魔法の相性
「うーん、すごいねー。これがアイさんが見ている風景なのかな? 私にも見えているけど、上空から両軍の布陣が見えるよ」
「……そうか。キリ嬢ちゃんはバルカ賢人の一人だったか。ということは、今、アイが現地でみている風景が見えているのか」
「はい、そうですよ。こう見えて私もすごいんですよ。アルスくんから占星術の腕前を買われてリード家に入っていますし、賢人会議にも出席しているんです。だから、アイさんが見ている風景も現在進行系で見えるんです。すごいですよね」
「ああ、そりゃすごいな。というか、俺は賢人ではないからそれが見えん。悪いがここにある地図に両軍の布陣を駒を使って配置しておいてくれないか? アイも一緒に頼む。ラジオは基本的にこの駒を使った地図を見ながら解説したほうがわかりやすいだろうからな」
「承知いたしました、バルガス・バン・バレス様」
そうだった。
つい忘れていたが、現地にて魔導飛行船から地上を見下ろしているであろうアイの視覚情報をここにいるキリ嬢ちゃんも【共有】できているんだったか。
目の前にいるのに、別の映像も見えているってのはどんな感覚なんだろうな?
情報過多で頭が混乱しそうに思うが、キリ嬢ちゃんもカイルによって名付けされている存在だ。
【並列処理】とやらでいつでも複数のことを考えていても平気らしい。
今までならば、リード家の魔法をそこまで羨ましく思ったこともなかったが、今はほしいと思う。
俺だって現地の情報をこの目で見たい。
ただ、ラジオという声のみを伝えるものを使って放送している以上、見えていないというのもありかもしれない。
そのほうが、情報をわかりやすく伝えられるかもしれないからだ。
そんなことを考えていると、アイとキリ嬢ちゃんが地図上に軍の規模を模した駒を並べ終えた。
この地図もとんでもないものだ。
なにせ、上空から見たラジアル平原そのままの光景が表現されているからだ。
普通の地図はもっと手書きで簡単に線を引いたように描いたようなもので、バルカ製の地図はそれとは比べ物にならないほど細かく描いていると評判だったが、これはそれのはるか上だ。
これならば、駒を動かしていけば直接見えていない俺でも十分現地の状況が把握できる。
「バルガス様、またまた質問いいですか?」
「なんだ、キリ嬢ちゃん? 疑問に思うことはなんでも聞いておいてくれよ。戦が始まったらどれだけ解説できるか俺にもわからんからな」
「えっと、それじゃあ先に聞いておきたいというか、確認です。バルカ軍もラインザッツ軍も貴族や騎士の方々は魔法が使えますよね? バルカ軍の魔法は壁を作ったり、石を飛ばしたりってことですけど、ラインザッツ軍はあの有名な時間を操作する魔法であっていますよね?」
「そうだな。正解だ、と言いたいところだが、半分は間違いかな。確かにバルカは壁や石なんかの土に関する魔法をよく使う。それに対してラインザッツ家の持つ魔法は【超加速】や【刹那】といった時間を操作してくる魔法だ。だが、ラインザッツ軍として見るとそれだけに限らない」
「……えっと、どういうことなんでしょうか?」
「簡単なことだ。ラインザッツ軍はラインザッツ家が率いている軍ではあるが、その中には複数の貴族が存在している。時間操作の魔法を持つ大貴族がほかの貴族家を長い歴史の中で取り込んで、現在のラインザッツ領があるからな。そういうラインザッツ家に従う貴族の部隊は時間操作以外の魔法を使ってくるんだよ」
「あ、そっか。そうですよね。フォンターナ軍だってそうですよね。フォンターナ家の氷の魔法以外にもルービッチ家の【剣術】やエルメス家の【分身】みたいな他の魔法を使うことがあるんでした」
「そうだ。よく知っていたな、キリ嬢ちゃん。普通は貴族家が持つ魔法はある程度限られた系統のものだけだと言われている。だが、大貴族と呼ばれる勢力は違う。当代の覇権貴族と言われるラインザッツ家が引き連れてくる軍で使われる魔法は時間操作以外にもたくさんあるってことさ」
