子孫のために
「……と、いうわけだ。どうする、カイル? フォンターナ本国に救援要請を出すか?」
フォンターナの街でリオンと話した内容について、今度はカイルと話している。
再び、転送魔法陣を用いて移動して南にあるリード領にやってきたのだ。
最近は頻繁に移動を繰り返していて、結構忙しいなと思ってしまう。
俺はカイルにリオンが言っていた内容を伝えて、今後カイルがどう動くのかを確認することにした。
リオンの考えはフォンターナ王国という立場から非常に合理的なものだった。
ドーレン王に対して継承権を戻して正当な王位につける。
そして、そんな王位を得たシグマ・ドーレン王相手にフォンターナに有利な条件で取引を持ちかける。
これは実際には取引に応じる姿勢を示さなければ継承権を戻すことがないので、ほとんど相手は言いなりになるだろう。
だが、そんなことをすれば王都圏に残る貴族やラインザッツ家、あるいはほかの独立した貴族たちも反発することだろう。
そして、その反発はフォンターナに向かっていくが、その向かう先は一番王都に近いリード領になることは明白だ。
リード家はいかにしてそれを乗り切るか。
もしも、フォンターナ軍に出動要請をかけることになれば、それはそれでリード家に力がないことを自ら証明することにもなるし、フォンターナ側に借りをつくることにもなり、今後何かあればそれを理由にいろいろ言われるかもしれない。
そのへんのことを考えて、カイルは行動していかなければならない。
それを本人の口から確認するためにも、俺はカイルのもとへと尋ねてきたのだ。
「えっと、今のところ、フォンターナ軍に救援要請は出さないかな。まだ王都圏に動きは見られないみたいだからね。それでも、備えておく必要はあるだろうけど」
「相手が動いてきた場合は?」
「その場合は救援要請を出すかもしれないね。けど、それはフォンターナ軍じゃないだろうけど」
「……わかった。なら、こっちも準備だけはしておくよ、カイル」
カイルの意思を確認する。
カイルは基本的にフォンターナ軍に対して助けを求めるつもりはないと言った。
うん、それがいいだろう。
わざわざ、フォンターナ王家に借りを作る必要もないしな。
王国を構成する王家と貴族の関係。
それは商店街に例えるとわかりやすいかもしれない。
フォンターナ商店街の会長を務めているのがフォンターナ王であり、その商店街で店を開いている店のオーナーが貴族といった感じだ。
商店街全体の運営については会長が陣頭指揮を執ることになっており、それは各店舗が認めている。
だが、それぞれの店はあくまでもその店のオーナーである貴族のもので、店の経営方針に会長が口を突っ込んでくることは越権行為と見做される。
リオンがリード家に対して「向こうが救援要請してきたら助ける」と言ったのはこのためだ。
たとえ店の経営がどんな状況だろうと、それは各店舗の責任であり、決してフォンターナ王国がズカズカと上がりこんできていい問題ではない。
そして、それは反対に救援要請についても同様だった。
リード家が危機にひんしたときにどこに救援を依頼するか。
それはあくまでもリード家当主のカイルによって決められる。
絶対にフォンターナ王家に助けを求めなければならないというわけではないのだ。
どうやら、カイルはあまりフォンターナに頼るつもりはないようだ。
では、どこに助力を頼むのか。
こういうときに、最初に助けを求めるのはやはり血を分けた兄弟だということなのだろう。
「なら、逆にこれをいい機会と捉えたほうがいいだろうな。リード領をでかくするか、カイル?」
「そうだね。というか、最初からそういう意図があったんでしょ、アルス兄さん? バルカ家の未来を守るためにも、リード家を大きくしようと思っていたんじゃないの?」
「まあな。このままだと、バルカ家、というか息子のアルフォードやその子孫がどうなるかわかったもんじゃないからな」
いざとなれば、カイルはフォンターナ軍ではなくバルカへと助けを求めることになるだろう。
そして、それをこちらが断ることはない。
カイル率いるリード家を助けて、そしてリード領を一気に拡大させてしまうこともありだろう。
