戦の目的と条件
「で、情報流出とやらの対策はアルスに任せるとして、だ。それよりも、ラインザッツ家との戦について考えないといけないだろ。どうするつもりなんだ、アルス?」
「……アイが魔導飛行船から集めた情報によると、ラインザッツ家は戦力を10万ほど集めてきたみたいだな。一つの貴族家でそれだけ集められるってのはとんでもねえな」
「ああ、予想よりもかなり多いな。で、こっちの戦力は10万に対して1万程度だ。普通にぶつかれば勝ち目なく押しつぶされることになるぞ?」
「そうだろうな。けど、損害が出ないように散発的に各地で戦うって方法も取りづらい。なんせ、リード家の戦うべき相手は王都圏にもいるからな。俺たちが相手をしきれずにいるラインザッツ軍がリード領に向かうのも、王都に向かうのも避けないといけない」
「ようするに、相手をひきつけて10万全部を相手にしたうえで勝たないといけないってことだな。どういう作戦でいくんだ?」
「……えらく余裕だね、バイト兄。普通ならこの戦は負けるって予想しそうなもんだけど」
「馬鹿言えよ。お前は今までそんなこと言って一度も負けてないだろ。どうせ、今回も勝つための道筋が頭の中にあるんじゃないのか?」
「わお。信頼が厚いね」
アイによる情報収集は航空写真ばりの地形情報だけではなかった。
集めた情報の中にはもちろん、ラインザッツ家の軍の規模もあった。
どうやら、すでにラインザッツ軍はリード領に向けて足を進めているようだ。
10万もの大軍を率いてやってきているというのだから、驚きだろう。
というか、よくもまあそんな数を用意できるものだと思ってしまう。
どこの領地も慢性的に疲弊しているはずだが、やはり大貴族と呼ばれるだけはあると思ってしまった。
とくに、この人数を出せるということと、その人数の腹を満たせる食料が用意できるということに感心する。
フォンターナ王国よりも暖かい気候の土地であるというの多少は関係しているのだろうが、それでも統治者が優秀なのだろうと思った。
そして、ラインザッツ家が厄介なのはその軍の規模だけではない。
使用する魔法が他の貴族とはまた少し違うものだった。
その魔法についても考えておく必要があるだろうか。
「ラインザッツ家の魔法は時間を操作するんだったよな、アルス?」
「そうらしいね、バイト兄。ラインザッツ家の騎士が使うのは【超加速】だ。一時的に自身の周囲の時間の流れを変えることができる。2倍、3倍、あるいはもっと速くなる【超加速】を使いこなして攻撃してくるって話だ」
「速いだけならなんとかなるか?」
「どうだろうな。向こうもただ速いだけの素人ってわけじゃないだろ。歴史ある名門貴族に仕える騎士として鍛えているはずだ。当然、武術の心得もあると思う。バルカの騎士と一対一で向き合ったら、十中八九勝てないだろうね」
「厄介だな。けど、当主級と比べるとまだましか。確か当主級は時間を止めて攻撃してくるんだよな?」
「そうだ。【刹那】とかいう魔法らしいぞ。時間を止めている間に相手を攻撃して首を落とすから、死んだことにも気づかずに終了だそうだ。怖いね」
「それは、……さすがに俺でもその魔法を使われたら勝てないかもな。【氷精召喚】でどこまで戦えるかだけど、相手が魔法を使ったら気が付かないっていうのが厄介だな」
ほんと、嫌んなっちゃうぜ。
こんなんチートだろ、と思ってしまう。
ラインザッツ家は覇権貴族を名乗るだけあってかなり強力な魔法を持っている。
時間を操作する魔法使いが先祖だったようで、当主級などは時間が止まった世界を動き回って攻撃してくるのだとか。
なんて危険な連中なのだろうか。
「しかし、戦わないわけにはいかないってね。ラインザッツ軍がカイル率いるリード軍に向かうのはまずい。リード軍はカイルという頭脳に従って動く一個の集団としては強いけど、こういう特殊な能力の前には相性が悪いだろうしね」
「つっても、バルカ軍が時間操作の魔法に強いわけではないだろ?」
「そうだけど、まあ戦い方次第だろう。とりあえず、こちらの戦略目標はラインザッツ軍への勝利だ。それも引き分け狙いじゃなくて、相手を完膚なきまでに打ち負かす勝利のほうがいい」
「そりゃあ、それができれば一番だけど、なんでなんだ? いつもなら、お前は勝てばなんでもいいって言いそうだけど」
「簡単なことだよ、バイト兄。今回の戦いの目的はラインザッツ家に勝つことだけじゃない。リード家が領地を増やすことにあるんだ。で、もしもラインザッツ領を切り取れたと仮定したとき、その土地がリード家の支配に従うかどうかは勝ち方による。もう一度戦えばラインザッツ軍は勝つかもしれない、みたいな中途半端な戦果では駄目なんだ。領民が持つ歴史的名家かつ現在の覇権貴族であるラインザッツ家への信頼をぶっ潰す勝ち方のほうが望ましい。というわけで、今回は奇襲じゃなくて合戦を選択することになる。正々堂々と正面からぶつかって勝つ。それだけだ」
「面白いな、相変わらず。じゃあ、聞かせてもらおうか。圧倒的多数のラインザッツ軍をどうやって合戦で攻略するのかを」
やるからには徹底的に。
特に今回は勝利だけが全てではない。
その後のことも見据えて戦う必要がある。
そのためには、相手に言い訳する余地を残さないようにしたほうがいい。
ならば、合戦形式で戦いを挑むほうがいいだろう。
俺の持つ勝ちパターンである奇襲ではなく、正式に使者を送り、日時と場所を決めたうえで両軍が布陣を敷いてぶつかり合う。
そうすれば、どちらが勝者かはっきりする。
こうして、俺はバイト兄と作戦を決め、ラインザッツ軍に宣戦布告をしたのだった。
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