そうだ。
だからこそ、大貴族というのは強い。
いろんな魔法を使える者を組み込んだ軍というのは、往々にして対策が立てにくいものだ。
基本的に、魔法というものは騎士が使うものよりも当主級が使える魔法のほうが強い。
だが、それにも相性というものがある。
例えば、かつてのウルク家とアーバレスト家を比べてみるとそれがわかりやすいかもしれない。
今はなきウルク家には【黒焔】という一度燃やしたら燃え尽きるまで消えない黒い炎を出すという強力無比な魔法があった。
一度でもまともに喰らえば死は確実だと言えるほどの魔法だが、それでもウルク家はアーバレスト家に対しては相性が悪いとされていた。
それはアーバレスト家の持っていた当主級魔法である【遠雷】の攻撃範囲の広さゆえだ。
【遠雷】は天から雷を落として相手を攻撃する。
その魔法攻撃が届く距離は【黒焔】よりも遥かに遠かった。
だからだろうか。
かつて、フォンターナ王国の祖王となられたカルロス様が幼少期にフォンターナが壊滅的な被害にあった戦い。
その時の戦後処理で、フォンターナ家唯一の生き残りである幼いカルロス様を残して、ウルクとアーバレストの間にフォンターナ家の領地が残された。
あれは歴史あるフォンターナ家を存続させるという貴族的な慣習以外にも、ウルクがアーバレストと領地を接するのを嫌がったためではないかと聞いたことがある。
つまり、相性の悪い相手と距離を取るためにあえてフォンターナ家を存続させたというのだ。
また、かつての覇権貴族であるリゾルテ家がラインザッツ家を上回っていたのも魔法による相性が関係していたと言われているし、それを覆したのは三貴族同盟の中で一番勢力が劣っていたパーシバル家であるというのも相性ゆえだ。
なので、大貴族同士が争い合うことになるとこの手の魔法の相性も考えて軍を配置し合うことが多い。
今回のラインザッツ軍で言えば、水を操るサルディア家の軍はどこに配置するだとか、そんなことにも気を配っていることだろう。
「だが、バルカは大貴族とは言えないからな。大将が一代で築き上げた家で、その魔法は土に限定されている。だが、大将の兄であるバイト・バン・バルトは【騎乗術】という魔法を使えるからな。ラインザッツ軍は【騎乗術】を持った騎兵に対する備えを外側に厚く配置して、あとは攻撃力のある主力軍を大将のいる本陣に差し向けるってのが一番基本的な戦術になるだろうな」
「なるほど〜。まあ、総大将のアルスくんを倒しちゃえばバルカに勝利できるし、なんだったらその段階でリード家にも有利を築いたみたいになりますもんね」
「そういうこったな。ま、ようするに大将の戦い方はいろんな魔法を使う相手が次々と襲ってくる中、それを相手よりも少数の軍でどうやって対処しながら勝ちに結びつけるか。それが見どころだな」
「そっかー。人が死ぬ光景さえなければ純粋に面白そうって私も思うんだけどなー。あ、もしかしたらアイさんの見ている風景を私も見ていて精神的に耐えられなかったら一旦退室するかもしれませんが、そのときはよろしくおねがいします」
「ああ、戦場の光景は思った以上に精神を削るからな。気分が悪くなったら無理はするなよ、キリ嬢ちゃん。アイはその点は大丈夫か?」
「はい。問題ありません、バルガス・バン・バレス様」
「ああっ、そうこう言っていると軍が動き始めましたよ、バルガス様。ラインザッツ軍の前のほうがゆっくり動いています」
「お、そうか。ついにいよいよか。こうして解説している身だが、大将には頑張ってもらいたいな。死ぬなよ、大将、バイト」
すでにこちらの準備は万端だ。
戦端が開かれる前にあれこれと話していたら、どうやらついに軍に動きがあったようだ。
まずはラインザッツ軍の前衛が動いていく。
その動きをアイが駒を動かすことで俺に知らせてくれた。
こうして、ラジアル平原での戦いが幕を開けたのだった。
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