ラジアル平原の合戦開幕
「ラインザッツ軍の前衛部隊、おおよそ10000の兵力軍が2つで計20000が先行しています。この前衛でまずはバルカ軍に対して攻撃を行う模様です」
「どこの貴族の軍だ、アイ?」
「上空から軍旗を確認したところ、サルディア家の軍とハマン家の軍であると思われます。それぞれ、水と風に関する魔法を使用する貴族の軍と言われています」
「ど、どうするんでしょうか、バルガス様? バルカ軍は全部で10000ですよね? ラインザッツ軍の前衛が20000って、それだけで相手の方が倍の数ってことじゃないですか」
「そうだな。それにサルディアもハマンも武闘派として知られる貴族家だ。相手にとって不足はないだろうな。アイ、確認だ。ラインザッツ軍の他の軍はどう動いている? 特に両翼の軍の動きを教えてくれ」
「はい、バルガス・バン・バレス様。ラインザッツ軍の両翼に配置された軍はバルカ軍から大きく距離を取り、厚みをもたせているようです。前衛部隊ほどにはバルカ軍へと押し寄せているわけではありません」
「……なるほどな。バルカの戦い方をよく調べているようだ」
「どういうことですか、バルガス様?」
「ん、いや、ラインザッツ軍はしっかりと相手を調べてから戦いに挑んでいるってことが今の情報だけでも十分分かる。バルカ軍はこれまで幾度も戦場にて戦ってきた。そして、その中でも軍として特に優れているのが機動力だ。相手はそれを警戒して軍を動かしているってことだな」
「機動力を警戒、ですか? それってもしかしてヴァルキリーちゃんに乗った騎兵に備えているということでしょうか?」
「そうだ。バルカには足の速い部隊がいる。バイトが率いている騎兵団は、バルト家のもつ【騎乗術】のおかげで全員が熟練した騎乗技術を持つに至っている。その騎兵隊が外から襲ってくることを防ぐために、あまり突出しないようにしているんだろうな」
ラジアル平原にてバルカ軍とラインザッツ軍の戦いが始まった。
その様子をアイやキリ嬢ちゃんが駒を動かしながら教えてくれる。
それでもわからないところがどうしてもあるため、それらは口頭で確認しながら俺は解説役としてあれこれ喋っていた。
しかし、最初の動きだけを聞いていてもラインザッツ軍がいかにバルカを警戒しているかがよく分かる。
普通ならばラインザッツ軍は油断するのではないかと思う。
なにせ、相手よりも遥かに数が多く、しかも自分たちは歴史ある家柄であり、優秀な魔法も持っているのだ。
圧倒的に数が少ない相手など押しつぶしてやるぜ、といって突っ込んできていてもおかしくはなかった。
だが、そうしなかった上に、相手のこともよく研究して戦いに挑んでいる。
やはり、ラインザッツ軍はそう簡単に勝たせてくれる相手ではないだろう。
油断しない強者というのはそれだけで強いのだから。
「だ、大丈夫なのかな、アルスくんたちは」
「キリ嬢ちゃん、大将は、バルカ軍はラインザッツ軍の前衛の動きを見てどう動いている?」
「え、えっと、あんまり動いていないですね。迎え撃つのかな? あ、あれ? あれは何かな、アイさん? いきなりなにか大きいものが現れたよ」
「バルカ軍に動きがあります。バルカ軍前衛部隊が魔法を発動。【壁建築】を用いて高さのある壁を作り出しました」
「【壁建築】だと? だが、それだけでは数で勝る相手を押し返すことはできないだろうな。ほかにはなにかないのか?」
「バルカ軍の前衛部隊が作り出した壁の後ろで新たに巨大な存在を感知。巨大人型が出現しました。また、それと同時に巨大構造物が隠されていたようです。布陣の内側で布をかぶせて隠していた投石機が目視できます」
「ふむ。巨人と投石機か。ってことは、壁の後ろから遠距離攻撃でラインザッツ軍の数を減らそうっていう魂胆だな」
「わあ、すごい。あれが巨人になったアトモスの戦士たちなんですね。上空から観てもおっきいのがよくわかりますね」
