行動選択
「アルスっ! カイルは無事なのか?」
「バイト兄か……、大丈夫だ、気を失ってるだけだよ」
意識を失って倒れているカイルを家のベッドに寝かせているとドタドタという足音がしてバイト兄が入ってきた。
どうやら話を聞いてすぐに飛んできてくれたのだろう。
ゼーゼーと息を切らしながらもカイルの安否を確認する。
地に伏したカイルは血溜まりの上にいた。
それを見たとき、俺はカイルが兵士の持つ剣によって切られてしまったものだとばかり思っていた。
だが、どうやら違ったようだ。
カイルの体には切り傷や刺し傷などは一切なかった。
どうやらヴァルキリーが守ってくれたようだ。
おそらくだが、勝手にヴァルキリーに乗ろうとした兵士を見てカイルが止めたのだろう。
それに怒った兵士が剣を抜き、カイルへと切りかかった。
だが、それをヴァルキリーが身をていして止めたのだ。
カイルを押すようにして兵士との間に入ったヴァルキリー。
その衝撃で大きな音とともにカイルは地面へと倒れ、ヴァルキリーは額に傷を負った。
床に広がっていたのはヴァルキリーの血だったのだ。
「そうか、だけどお前の方は大丈夫なのか、アルス?」
「ちょっと落ち着いてきたかな。とりあえず、この問題は放置できない。他の人の意見も聞きたいから人を呼んでる」
「……そうか、ならいい」
バイト兄が大丈夫かと言ってきたのは、俺の精神面のことだろう。
だが、あえて俺はその質問への返答をずらして答えた。
俺が散弾で攻撃した兵士は即死だった。
あまりそのことについて考えたくなかったのだ。
そうして、しばらくすると俺が呼んだ連中が集まってきたのだった。
※ ※ ※
「……というわけで徴税にきた連中の兵士の一人を殺してしまった。当然向こうが要求してきたことも返答せず、追い返した。今後、どうなると思う?」
「やっぱり、どう考えてもお咎め無しというわけにはいかないだろうな。多分、フォンターナ家に報告がいったら兵隊を集めてこっちに向かってくると思うぞ」
俺はとりあえず今後どうするかを考えるために人を集め、話し始めた。
行商人のおっさんが俺の質問に答える。
「……ここを捨てて逃げるのも考えないといけないかな?」
「それもひとつの案でござろう。他の貴族が治める土地に逃げ込めばなんとかなる可能性は十分あると思うでござるよ」
「フォンターナ家が引き渡しを要求したりするんじゃないのか?」
「するでござろうな。ただ、ここの貴族と関係の良くない貴族であればそんなものを聞き入れないと思うでござるよ。なにせアルス殿は貴重な使役獣を孵化させることができるのでござる。むしろ引く手数多でござろうな」
「そういうものなのか。なら最後の手段としては逃げることも考えといたほうがいいだろうな」
「その時は拙者が案内をするでござるよ。ただ、もしそういったふうに庇護を求めたら結局その貴族に『保護』されるというのは変わりないのでござる」
そうなんだよな。
逃げれば命は助かるかもしれない。
だが、結局は俺の自由はなくなるということになるだろう。
死なないのであればいいだろうとも思うが、自由を奪われた生活は死んでいるのと同じではないのだろうか。
「何いってんだよ。こうなったら徹底抗戦だろ。お前、ここが奪われてもいいのか。なんのために頑張ってきたんだ!!」
「バイト兄……」
「それにお前は兵士を殺したんだぞ。次に来る兵士が俺たち親戚関係まで一人残らず捕まえるに決まってるだろ。カイルも今度こそ殺されるかもしれないんだぞ。なら、戦わなくてどうすんだよ!」
「バイト兄、そうは言うけどな、どうやって戦うんだよ。俺ひとりでいくら魔法を使ったって、さすがに兵士がたくさんいたら勝てるわけないんだぞ」
「バカにすんなよ。俺も一緒に戦うに決まってんだろ。弟を守るのは兄貴の仕事だ!」
「……アルス、お主が立ち上がるというのであればわしも協力するぞ」
「え、マドックさんが? 呼び出しといてなんだけど、マドックさんはこの件に関係ないだろ?」
「わしはお主が小さいときからずっと見てきたんじゃ。言ってみれば孫のような存在じゃよ。それが貴族様相手とはいえ、殺されかねんのじゃ。助けてやりたいと思うのはそんなに不思議か?」
俺のことをそこまで思ってくれてたのか。
だが、それだけでわざわざ権力者に歯向かおうとするものだろうか。
「それに今我ら木こりの生活が充実し始めているのはお主のおかげじゃからな。お主が森を整備して、安全な場所に木材を保管して、家具や木炭づくりを始めたから、みんな食べるものに困らなくなってきたんじゃ。今となっては、もうかつての生活に戻りたいとは思わん。言ってみれば、お主は我ら木こりの中心人物なんじゃよ。なら、命をかけてでもお主のことを助けてやらんとな」
「ありがとう、マドックさん」
「あー、くそ。他の人がそこまで言っているのに親である俺がなんにもしないわけにはいかないだろ。アルス、父さんも腹をくくった。一緒にやってやるよ。お前はともかく母さんたちは父さんが守らなきゃいけないからな」
「父さんも……、ほんとにいいの?」
「ああ、男に二言はない」
まじかよ。
俺が呼び集めたのは自分の味方をしてくれそうな人ばかりだったのだが、まさかここまで味方してくれるとは。
だが、それもいいかもしれない。
みんなには悪いが、俺は貴族のような連中に自由を奪われて生活するのは嫌だ。
この世界でこれまで貧乏農家に生まれてもそれなりに楽しく暮らしてこられたのは、俺が自由気ままにやってきたからだ。
その生活をこれからもしていくにはどうやら戦うしかないらしい。
なら、俺も決めるしかない。
自由を得るため、家族を守るためにも、貴族と戦うことを。
こうして、俺はいずれ来るであろう兵隊を撃退するために急いで行動を開始したのだった。
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