新たな王の擁立
「今度はまた新しい王様が出てきたのか。いい加減、ドーレン王は代わり過ぎだろう」
「そう言ってやるなよ、バイト兄。戦うならばどうしたって神輿が必要だ。王都圏の連中もそれはわかっているからこそ、王都からいなくなった暫定王ではなく、新たな王が必要になったんだろうな」
俺が対応した使者が王都に戻った。
交渉は決裂したというか、話し合いにすらならなかったことを王都にいる貴族連中に説明したのだろう。
そして、その結果、王都圏にいる貴族たちはフォンターナに対して戦うことを選択したらしい。
だが、王都圏にはそもそもの話としてそこまでの武力はない。
一応だが、王都圏を守るための守備力くらいはあるとされていた時期もあったようだが、そんなものはメメント家に好き勝手にされたことからもほとんど機能していないことが明白だろう。
なので、フォンターナ王国と戦うには他からの助力が必要だった。
暫定王を誘拐し、王都に返さない意思を示すフォンターナと戦う。
そのために、周囲の貴族に対して何度目になるかわからない号令をかけて連合軍を構成する。
しかし、それをするためには衰えたとはいえドーレン王の威光というものが必要だった。
たとえ、ドーレン王家に仕える名門貴族といえどもビスマルク家のネームバリューだけでは他の貴族は動かないからだ。
そのために、どうやら王都では新たな王が立てられたらしい。
暫定王シグマ・ドーレンではなく、臨時の王としてドーレン王家の継承権を持つ他の者を王として据えたらしい。
まあ、これもビスマルク家の主導のものだったようだ。
継承権第一位であるシグマの代わりとして擁立したわりには、今度は継承権第五位の者が臨時王になったらしく、その人物はビスマルク家と血縁関係があるらしい。
なんだかんだと言って、フォンターナ王国との戦いだけではなく、王都圏内での貴族間での主導権争いなども発生しているのだろう。
きっとドロドロしたやり取りが行われているに違いないなと思ってしまった。
だが、そのやり取りは一定の効果がきちんとあったらしい。
臨時王の要請に基づいて、ドーレン王家のもとにいくつもの貴族が参集に応えた。
そして、その中には当然のことながらラインザッツ家も含まれている。
ラインザッツ家側がどう思っているかはわからないが、おそらくはすぐにリード領を叩きたいと考えているはずだ。
覇権貴族であるラインザッツ家はドーレン王家と同盟を組んで、その結果、各貴族を主導する立場を手に入れた。
なので、王が誰であるかはどうでもよく、ドーレン王家と連携さえ取れていればいいのだろう。
それにせっかく治安回復に努めていた王都圏付近できな臭い動きが出てきたのであれば、それまでの努力が水泡に帰すことがないように動かざるを得ないのだろう。
おそらくはラインザッツ家はリード領を奪い取ることを目標とするだろう。
リード領を潰して、そこをラインザッツ家のものとしたあとに、フォンターナ王国には改めて暫定王の身柄の返還を要求する。
もともとは、今のリード領は無法地帯として放置気味ではあったが、ラインザッツ家が押さえていたのだ。
失地回復に他の貴族が手伝うというのであれば、それは結局自分たちの利益につながるということになる。
「すぐに戦いになりそうなのか、アルス?」
「臨時王が招集をかけたことで王都には少しずつ各貴族からの軍が集まりつつある。だけど、そっちはリード家が当たる。王都には直接出向かずに、西からリード領を目指して来るであろうラインザッツ家との戦闘はあと半月もせずにありそうって感じかな」
「そのラインザッツ家と戦うのがバルカ軍ってことだよな。けどよ、ラインザッツ家っていう大貴族と戦うのにバルカ軍の戦力は10000くらいだろ? そんなんで足りるのか?」
「ラインザッツ家が出してくる予想戦力は50000〜80000だってことらしいからな。相変わらず、数だけで言えば不利だろうな」
「やっぱりフォンターナ軍に要請をかけたほうがいいんじゃないのか? フォンターナ軍なら本国の守備を考えたとしても数万は出せるだろ?」
「いや、今回の戦いはリード領の拡大も考えている。あんまりフォンターナに力を借りたくないっていうのがあるんだよ。だから、まあ、大変だけどバルカ軍が死ぬ気で頑張るしかないな」
「……まあ、いいさ。それならそれで、俺は戦いに出られるってだけで十分だ。見てろよ、アルス。また、俺が活躍しているところを見せてやるぜ」
「ああ、期待しているよ、バイト兄。でも、バルカ軍は俺が総大将を務めるからね。ちゃんと指示は聞いてくれよな」
「わかっているさ、そんなことは」
バイト兄と今後の方針についてを確認し合う。
やはりというかなんというか、気候が北国であるフォンターナよりも暖かいからか、南の貴族のほうが人口が多い傾向にあるようだ。
ラインザッツ家は今回の戦いで最低50000は出してくるという情報が入っている。
それに対して、バルカが出せるのは10000程度だった。
これでも結構頑張っているほうだろう。
なにせ、若い男児はフォンターナ軍に徴兵で取られるので、その他でバルカ軍を構成して連れてきているのだ。
ちなみにリード軍は15000ほどの数になっている。
これはあくまでもリード家が戦いのメインで、バルカが援軍を出しているという意味もあり、数だけは多いが練兵度は低い。
リード軍にも不安がないわけではないが、そこはカイルの手腕に任せるしかないだろう。
とりあえず、今は自分たちのことだ。
数的不利の状況にあるバルカ軍をどう使って覇権貴族のラインザッツ家に当たるか。
それをしっかりとバイト兄と話し合っていったのだった。
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