リオンの考え
「国際法かぁ。確かにシャーロットたちにそういうのがあるって聞いたけど、意味あるのかな? 誰も守らないんじゃない?」
「まあ、そうかもしれないな、カイル。実際のところは有名無実になるかもしれないと俺も思う」
「じゃあ、なんでそんなものを作ろうだなんて提案したの?」
「あくまでもラインザッツ家への説得材料の一つだしな。けど、いい加減、いつまでも争い合うのは大変だからな。国ごとの決まりを作って争いを減らしたいという気持ちは本当にあるんだよ」
ヨーゼフが王都に戻っていった。
それを見送った後、リシャールの街でカイルに対しても先程の話を説明する。
するとやはり、予想された答えが返ってきた。
国際法なんて意味あるのか、と言われたのだ。
これはやってみる価値がある、と思うのだが結局はあまり意味をなさないかもしれないとは俺も思っている。
国際法を破って戦端が開かれるなど当たり前で、あるいは逆に法の裏をかいくぐって奇襲を仕掛けるなどもあるかもしれない。
が、それでもやはりルールというのはあったほうがいいだろう。
これは例えば戦後処理などにも役立つかもしれないと思うからだ。
戦いがあり、勝ったほうがなんでも好きなことができるとなると結構過激なことになる可能性もある。
実際に王都ではメメント家が占拠した際にいろんな問題を起こした。
そういうのを防ぐためにも占領地の扱いや戦後の賠償問題、あるいは捕虜の扱いなども規定してしまったほうがいいだろう。
そういう意味では身を持って無法者たちの怖さを体験した王都圏の貴族たちはこの国際法の制定に賛成してくれるかもしれない。
そして、ラインザッツ家は少なくとも国際法の制定に際して話し合いの場に現れるのではないかと思う。
こちらは、今まで苦労が多かったから見込みはある。
ラインザッツ家が王家になり、そしてその地位はドーレン王家やフォンターナ王家と少なくとも同格になると認められるのであれば、国際法を守る気がなくともこの話には乗ってくると思うのだ。
ラインザッツ家がそうやって話し合いに加わる気を見せるだけでも十分だ。
そうすれば少なくとも和解には賛同することに繋がるのだから。
だが、国際法を本気で作りたいのであれば他にも参加を呼びかけるべきだろう。
例えば、ドーレン王家は現在も認めていないがリゾルテ家も王家を名乗り、リゾルテ王国を作っている。
それに、衰えたとは言えまだ自領にて勢力を維持しているメメント家も健在だ。
あそこの扱いをどうするかも考えておかねばならないだろう。
「というか、フォンターナ王国としてはそれに賛同するのかな? フォンターナにとっても利益があるかどうかは微妙なところじゃない?」
「うーん、どうだろうな。リオンには一応相談してみるよ。あとは評議会で検討するくらいだろうな」
ラインザッツ家を王家として認めて、各国で使える共通の法を作る。
この行為がフォンターナにとってどれほど意味があるのかということをカイルは言いたいのだろう。
確かにそれはある。
フォンターナが外に勢力を伸ばしたいのであれば、下手にその勢いにブレーキとなるものは邪魔なだけだろう。
だが、まだフォンターナにとっても地力を蓄えたいときではある。
例えば国際法を作り、数年でも時間が稼げるのであればリオンも賛同してくれるのではないだろうか。
そう思って、俺はフォンターナの街に帰り、相談してみることにしたのだった。
※ ※ ※
「国際法ですか? いいですよ。私から評議会に提案しておきましょうか?」
「あれ? そんな簡単に賛同してくれるんだ? てっきり、もうちょっと反対でもされるかと思ったよ、リオン」
「特に反対する必要もないでしょう。それにおそらくはその国際法は守られませんし」
「ん? どういうことだ? 守られそうにもない法を作るのに協力する気になるってのはよくわからんのだが」
「東方で作られた国際法とやらを叩き台にして、こちらで通用する法を作る。多分、制定までに時間がかかるでしょう。お互いの意見をすり合わせて、一致する項目を見つけ出して、それを法としてまとめる。ですが、どれほど苦労をして立派な国際法を作っても、簡単に破る国は出てきます。しかし、それは逆に大義名分になりえるということです」
「なるほど。国際法を破ったからその国を攻める、という理由ができるってことね」
「その通りです。国際法ができて平和になればそれでも構いません。一時的にであっても時間が稼げるのであれば、それもいいでしょう。フォンターナ王国は国力を増大させるいい期間になります。そして、その後に法を破って行動する国が現れればそれを理由に動ける。こちらとしては国際法ができることで動きにくくなることよりも、利点が多いと判断します。法の内容にもよりますけどね」
「じゃあ、リオンから国際法制定の会議に参加する者を見繕っておいてくれないか? おそらく流れ的にはラインザッツ家がドーレン王家とフォンターナ王国の和解を認めて、その後、先代ドーレン王の葬儀をすることになる。その後に各国の首脳部を集めての会議になると思う」
「分かりました。でしたら、そちらも評議会に掛け合っておきましょう。あとは、パウロ教皇にも話を通しておきましょうか。国際法を作るというのであれば教会もその法の中に位置づける必要があるでしょうし」
「たしかにそうだな。戦禁止令やそれを破ったらその土地から教会が撤退する、なんて宣言もしているし、そのための一定基準が必要だって言われていたからな」
フォンターナの街に戻り、リオンへと話をする。
が、思ったよりも簡単に賛成してくれた。
どうやら、リオンとしてはどちらに話がころんだところでフォンターナ側にはメリットが大きいと判断したようだ。
たしかにそうだろうな。
今のところ、フォンターナ側がその決まった法を破ってまで仕掛けなければいけないほどの理由は見当たらないからだ。
むしろ、時間が稼げればそれだけ国力を充実させることができる。
その後に行動したほうがいいという判断なのだろう。
そして、リオンを通して教会の他にもリゾルテ王国などにもこの国際法作りの話を持ちかけることになった。
今年中に国際法制定会議くらいはできるだろうか?
そんなことを考えながらそのための準備をしている時に、急報が届いたのだった。
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