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身代わり

「あ、きたきた。なんか大変だったみたいだよ、アルス兄さん。王都で急に襲われて、命からがら逃げ延びてきたんだって」


「……え? 生きてんのか、あの爺さんは」


「うん。なんとかね。と言っても、ここに運ばれてきたときにはかなり重篤な状態だったみたいだよ。ちょうどミリアリア枢機卿がこのリシャールの街にいたから【回復】をかけてもらって一命をとりとめたんだって」


「本当に生きているのか、カイル? リオンが王都の情報を手に入れたときにはヨーゼフ殿が命を落としたって言っていたんだけどな」


「グレイテッド家の魔法らしいね。【身代わり】っていう呪文を使っていたらしいんだ」


「あれは他者への攻撃を防ぐ効果なんじゃないのか? 確か、ヨーゼフ殿はドーレン王に対して【身代わり】を使っているって言ってたように思うけど」


「うん、そうだよ。だけど、グレイテッド家はヨーゼフ殿だけじゃないからね。他の人がヨーゼフ殿に対して【身代わり】を使用していたらしいんだ。それで、なんとか無事だったらしい」


 王都でヨーゼフが殺された。

 フォンターナの街でリオンにそう聞かされた俺は、すぐにリシャールの街に向かった。

 そして、そこでカイルに別のことを聞かされた。


 ヨーゼフは生きているらしい。

 王都圏にて代々ドーレン王家に仕えてきていたグレイテッド家。

 基本的に王都圏にいる魔法を使う貴族家は文化系の魔法を持っていることが多い。

 が、かといって全く戦闘に不向きな貴族家ばかりではなかった。

 グレイテッド家はその少ない例外であり、しかも、珍しいことに他者を守るための魔法を使えるようなのだ。


 【身代わり】という魔法。

 これを守りたい人に対して使用している最中に、対象が攻撃を受けた場合、魔法使用者がその攻撃を肩代わりするらしい。

 が、これはちょっと効果が曖昧な感じだそうだ。

 攻撃のダメージを肩代わりするといっても、攻撃を受けた者が無傷ですむものではなく、むしろ普通に傷がつくのだそうだ。

 なので、王都で周囲を説得中のヨーゼフがビスマルク家の当主から剣で斬りかかられた時には、ヨーゼフの体は間違いなくスパッと切られていたのだという。


 そのためにヨーゼフは致命傷を負った。

 誰がどう見ても死んでいるとしか思えない傷を受けたのだそうだ。

 そして、それをみて周囲の者がヨーゼフの死の情報を広げ、それがリオンの耳に入ってきたのだろう。


 だが、ヨーゼフは生きていた。

 グレイテッド家があらかじめ【身代わり】を使用していたからだ。

 どうやら、俺もリオンもこの魔法のことを勘違いしていたようだ。

 俺はてっきりダメージを本人の代わりに受ける魔法なのかと思っていたがそうではない。

 なんというか、生命力を分担するという効果があるらしいのだ。

 致命傷を負ったヨーゼフだが、他のグレイテッド家の人間が【身代わり】によって本来失われるはずだった生命力の残量を負担し、瀕死の重傷程度で済んだらしい。

 あんまりよくわからんが、きっとHPが1残ったとかそんな感じだったのだろう。


「で、今にも死にそうになっているヨーゼフ殿をグレイテッド家の連中がここまで連れて逃げてきて、ミリアリア枢機卿の【回復】を受けて助かった、と。まあ、なんにしても無事で良かったよ。俺もちょっと責任を感じていたし」


「じゃあ、そんなアルス兄さんもヨーゼフ殿に【回復】をかけてあげたら? ミリアリア枢機卿が言うには、一命をとりとめただけで体についた傷は大きくてまだ少し心配かもって言っていたし」


「あ、そうなんだ。よし、わかった。案内してくれ、カイル。【回復】しにいこう」


 見ていた者たちから死んだと思われていたヨーゼフ。

 そのヨーゼフは襲われた直後にグレイテッド家の者たちに連れ出され、そしてまだかろうじて生きていることが判明した。

 そのため、すぐにグレイテッド家は行動に出たのだそうだ。


 騎竜に車を牽かせて王都を脱し、リシャールの街を目指したのだという。

 秘伝の薬などを使い、傷の治療をしたがそれでも傷は深く、簡単には治りそうもなかった。

 そんな重症の傷を治すには教会を頼るしかない。

 が、ビスマルク家を始め王都の他の貴族家たちがどんな妨害をしてくるかもわからない。

 ゆえに、王都での治療を断念してリシャールの街へと駆け込んできたのだそうだ。


 そして、そこで天空霊園から降りてきていたミリアリアが【回復】を使用した。

 これで、致命傷だったのがなんとか死なずにすみ、回復に向かったのだという。

 ただ、完全ではないらしい。

 そのために、俺は改めて【回復】をかけるためにヨーゼフが休んでいる部屋へと案内してもらうことにしたのだった。


 しかし、なるほどと思ってしまった。

 【身代わり】という魔法を持っていたがゆえに、グレイテッド家はドーレン王家に長年仕え続け、そして王都圏でも影響力の大きな家柄で居られたのか。

 そして、以前あった先々代ドーレン王の襲撃事件で責任を取らされたというのも分かる。

 本来、王が命を落とすことなどあっていいはずがなかったのだろう。

 【身代わり】を使用していれば、たとえ攻撃を受けてもグレイテッド家の者が先に死んでいたはずなのだ。

 そして、その僅かな時間でも稼げれば、教会に逃げ込んで【回復】をかけさせられる。


 だというのに、王が死に、ヨーゼフは生き残ってしまった。

 おそらくは意図してのことではなかったのだとは思う。

 が、政局争いで大きく失脚するほどの失態であったのは間違いないのだろう。

 そんなことがあったからこそ、ヨーゼフという老貴族は汚名を返上するためにも現ドーレン王に忠義を尽くしていたのだろう。


 俺は案内された部屋で眠るヨーゼフに向かって【回復】の呪文を唱え、その傷を完全に治したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先代の時は魔法無効化をされていたはずなので、身代わりが効果を発揮しなかった。今代は身代わりを使える者がヨーゼフの失脚と共に遠ざけられていた…とかかな? 後使用にはある程度の距離にいないとダ…
[気になる点] 聖女様ですらパーフェクトヒール未修得でしたか… パウロ教皇の元に集まった教会関係者達はお仕事あるのかしら?それでも暇をみつけて人体のお勉強始めるべきでしょ~に。
[一言] 身代わりの魔法って敵が知らなければ、死を偽装できて有効かもしれないけど、知ってたら、瀕死の人に再度とどめをさして終了というあまり使えない魔法に感じる。
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