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動員

「うはっ、すげえな。お前こんなもんを隠し持ってたのかよ、アルス」


「……ふう、どうやらその様子だと成功したみたいだな。バイト兄以外もみんな魔法が使えるようになっているかな?」


「うむ、拙者も使えるでござるよ。それにしてもすごい数の魔法でござるな」


 魔法陣に集中していた俺はバイト兄の一言で張り詰めていた緊張の糸を途切れさせた。

 やはりこの魔法陣を使うのは神経を使う。

 だが、そのかいはあったようだ。

 俺が命名した5人はすべて新たに俺独自のオリジナル魔法を習得していたのだ。


「よし、これを取引材料に村から戦力を集める。今俺に協力してくれる人には同じようにバルカの名と魔法を授けることにする。みんなで手分けして声をかけてきてくれないか?」


「わかった。早速行ってくるぜ」


「それとおっさんは別行動を頼みたい。なるべく早く街に行って情報を集めてきてくれないか?」


「了解した。とりあえずフォンターナ家がどのくらいの人数を集めるかを調べてみる」


「頼んだ。気をつけてね」


「そりゃこっちのセリフだ。死ぬなよ、アルス」


 さっと手を伸ばしながら行商人のおっさんが言う。

 その手を握り返しながら、もちろんと答えた。

 しかし、死ぬな、か……。

 まさかこんなことを言われる人生を送ることになるとは夢にも思わなかった。

 大変なことになってきたなと思わずにはいられなかった。




 ※ ※ ※




「78人か。結構集まったな」


 その日のうちに村中を駆け回った結果、それなりの人数が集まった。

 みんなが手分けして村中に散らばり、魔法を実演しながら説得してくれたのだ。

 いかに貴族が無理を通そうとし、そのために村の人間でありなんの罪もないカイルを傷つけようとしたのかという若干脚色した話を広めた。

 その上で、俺たちが立ち上がり貴族へと反抗することを宣言する。

 当然、それだけでは村人はドン引きだ。

 そんなことをするやつとはお近づきになりたいはずもない。


 だが、そこで魔法を実際に見せる。

 今なら協力しさえすればこの魔法が使えるようになるし、何なら新しい土地を提供することもいとわない。

 そういう風に感情面とともに実利も提示していったのだ。


 しかし、それだけではそこまで人数が集まらなかった可能性が高いだろう。

 どんなに実利があったとしても権力者に抵抗するというのは並大抵のことではない。

 だが、その問題を突破することができた。

 それは俺たちの持つ村との関係があったのだ。


 俺は森を開拓して自分の土地にしていた。

 そこでの仕事に手が回らなくなり、バイト兄を雇った。

 そのバイト兄だが村の中ではかなりの存在感があったのだ。

 常に喧嘩を繰り返し、成長し続けたバイト兄に腕力で歯向かおうとする人間はいない。

 さらに俺が与えた仕事を貧困にあえぐ子どもたちなどに食べ物などの現物報酬で仕事を割り振ったりもしていた。

 つまり、村の中で若者層と貧困層にすごく顔が利いたのだ。

 かなりの人数を集めてきてくれた。


 マドックさんも木こり連中に話を持ちかけ、人数を集めてくれた。

 こちらはマドックさんの言う通り、俺が行った森林管理の影響を大きく受けている人たちが集まってくれた。

 やはり、以前までのように危険な動物も出たりする森のなかでほそぼそと木を切るだけの生活よりも、今の生活のほうがいいということらしい。

 かつて、マドックさんが木こりが持つ俺への不満を知らせてくれたおかげだと思う。

 日頃から斧を振り回す村でも屈強な男たちがマドックさんを通して、俺のもとに集まってくれたのだ。


 だが、最終的に一番大きな影響を村に与えたのはヘクター兄さんだった。

 ヘクター兄さんというのは俺とバイト兄の兄に当たる男で、父さんから見ると一番最初に生まれた子どもということになる。

 そして、つい先日結婚した人だ。

 実は結婚したと言ってもヘクター兄さんはまだ14歳だったりする。

 これはこの世界の男性と比べても少し早い結婚だ。

 なぜそんなに早く結婚したのか。

 それは結婚相手がゴリ押ししてきたからだった。


 ヘクター兄さんが結婚した相手の家は俺たちの住むバルカ村の村長の家の娘だったのだ。

 以前から虎視眈々と俺の開拓地を狙っていた村長。

 彼はまだ幼い俺ではなく、その家族である兄さんに狙いを定めたのだった。

 いずれ我が家の家長となるヘクター兄さんと婚姻関係を結べば合法的に俺の土地に対して口を挟む権利を得られる。

 そう考えたのだろう。


 しかし、それは早計だったと言わざるを得ない。

 まさか村長も娘が結婚した直後に相手の家が権力者と揉めるとは考えもしていなかっただろう。

 まあ無理もないだろう。

 俺自身も決してそんな考えを持っていなかったのだから。


 だが、村長にとっては不幸な出来事であっても、俺にとってはありがたい結婚関係ということになった。

 お前も連座で殺されるぞ、と村長を脅しつけて村人への協力を要請させたのだ。

 結果として我が家とはあまり縁のない家の人間もそれなりに動員することに成功したのだ。

 そもそも、バルカ村の規模でいうと普段の動員戦力は50人前後くらいだ。

 別に戦のたびに毎回男手がすべて出ていくわけではないからだ。

 まだ成人前の子どもも混ざっているとはいえ、思った以上の人が集まってくれた。

 ぶっちゃけここまでくれば反乱参加者と血縁関係にない人物などこの村には存在しないことになるだろう。

 こうしてバルカ村はあっという間に村全体が貴族へと反抗する土地へと変貌していったのだった。

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