表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

599/1265

銀行改革

「アイ、お前にこれから覚えてほしい業務がある」


「なんでしょうか、アルス・バルカ様?」


「アイは金の計算はできるんだよな? それと、人の顔の識別も問題ないな?」


「はい、計算は間違いなく実行可能です。ただ、人の顔は不確定要素があります。絶対に不変のものではありませんから間違える可能性は否定できません」


「なるほど。なら、指紋はどうだ? 人の指にある模様は各個人で皆違うはずだ。これを覚えることで人を間違える可能性は減ると思う。あとはそうだな。目と鼻の位置を結んだ三角形も人によって異なるって聞いたことがある。それを個人識別に使えないかな?」


「指紋と顔の構造関係での識別ですね。それらの情報が正しいかどうか、検証が必要です。検証には時間が必要です」


「わかった。検証してみてくれ」


 アイの体に聖痕を入れた。

 そして、聖痕の刻印されたものを勝手に持ち去ることは禁忌であるとして周知徹底する。

 そんなことをしてから、俺はさらにアイシリーズを増やすことにした。

 カイルが使うリード家用のものとは別に量産して使いたい用途があったからだ。


 そうして作り上げた新たなアイに俺が尋ねる。

 俺の求める業務ができるかどうかについてだった。

 このとき、一番重要になるのが個人を識別する方法だった。

 アイはこれまで普通にシャーロット城で仕事を覚え始めていたので問題ないかと思っていたが、それでも個々人の顔の識別などには不確定要素があったらしい。


 まあ、それはそうか。

 人は怪我をすることもある。

 例えば、火事などで皮膚が広い範囲で損傷を受けてしまえば、その前と後で容姿は大きく異なることになるだろう。

 その際に、顔だけで同一人物であるかどうかを識別するのは俺だってできないかもしれない。


 なので、アイには指紋のことや、顔認証についてを教えることにした。

 また、後で思い出した声紋鑑定や筆跡鑑定などもできないかどうかを提案してみた。

 これらのことが実現できれば、アイは個人を確実に識別することができるだろう。

 そうすれば、俺が求める仕事ができるかもしれない。


「アルス・バルカ様はアイにどのような仕事を求めているのでしょうか?」


「よく聞いてくれた。アイにやってほしいのは銀行業務だよ」


「銀行、ですか? アルス・バルカ様はバルカ銀行を所有していると記憶しています。そのバルカ銀行でしょうか」


「そうだ。それで間違いないよ、アイ。アイにやってほしいのは銀行での仕事でいちばん重要な出入金の管理だ」


 指紋や顔認証、声紋鑑定に筆跡鑑定などなど。

 それらを行使して相手の存在を確実に判定できるのであれば、アイにやってほしい仕事があった。

 それがバルカ銀行でのお金の管理だった。


 俺が持つバルカ銀行にはいろんな仕事がある。

 一つはタロウシリーズの錬銀術を使っての貨幣製造だ。

 鉄を銀に変えるという変わった魔法を使える白い犬人の力で、バルカ銀行は潤沢な銀を保有し、それを貨幣にしている。

 つまり、バルカ銀行の一番の仕事は中央銀行のような役割であるということだ。


 だが、それ以外にも普通に貸付をしていたり、預金システムも導入している。

 バルカ銀行が国債のような意味合いを持つバルカ銀行券を発行してお金を借りていたり、あるいは、どこかの貴族や騎士、あるいは教会などに貸付していたり、一般人からも金を預かっている。

 しかし、その業務はかなり限定的なものだった。


 というのも、お金として流通している貨幣が硬貨であるという点がネックになっていたのだ。

 当たり前だが銀や金、あるいは他の金属でできた貨幣というのは重たい。

 価値のある重量物を持ち運ぶのはなかなかに大変だし、移動中に奪われる可能性がないとは言えない。

 そのために、バルカ銀行はバルカの領地にある大きな街のほかはフォンターナの街くらいにしか支店を置けていなかったのだ。


 基本的にはその土地にある銀行の支店になるべく防犯機能をもたせた金庫を用意しておき、そこで金を保管・管理する。

 バルカ銀行の預金口座に金を預けても、原則的にはその街の支店でしか金を出金できなかった。

 もしも、他の土地にある支店で金を下ろすとなれば、事前に連絡などを入れておいて預金残高の確認などをする必要があったため、どうしても時間がかかっていたのだ。


 まあ、それでも今までの高利貸みたいな連中を相手にするよりは遥かにいいと、結構いろんな人が利用していた。

 だが、それもアイがいれば劇的にその仕組みを変えられるだろう。

 なぜなら、アイがいれば個人の識別と預金残高や貸付額、それに伴う利子などの管理がまとめてできるからだ。


 つまり、俺がアイを見て最初に考えたのが、この昔ながらの地元限定の貸し金庫屋から近代的なネットワークシステムを導入した銀行への脱却だったのだ。

 各支店にアイを置き、そのアイに本人確認と金の管理をさせることができれば、いちいち硬貨という重たいものを介さずに金のやり取りが簡潔にできるようになる。

 そうだな、なんかそれっぽい指紋などが入ったカードでも発行すればいいだろうか。

 カードと本人確認ができれば、いつ、どこで、どれだけ金を出したり預けたりしてもいいシステムができればいいだろう。


 それが可能ならば、銀行業務は今よりもかなり簡略化できる。

 そして、それができれば今よりも支店の数を増やしてもいいかもしれない。

 こうして俺はアイを銀行受付嬢にするために、いろいろと教え込んでいったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひブックマークや評価などをお願いします。

評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本作の書籍版がただいま発売中です。

第一巻~第六巻まで絶賛発売中です。

また、コミカライズ第一~二巻も発売中です。

下の画像をクリックすると案内ページへとリンクしていますので、ぜひ一度ご覧になってください。

i000000
― 新着の感想 ―
[一言] これは銀行に勤める人が職からあぶれてしまう、そういう現実でもある話を盛り込んだ社会派小説だった?
[一言] 異世界の産業革命ここに極まれり! ってか、アイちゃん、一家に一台メイドロボ?として売り出される日も近いかも? バルカ印メイドロボット爆誕! 本当、有能すぎる…
[一言] アイの応用で魔装兵器を造ればカイルの命令に絶対遵守で臨機応変に対応できる巨神兵軍団が作れるから覇権貴族相手でも無双しそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