「そういえばキリ嬢ちゃんはタナトスたちを知っているんだよな? アトモスの戦士が巨人化したのは初めて見るのか?」
「そうですよー。今まであんまり見る機会ってなかったかと思います。あ、ラジオを聞いている人たちに説明しようかな。バルカ軍にはアトモスの戦士と呼ばれる東方出身の人たちがいるんだよ。で、その人たちは魔法を使って巨人になるの。すっごい大きくなるから、空からみても分かるくらいかな」
「そうだな。前まではタナトス一人だったが、大将が東方遠征を成功させて、それからアトモスの戦士の数が増えている。で、そいつらが壁の後ろで巨人化したってことは、もしかして投槍攻撃をしているってことか?」
「肯定です。アトモスの戦士らは投槍器を用いてやり投げを行い、ラインザッツ軍に攻撃を加えています」
「すごーい。ものすごく遠くまで槍が飛んでいっているよ。ああ、そっか。だから壁を作ったんだね。あの壁で守りながら、壁の後ろから槍や投石機の石を飛ばして攻撃しているんだ」
「そうだな。それもたまに大将がやる戦法だな。相手の数を減らすには有効な方法だろう。けど、それで減らしきれる規模の相手じゃないぞ。相手は死にものぐるいで前進してきて壁を越えようとしてくるだろう。そのとき、どう対応する気なんだ?」
遠距離攻撃はたしかに有効だ。
だが、投げやりを飛ばしたり、レンガを飛ばして攻撃するのはどちらかと言うと攻城戦での攻撃側だろう。
守りでもそれが有効だろうが、今はしっかりした陣地で籠城しているわけでもない。
ラジアル平原でバルカ軍が作った陣地は別に要塞化していないという話だし、どうするつもりなのだろうか?
「ハマン軍の一部、それに続いてサルディア軍もバルカ軍の作った壁に到達しました。【壁建築】で作られた壁の間を縫うようにしてなおも前進中。それを確認したラインザッツ軍は後方の部隊も送り込む模様です。追加でさらに20000の兵がバルカ軍へと殺到しています」
「おいおい、大丈夫か? バルカの騎兵団の動きはどうなっているんだ、アイ?」
「バイト・バン・バルト様の率いる騎兵団が左右二手に分かれて行動中です。ですが、厚めに配置されたラインザッツ軍を相手に突破は容易ではないようです」
「……まずいな。いくら壁を作って、その後ろから攻撃できる手段があるとはいえ、その数に押し込まれたら負けは確定だぞ」
「それって、バルカ軍の負けってことですか、バルガス様?」
「……言いたくはないが解説役として言うならば、そうなる可能性が高いな。とはいえ、大将がそこまで簡単に負けるとも思えん。このくらいの想定はしていたはずだ。アイ、壁を突破したラインザッツ軍はどこまでバルカ軍に打撃を与えられているんだ?」
「バルカ軍はいくつもの壁を【壁建築】にて作り上げました。その最も外側の壁を越えてバルカ軍に近づいているラインザッツ軍の兵数は現在5000を超えています。そして、そのうちの1200はすでに命を落としました」
「……なに? もうそこまで死んだのか? ラインザッツ軍の兵がか?」
「肯定です。バルカの魔弾の前にラインザッツ軍の死者は増大中。なおも被害が広がっています」
どうでもいいが、事前にどういう作戦をとるのかを大将に聞いておけばよかったと思ってしまう。
いや、聞いたところで作戦を事前に教えることはなかっただろうが、それでもそんなことを考えてしまった。
軍事演習とは違って生き死にが関わる実戦での戦いぶりを解説するというのは、思った以上に疲れるな。
だが、そんな疲れなど許さないというように事態は進行していた。
ラインザッツ軍がすでに多数の戦死者を出しているらしい。
もちろん、それをしているのはバルカ軍だ。
俺はそのバルカ軍がいったい何をしているのかを、アイに確認しながらさらなる解説を続けていくのだった。
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