキリーはそれを嫌がった。
もしかしたら、俺が戦場に連れていかないということを理解していたのかもしれない。
別の角なしヴァルキリーに乗って戦いに行こうと準備していたら、なぜか俺のそばから離れずについてきたのだ。
仕方がないのでこうして今も騎乗している。
まあ、ついてきたものはどうしようもない。
こうなったら、カイザーヴァルキリーのためにも危険な相手は見つけ次第光の剣で排除していくしか無いだろう。
だが、カイザーヴァルキリーはもちろんとして、ヴァルキリーという存在は本当にありがたい。
昔から、俺にとってヴァルキリーというのは最高戦力であり続けている。
そして、この全軍騎兵構成を可能にしたのもヴァルキリーだからこそだ。
もしこれが馬などの臆病な動物ならばもう少し勝手が違っていただろう。
人の言うことをよく聞き、戦場でも恐れず、群れとして一個の群体のように動くことのできるヴァルキリーは優秀すぎる。
しかも、その速度は桁違いに速い。
なにせラインザッツ軍の兵のほとんどが自分の足で走っているのだ。
使役獣に騎乗しているのは貴族や騎士などといった限られた者か、特別に構成された騎兵隊だけなのだ。
なので、多くの兵は歩兵となる。
そして、現在のラインザッツ軍は混乱の極みにあった。
反転攻勢直前に俺が指揮官である当主級のほとんどを光の剣による攻撃で倒していたからだ。
指揮を執るべき存在がいきなりまとめて不在になったうえに、それまで守りに徹していた相手が急に攻撃を仕掛けてきた。
そうなったら、最初こそなんとか押し留めようとしていた兵も我先に逃げ出す。
が、どれほど急いで逃げようとしてもヴァルキリーの足にはかなわない。
というよりも、相手はこちらの軍が全員騎兵になることなど想定すらしていなかっただろう。
なぜならラジアル平原に布陣していた段階のバルカ軍にはこれほどのヴァルキリーはいなかった。
いたのはあくまでもバイト兄が指揮を執る騎兵団のためのヴァルキリーだけだったからこそ、ラインザッツ軍は自軍の両翼を厚くするという陣形をとっていたのだ。
そこに現れた、それまでいなかったはずの騎兵。
これはなにかのトリックというほどのことでもない。
俺が事前に用意していた転送魔法陣を用いて、反転攻勢直前にバルカニアからヴァルキリーたちを転移させてきただけだ。
まあ、相手からしてみれば何がなんだかわからないだろうが、とにかく向こうにとってはそれまで存在しなかった足の早い騎兵の追撃を指揮を執る者がいなくなった状態で迎え入れることになってしまったわけだ。
総崩れとなったラインザッツ軍を追いかけるバルカ軍。
反転攻勢に出た後、ほどなくしてそんな構図が出来上がった。
味方を押しのけて逃げようとするラインザッツ軍の兵たちを後ろから追い立てるようにして、騎乗した状態で魔銃を乱射し続ける。
狙いをつけるのは簡単だった。
なにせ、ヴァルキリーに乗っていない者はすべて倒すべき相手だったからだ。
こうしてラジアル平原で行われたバルカ軍対ラインザッツ軍の戦いはバルカの完勝で幕を下ろしたのだった。
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