国際法
「分かりました。先代ドーレン王の葬儀もあわせて、ラインザッツ家の処遇について、王都に持ち帰って説得に動こうと思います」
「そうですか。この話がうまくまとまるかどうかはひとえにあなたにかかっています、ヨーゼフ殿。大変でしょうが、よろしくおねがいします」
「……ですが、ラインザッツ家が王家を名乗る許可を出しただけで、和解の件を飲むでしょうか。私としてはまだもうひと押し、なにか説得材料があればと思ってしまうのですが」
「もうひと押しですか? ……そうですね。王を名乗ることを許されて、覇権貴族としての今の立場から転落することが無くなっても、なお気になるというとやはり安全面でしょうか。いつ、フォンターナと敵対して戦になるかわからないということを気にするかもしれません。であれば、それを解決すればよいだけかと」
「……解決できるものでしょうか? 正直、不安は尽きないと思いますが」
「完全に不安を取り去ることは無理でしょうね。ですが、我々は話し合うことができる」
「話し合い、ですか?」
「そうです。いい加減、争い合うのはやめるべきだと私は思っています。そこで、決まり事を作りましょう。フォンターナ王国やドーレン王家、そしてラインザッツ王家などで国際法を作るのです」
「国際法?」
「はい。国と国が不必要に戦線を拡大させないように、決まりを作ります。国と国同士の問題を解決、あるいは行動の制限するための法を規定し、それを遵守することを誓う。そうすれば、その法を無視してフォンターナ王国がラインザッツ王国を攻撃することはなくなります」
ラインザッツ家の説得材料として、王として認めること。
そして、それに合わせて国同士での問題解決プロセスの明文化。
これをヨーゼフに対して提案してみた。
この世界はとかく野蛮だ。
なんと言っても、長い歴史の中でずっと争い合ってきている。
お互いが相手を完全に殲滅するという行為にまでは出ないが、それでも何度も何度も戦い、血を流してもなお争いが続いている。
それはやはり、今までの中で出来上がったシステムが未成熟だったからだと思う。
その一番の原因が覇権貴族という存在にあった。
その時代で現れる強い貴族が他の貴族を圧倒する実力を背景に、ドーレン王家と手を組んで覇権貴族としてトップに立つ。
だが、結局は覇権貴族は絶対的な王者ではない。
いくつもある貴族家や騎士家が問題を起こしたときに首を突っ込んで裁定を下したりはするが、それはあくまでもその覇権貴族の考えが色濃く反映されたものだった。
その覇権貴族と仲が良い家は尊重され、あるいは反目するところに対しては厳しく当たる。
この状況を強引に説明するとしたら、たちの悪い体育会系の部活みたいなものだろうか。
部活内で一番強い者がキャプテンとして部活内のことを仕切るのだ。
部活内で悪さをしたやつは殴る。
言うことを聞かなかったやつは殴る。
空気を読まなかったやつは殴る。
生意気なやつは殴る。
なんかむしゃくしゃしたから殴る。
そうやって、暴力だけを使って部活内の秩序を保っているのだ。
だが、そのキャプテンもいつしか歳を取る。
歳を重ねれば誰だって弱ってくる。
そうしたら、自然とキャプテン交代だ。
新たに頭角を現した者がトップへと躍り出て、次の時代を仕切っていくことになる。
が、やり方は今までとそれほど変わらない。
なにせ、今まで自分が殴られて言うことを聞かされてきたのだから。
だから、自分がリーダーになったときは、同じことを繰り返す。
相手を力でねじ伏せて、言うことを聞かせるようになってしまう。
負の連鎖だ。
こんなことがいつまでも続いていいのかと思う。
いや、よくはないだろう。
だが、その流れを変えることは難しい。
そう思っていたが、少し変化が見られた。
それが、東方にある国々の存在だった。
大雪山という大自然の障壁によって、こちらとはほとんど隔絶した世界。
そこには古来より、無数の国が存在し、そして争いながらもお互いの国同士で取引なども交わしてきたという歴史があったのだ。
旧ドーレン系のこちらとは歴史の流れが違う東方では、国同士の争いに際して一定のルールというものがいつしか作られていたらしい。
もちろん、それは完全なものではないだろう。
近年では帝国などが出現し、各国のパワーバランスは崩れだしていると聞いている。
だが、それでも参考になることが多くあった。
俺はヨーゼフに対して東方で使用されている国と国の間の取り決めのことを説明する。
それはあくまでも東方で発生し、成立した国際法というべきものだった。
それをそのまま、こちらで利用するというのは難しいかもしれない。
だが、それを基に話し合いはできる。
東方の国際法を叩き台にして、国同士での取り決めを決め、それを守ると誓い合う。
カイルがリード領を手に入れて統治したときに感じたこと。
それは無法地帯で各人が好き勝手にやるよりも、法が支配する場所のほうが遥かに生きていきやすいというものだった。
それを庶民レベルから国レベルに話を広げる。
この無法地帯の戦乱続きの世界に落ち着きを取り戻す最低限の法を導入できはしないか。
そう考えて、俺は国際法の制定をヨーゼフに対して訴えたのだった。
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