それは取りも直さず、バルカ家の未来を助けることにもつながると思う。
バルカ家の将来。
俺は息子のアルフォードに対して家督を譲ったころから、そんなことを考えるようになっていた。
俺の子どもやその子孫は今後どんな未来をたどっていくことになるだろうか、と思わずにはいられないのだ。
そして、そんな未来のことを考えると、どうしてもあまりいいイメージは浮かばなかった。
フォンターナ家を独立させ王国とし、そして大勢力までのしあげたバルカの実績。
それは、フォンターナ王国の他の貴族や騎士からすると歓迎することでもあり、そして目障りでもあるだろう。
もし、俺がなんらかの事態で死んで、この世から退場してしまったらどうなるだろうか、といつも思う。
その場合、バルカ家は味方である周囲の者たちから骨の髄までしゃぶり尽くされてしまうのではないだろうか。
あの手この手を使って、理由をつけて、奪い取っていく。
例えばバルカ銀行や、魔導列車、魔導飛行船、アトモスフィア、天界バルカニアなど、他の者たちからすれば喉から手が出るほど欲しがるものはいくらでもある。
もしも、バルカ家がその政略争いに負けて衰退したら、どうなるか。
力だけでのし上がり幾多の人の命を奪ったアルス・バルカの子孫は危険視されないだろうか。
もともとが農民出身であるということもあり、もしかすると誅殺されることになるかもしれない。
そんなことを思ってしまうのだ。
では、それを回避するにはどうするべきか。
一つは俺が長生きすることだろう。
もしかしたら、【回復】の使い方で俺は寿命から解放されて、神の使徒ばりに長生きできる可能性もある。
が、本当にそうなのかは今のところ確認が取れないのだ。
実はちょっと他の人よりも老けにくいだけで、実際にはしっかりと肉体が歳をとっている可能性も否定できない。
それになによりも、不老であっても不死になるわけではないのだ。
なんらかの出来事で死んでしまう可能性は十分にある。
で、あればバルカ家の未来を守るためには周囲の貴族から何かを言われても自分たちを守り通せるだけの力があればいい。
だが、だからといって無茶苦茶にバルカの領地を増やすのもためらわれた。
フォンターナ王国の中で力も実績もある俺が、自己保身のためにもどんどんと領地を増やせばそれを周囲がどうみるか。
もしかしたら、フォンターナ王家を差し置いて良からぬことを考えているのではないか。
そう思われる危険性もあったのだ。
なので、今まではあえてバルカ家の領地を積極的には増やしてこなかった。
俺のこれまでの実績だけを考えれば、もっと領地を増やしていてもおかしくはないと言われながら、それでも領地の拡大は押さえて技術開発などに勤しんできたのだ。
だが、その状況も変わった。
カイルがリード家の当主として、ガロードという国王から直接領地の切り取り自由を言い渡されたからだ。
攻撃魔法を持たないカイルの存在はフォンターナの中でも扱いが微妙だ。
便利な魔法を持ち、フォンターナ軍に勤務しているときには将軍として采配をふるい、見事な戦績を残してきたカイル。
だが、リード家などというものはそれまで存在せずに、基本的にはカイル個人の有能さしかみるべきところがない状態だったのだ。
なので、バルカ家を危険視しているフォンターナ内の貴族や騎士もリード家が領地を増やそうとしてもさほど気にはしない、という状況になっている。
これを利用しない手はないだろう。
ここでリード家の領地を増やして、フォンターナ国内で大きな勢力となることができれば、それはバルカ家にとってもメリットとなる。
国内で親バルカ派として勢力の大きいリード家を用意しておくことは、俺の子孫たちを守ることに繋がるはずだ。
まあ、それでもいろいろ言い出したらきりがないだろうが、後はその時の子孫に任せるしかない。
なんにせよ、今できることは切り取り自由を得ているリード領を守り、増やせるだけの準備をしておこうというものだった。
こうして、俺はカイルと意見を一致させてから、リード領の強化に力を入れることにしたのだった。
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