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知るべき情報

「私も戦闘の指揮を執るのですか、アルス・バルカ様?」


「いや、アイに指揮権を持たせることはないよ。いくらアイが優秀な思考力を持つと言っても、まだなんの実績もない。指揮権を与えたとしても兵が動かないだろうからな」


「では、なぜ戦の想定をしておくようにと言われたのでしょうか?」


「アイは学習機能があるからな。なんでも覚えられるなら覚えておくのがいい。それは事務的なことに限らずに、戦いについてもそうだからさ」


「わかりました。では、想定されうる状況に基づいて、双方の戦力の確定とそれに基づいた行動指針を割り出し、戦闘結果を計算してみることにします」


 バイト兄を始めとして、バルカ軍の将兵を集めて作戦会議をする。

 王都の南西にあるリシャールの街。

 そして、王都から西にあるラインザッツ領。

 まだ雪が残りつつも、それでも北に位置するフォンターナ王国などよりは早く雪解けが来るこのあたりでは、もうそろそろ軍を動かしても平気な時期になる。

 ラインザッツ家は軍をまとめて西からリード領を目指して、王都の連合軍とこちらをはさみうちにしてくるだろうと考えられた。


 そのために、バルカ軍は西に対して備える形で軍を展開する。

 そして、西から向かってくるラインザッツ家を撃退しようという算段だ。

 ラインザッツ軍をうまく抑えることができれば、その戦績は周囲に影響を与えることだろう。

 王都に集まった複数の貴族からなる連合軍も恐れをなして空中分解する可能性も十分にある。


 そんな対ラインザッツ戦に向けて準備を進めているときに、俺はアイに対して注文をつけたのだ。

 アイもこの戦いの行く末がどうなるか考えておいてほしい、と。

 もちろん、アイには戦での指揮権を付与することはないだろう。

 だが、仮想人格であるアイの目から見て、この戦がどのように映っているかを知りたいというのもあった。


「アルス・バルカ様、情報が足りません。私の持つ知識の中にはいくつもの戦術指南書の記述などがありますが、それらだけで戦の趨勢を予測するには情報が不足しています」


「それは例えば、どんな情報があれば予測精度が上げられると考えられる?」


「まずは地形でしょうか。より詳細な地形を観測する必要があります。また、双方の戦力、およびその構成を把握しなければ予測精度は上がりません」


「さもありなん。じゃあ、魔導飛行船の使用許可を与える。リード領を中心に空を飛び回って地上の地形を観測してきてくれないか、アイ?」


「承知致しました。上空からの地形把握を実行致します」


「ああ、あともう一個追加だ。戦闘結果の予測にはもう一つ重要な知っておきたい要素があるからな」


「もう一つの重要な要素ですか?」


「ああ、なにか分かるか、アイ?」


「不足している情報が多すぎると判断致します。もう一つと限定されるほど候補を絞り切れません」


「そうかもな。ま、なんだ。俺が言いたかったのは天気だよ、アイ。天候は戦の結果に大きく左右する。各地の天気を把握することは実戦での勝敗を左右することになるってことさ」


 どうやら、賢人会議では戦術についての情報をまとめた者もいたらしい。

 古今東西の戦術について書かれた書物や情報に精通した軍事マニア的な人物を何人もバルカに招き入れていたことを思い出した。

 といっても、それらの戦術は実戦的なものから精神論に近いもの、あるいは荒唐無稽なものもある。

 それらをすべてカイザーヴァルキリーにインプットしているらしく、アイがそれらの情報がどの程度正しいかを精査できているのかはわからない。


 が、それでも俺の質問に対して比較的常識的な答えが返ってきていた。

 アイ曰く、現状の情報だけではバルカ軍とラインザッツ軍が戦った際の予想は困難だというのだ。

 それはおおよそ正しいだろう。

 そして、そのために地形把握が重要であるというアイの認識も間違っていない。


 なので、俺はアイに対して魔導飛行船の使用許可を与えた。

 リード家に対して無条件に魔導飛行船を貸し出すつもりはないとカイルに対して言ったが、別に俺が実戦で使わないとは言っていない。

 魔導飛行船を飛ばせて、空から地上を見下ろす。

 その魔導飛行船にアイを乗せていれば、正確な地形を把握できることだろう。


 そして、それと合わせて俺が必要だと思ったのは天気についてだ。

 これは意外と馬鹿にならない。

 雨や雪の状況によって、戦況は大きく変わってくるだろう。

 なので、魔導飛行船を飛ばせた際に各地の天気を把握することも忘れずにやっておきたい。

 できれば、その天気の移り変わりをデータ化して、天気予報もしてみたいところなのだが、いくらなんでもそれは現状では難しいだろうか。

 まあ、いずれは天気予報も可能なようにしていきたいと思う。

 それができれば、もっと農作業の効率が上がると思うからだ。


 こうして、アイを乗せた魔導飛行船を発進させてリード領からラインザッツ領、及び王都圏を中心として広い範囲を飛び回ることになった。

 その結果、アイの持つ情報の中には非常に正確な地形情報が追加されることになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっとこさ追いつきました。 戦争が始まりますね。 ここまでの規模のものは久しぶりでしょうか。 これによりアイがどう成長するか、 楽しみですね。
[気になる点] これでリード軍やバルカ軍は戦術コンピューターまで備えた軍になるのか。 これに勝つには裁きの光を持たなきゃ無理だな。
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